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739話 尊敬する師匠!

 倒れる二人の所にアルが近寄る。


「デニーロとやら、お主がプラウディアを殺したのは、プラウディアに頼まれたからか?」

「その姿、貴女が魔王アルシオーネ様ですね。その問いには答えられません」


 アルの言葉にデニーロは笑いながら答えた。


「そうか……」


 アルはデニーロにそれ以上、声を掛けなかった。

 何か言いたいことがあったようだが、デニーロの気持ちを考えたのだろう。

 しかし、デニーロはアルの事をプラウディアから聞いていたのは、今の会話から確かだ。


「どっ、どういう事ですか!」


 アルとデニーロの会話を聞いていたレグナムが、アルに質問をする。

 暫く誰も言葉も無く、沈黙が続いた。


「答えて下さい!」


 レグナムが催促する。


「妾が答えても良いのか?」


 アルが倒れているデニーロに向かって聞く。


「……お任せします」


 デニーロは目を閉じて、返事をした。


「プラウディアは、ある者によって【呪詛】を施されていたのじゃ」

「えっ!」

「シャドウタイガーという魔獣の魂を植え付けられておった。最初こそ、シャドウタイガーを制御出来ておったが時間と共に、制御が難しくなっておったのじゃ。お主も心当たりがあるのではないか? 時折、苦しむプラウディアの姿を見たこともあったのではないか?」

「……」


 レグナムは、アルの言葉に思い当たる事があるような表情だった。


「もし、自分が暴走した場合、止める者が居なかった時は妾に殺してくれるようにと頼まれておった」

「そんな……」

「プラウディアは意識が無くなった自分が、無作為に破壊行動を繰り返す事に怯えておった。もっとも、妾は信頼している弟子が自分を殺せなかった時の保険だったがな。デニーロとやら、お主はプラウディアの頼みを苦渋の決断で実行したのじゃろう?」

「さぁ、どうですかね……」


 デニーロは、アルの質問をはぐらかす。


「嘘だ! それが本当なら何故、デニーロはその事を私に言わなかったのですか!」

「師匠を殺していた兄弟子を見たお主に、兄弟子の言葉を信じることが出来たのか?」

「そっ、それは……」

「デニーロがプラウディアを殺した事は事実じゃ。たとえそれが、プラウディアの願いだとしてもじゃ」


 レグナムは黙ったままだ。

 それにデニーロもアルの言葉に、肯定も否定もせずに黙ったままだった。

 俺はデニーロの決意は固いのだろうと思った。

 プラウディアとの約束なのか話すつもりはないようだ。

 

「俺に言った戒めとは、その事か?」


 俺の言葉にも、デニーロは笑うだけだった。

 もう、あまり話す力も残っていないのだろう。


「治療するか?」

「結構です……運命に身を委ねる所存です」


 分かってはいたが、デニーロは俺の申し出を断った。

 多分、俺の予想だがデニーロはレグナムに殺される事を望んでいたのだと思う。

 そうでなければ、レグナムの攻撃を避けなかった理由が説明出来ない。


「レグナム。言いたいことがあれば言っておけよ。デニーロの命も長くないぞ」


  この出血量からも、そう長くはもたないと判断した俺は、レグナムに話し掛けた。


「……師匠を尊敬していましたか?」

「勿論だ。師匠は俺にとって掛け替えのない存在だ」


 レグナムの問いに、デニーロは即答で答えた。


「お前も自慢の弟弟子だよ……」


 レグナムにその言葉を言い残してから暫くして、デニーロは息を引き取った。

 デニーロは、誇り高く尊敬に値する奴だ。

 プラウディアとの約束を決して、口にする事は無く本当に真実を墓場まで持っていった。

 誰にでも出来ることではない。俺はデニーロの姿を見ながら思う。


 戦いが終わった事で、ローレーンはレグナムの所に駆け寄る。


「師匠、しっかりしてください!」

「ローレーン。約束は果たしましたよ」

「分かりましたから! もう、喋らないで下さい」


 ローレーンは泣きながら、レグナムを介抱している。


「しかし、疲れましたね。少しだけ、眠らせてもらいますね」


 レグナムは静かに目を閉じた。


「師匠!」


 ローレーンは、大粒の涙を流しながらレグナムを見ていた。


「……絶対に師匠の事は忘れません」


 鼻声になりながらローレーンは、レグナムの顔を見ながら話す。


「おい! レグナムは死んでいないぞ……」

「えっ!」


 レグナムは本当に寝ているだけだった。

 ローレーンは、レグナムが死んだと勘違いしていたのだろう。


「本当ですか!」

「あぁ、こんな時に嘘をいう訳ないだろう」

「そうですか……良かった」


 ローレーンは又、泣き始めた。

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