732話 迷宮(ダンジョン)!
ルーカス達と別れた俺は、冒険者ギルドに寄って、指名クエストが完了した事を伝える。
クエスト発注は王族なので、特に証明書とかは無いが、報告だけは必要だ。
思っていたより人が多い。
それに受付に人が殺到していた。
受付嬢は、俺を見ると誰かと連絡を取っていた。
多分、相手はジラールだろう。
案の定、俺達が受付に並んでいると声を掛けられて、グラマスの部屋へと案内された。
グラマスの部屋にはジラールとヘレンが居た。
「無事、戻ってこれたようだな」
「まぁ、とりあえずな。それより、何かあったのか?」
「あぁ、ちょっとな」
「グラマス。タクト殿に相談されては、どうですか?」
「そうだな……」
どうやら、迷宮で、冒険者が行方不明になっているそうだ。
この世界に迷宮が、ある事は知っていた。
迷宮に入る理由の多くは、レベルアップの為だ。
地上でレベルアップするには、効率が悪い。
魔物と遭遇する確率は迷宮の方が、断然高い。
それに、死亡した冒険者の武器や、防具を手に入れる事も出来る。
しかし、迷宮によって、階層も違う。
深く潜れば潜る程、敵も強くなる。
極稀に、レアアイテムを入手する事も出来る。
そして、迷宮の最下層には迷宮主が居る。
迷宮主を倒せば、多くの経験値を手に入れる事が出来るが、ダンジョンも無くなる。
三階層くらいであれば、ランクAの冒険者でも単独攻略可能だ。
しかし、迷宮が発見される時は、三階層以上が確定だ。
三階層以上と言うのは、それ以上確認する事が出来ないからだ。
迷宮に入る際は、ギルドで事前申請が必要となり、戻ってきた場合は、その事を報告する必要がある。
今回、騒ぎになっているのは、発見されたばかりの迷宮だ。
基本、迷宮が発見されたら、ギルドが調査を行う。
そして三階層で、その迷宮の難易度を決める。
今回、騒ぎになっているのは、難易度を低めに設定した迷宮に入った冒険者が戻って来ないそうだ。
「単純に難易度を間違えたんじゃないのか?」
「確かに、その可能性もある」
「しかし、ギルドとしても再調査として、ランクAの冒険者四人のパーティーに依頼をした」
「そのパーティーが戻って来ていないという事か?」
「そういう事だ」
迷宮に入る冒険者は多い。
俺が迷宮に入らなかったのは、理由があった。
最初は、迷宮の存在を知らなかった事。
そして、迷宮の存在を知った時には、かなりレベルが高かったので、入る必要が無かった為だ。
「そのパーティーが、たまたま弱かったとかは無いのか?」
「それは、ありません」
ヘレンが否定する。
何度も、ダンジョン確認を依頼しているパーティーの一つなので、弱いという事は無いそうだ。
「それ、俺で無くてもいいんじゃないか?」
「まぁ、そうだが……」
「俺は今、指名クエストを終えたところなんだよ」
「それは分かっている」
ジラールも考えていた。
「受けてもいいが、知りたい情報を教えて欲しい」
「その情報とは、何でしょうか?」
ヘレンが警戒しながら答える。
俺は、冒険者だったプラウディアと、デニーロについての情報を要求した。
「レグナム関係か……」
「知っているのか?」
「あぁ、噂だけはな。レグナムの師匠であるプラウディアは、ランクAの冒険者だし、デニーロもランクAで、いずれランクSになるだろうと噂されていた」
「そうなのか」
「あぁ、しかしプラウディアは突然、冒険者を引退した。その後すぐに、デニーロもクエストを受注することなかったので、規定により冒険者を剥奪された」
ジラールが二人の事を教えてくれた。
「もっとも、俺がグラマスになる前の話だ。それだけ、二人は有名だったという事だ」
「そうか。そういえば、レグナムの弟子の事は知っているか?」
「レグナムの弟子?」
「ローレーンだ」
俺はローレーンが、冒険者登録しているかを確認する。
ローレーンは冒険者登録をしていなかった。
レグナムと違い、規定日数内にクエストをこなす事が困難なので、冒険者登録をしていなかったのだろう。
「その調査を受けるが、ランクに関係なく人選は俺の一存でいいか?」
「どういう事だ?」
俺は、レグナムと冒険者登録をしていないローレーンの三人で調査をする事を伝える。
「そのローレーンという娘は強いのか?」
「実力で言えば、ランクBの上位くらいだろう。それに、オーフェン帝国皇帝の娘だ」
「はっ?」
「んっ?」
「お前、何を言っているか分かっているのか! 万が一の事があれば、国政問題に発展するだろう」
「いや、それは大丈夫だろう」
「駄目だ。到底、受け入れられない」
「しかし、冒険者は誰でもなれるんだろう」
「そうだが……実力がランクBだとしても、それはタクトの主観だろう」
「確かにな……」
「まぁ、迷宮の件は、もう少しギルドで対応して、どうしようも無くなったら、タクトを含めてランクS以上の冒険者に依頼を出すつもりだ」
「依頼が来ない方が幸せだという事だな」
「その通りだ」
結局、プラウディアとデニーロの情報は、少ししか得る事は出来なかった。




