738話 兄弟弟子!
何故か、デニーロに会いに行こうとすると、アルとゾリアスも着いて行くようだ。
ネロは用事があると同行しないが、用事が無ければ同行するつもりだったのだろう。
アルが同行する真意は不明だが、いつものように面白半分では無いようだ。
ガルプが絡んでいるからなのだろうか?
ゾリアスは親交は深くは無かったが、共にスラム街で過ごした者という事で何か思うところがあるのだろう。
「じゃあ、行くぞ」
「お願いします」
レグナムは緊張気味に答えた。
後ろのローレーンは複雑な気持ちなのか、暗い表情をしていた。
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デニーロの家には俺とゾリアスの二人で行くことにした。
シロとクロには獣型になってもらい、左腕にシロを抱えて右肩にクロを乗せた。
残りの三人は、少し離れた場所で待機してもらう。
レグナムには必ず連れてくると説得した。
デニーロの家の扉を叩く。
返事が無い。
もう一度、扉を叩くと扉が開いた。
「……ゾリアスか? それに後ろの奴はあの時の人間か……俺に何の用だ?」
「久しぶりだな」
「昔話でもしに来たのか?」
デニーロはそっけない言葉で返す。
「単刀直入に言う。レグナムがお前に会いたがっている」
「……そうか。案内してくれ」
俺が話すと、デニーロは頷いた。
いつか、この日が来ることを分かっていたかのようだった。
「会う理由は分かっているのか?」
「勿論だ。レグナムが俺に会う理由は一つしかない」
そう話すデニーロは、先程までの弱弱しい印象では無くなっていた。
「……こっちだ」
俺が答えるより早く、ゾリアスが答え、歩き始めた。
デニーロの姿を確認したレグナムは、デニーロを睨んでいる。
一方のデニーロは、冷静にレグナムを見ながら歩いていた。
デニーロとの距離が十メートルほどになると、レグナムが叫ぶ。
「デニーロ!」
その声を聞き、デニーロは口角を少しだけ上げる。
「兄弟子を少しは敬えよ」
「師匠を殺しておいて、何が兄弟子だ!」
レグナムの怒りが頂点に達していた。
「文句があるなら、かかってこい!」
その言葉で、レグナムはデニーロに攻撃を仕掛ける。
俺とゾリアスは、攻撃を受けないように、アルとローレーンの隣に移動する。
レグナムの攻撃を、デニーロは簡単に避ける。
兄弟弟子なので、お互いの攻撃が手に取るように分かっているのだろう。
それが何年も会っていなくても、同じだった。
攻撃を上手く受け流す戦い方は同門同士では、意味をなさない。
純粋な駆け引きと力の差で、勝負は決まるだろう。
二人の戦いを俺達は言葉を発することなく、無言で見続けていた。
ローレーンにしてみれば、レグナムの勝利を信じているのがデニーロの実力を見て、心配で仕方が無いと思う。
「ぐぁっ!」
デニーロの攻撃がレグナムに当たり、思わず叫び声をあげる。
「攻撃の癖は直っていないな。あれだけ、師匠から直すように言われただろうに」
「黙れ、師匠を殺したお前が師匠を語るな!」
デニーロの言葉にレグナムは、今迄以上に怒りを露わにして、デニーロに攻撃をする。
しかし、デニーロの攻撃を見る限り、ブランクがあったようには感じなかった。
デニーロも日々、鍛えていたのだろう。
実力で言えば、明らかにレグナムよりも格上だ。
徐々に、レグナムが押され始める。
病気の為、持久力が無いのだと思う。
「師匠、頑張って!」
劣勢のレグナムに向かい、ローレーンが叫んだ。
「レグナム。お前、弟子を取ったのか?」
戦いの最中に、ローレーンを一瞬見てレグナムにデニーロは質問する。
しかし、レグナムはデニーロの質問に答えることなく、攻撃を続ける。
その攻撃も、デニーロには当たらなくなってきていた。
「弱くなったな。弟子の方が強いんじゃないのか?」
「黙れ!」
「弟子より弱い師匠など、意味ないからな」
デニーロは笑いながら、レグナムを挑発する。
「師匠を殺したのも、自分より弱いと思ったからか!」
レグナムは吠える。
優しい口調で、怠け者のレグナムの姿はそこにはなく、師匠の敵を取ろうとする復讐者の姿だった。
「弱者が死ぬのは、当たり前だ。この世界は、弱肉強食だろう。違うか?」
デニーロはレグナムを挑発する。
「黙れ!」
レグナムが渾身の攻撃を繰り出す。
簡単にデニーロが避けるだろうと思っていたが、デニーロは避けなかった。
しかも、攻撃を受ける瞬間に目を瞑っていた。
レグナムの拳がデニーロの体を貫き、その場に倒れる。
「何故!」
攻撃を繰り出したレグナムも戸惑っていた。
今迄、余裕で自分の攻撃を避けていたデニーロに当たるとは思っておらず、避けられると思っていたからだろう。
「ぐふっ!」
レグナムは膝をつき、吐血する。
病魔に侵された体には負担が大きかったようだ。




