730話 大師匠(師匠の師匠)!
「成程ね。師匠の無念を生きているうちに晴らしたいという事か」
「はい。何故、兄弟子が師匠を殺したのか。そして、逃亡したのかが分からないままですので……」
「お節介かも知れないが、俺もその兄弟子探しに協力しようか?」
「しかし……」
「気にするな。幸い、俺の仲間のシロとクロは、そういうの得意だしな」
「……」
「このまま、死んだら後悔だけが残るんだろう?」
「はい」
「ここで会えたのも、何かの縁だし協力させてくれ」
「分かりました。お言葉に甘えましょう」
「それで、兄弟子の特徴は?」
兄弟子は『デニーロ』と言う名の虎人族で、左目に師匠と戦った時の爪痕が残っているそうだ。
俺は、その特徴を聞いて思い出した人物が居た。
防衛都市ジークのスラムに居た虎人族だ。
俺が【治癒】と【回復】を掛けようとしたが、断られた。
断られた理由が、自分への戒めだった。
レグナムが言った兄弟子と同一人物とは限らないが……。
「もしかしたら、俺はその人物にあったかも知れないぞ」
「本当ですか、何処でですか!」
俺はレグナムに説明する。
詳しい特徴は覚えていないし、会ったのもその一度きりなので、詳しい話を聞きたければ、その人物を紹介すると話した。
その人物とは、ゾリアス達スラム街にいた者達の事だ。
「是非とも御願い出来ますか」
レグナムは今前での穏やかな表情を一変させて、怒りを抑えるような目で俺に頼んできた。
「分かった。しかし、約束事項がある」
「約束ですか?」
「あぁ、その人物達を合わせる為には、そこで見聞きした事を口外しないという事だ」
「そんなに秘密な場所なのですか?」
「秘密という事では、そう捉えて貰っても構わない」
「分かりました。約束しましょう」
「ローレーンも連れて行くのだろう?」
「いいえ、ローレーンには関係のない、私個人の問題ですので……」
「ローレーンは納得しないだろう」
「はい、そうでしょうね」
「その場所と言うのは先程、話をした村になる。ローレーンの為になるとも思うが、どうだ?」
「……分かりました。タクトの言うとおりにしましょう」
俺はレグナムに、師匠の事を聞く。
何故なら、転移者や転生者と言う言葉を知っていたからだ。
もしかしたら、レグナムの師匠が転移者もしくは、転生者の可能性もあるからだ。
レグナムの師匠は『プラウディア』と言う、虎人族の女性だったそうだ。
明るく自由気ままに行動するプラウディアに、弟子であるレグナムは何回迷惑を掛けられたかと話す。
しかし、その表情は嬉しそうだった。
もしかしたら、ローレーンを弟子に取ったのも、プラウディアの面影をローレーンの中に見たのかも知れない。
時折、プラウディアは誰もが知らないような事を話す時があったという。
その度に、「昔は……」とか「前は……」と言っていた。
そして、異様な強さを持つ者とは決して戦わない事。
その場から逃げる事に全神経を集中させるようにと常々、言っていたそうだ。
レグナムは徐々に、プラウディアから修行と称して別行動を取る時間が多くなる。
そして事件が起こる。
レグナムがプラウディアの所に戻ると、血まみれになったプラウディアとデニーロが居た。
プラウディアは倒れて、既に息はしていない。
デニーロも呆然としたまま立っていた。
「師匠!」
レグナムの声で、デニーロは意識を取り戻したのか振り返る。
その横をレグナムが通り過ぎて、かすかに温かい血まみれのプラウディアを抱きかかえて、何度も「師匠!」と叫んでいた。
「デニーロ! 何故、師匠を殺した」
怒りの矛先を兄弟子のデニーロにぶつける。
「……お前が知る必要はない」
「何だと!」
レグナムはデニーロに襲い掛かるが、実力はデニーロの方が上だったので、簡単にあしらわれる。
そして、立ち上がれなくなるくらい攻撃を受ける。
「早く強くなって、俺を殺しに来い!」
そう言って、レグナムの元から去って行ったそうだ。
「これは師匠の形見です。なんて書いてあるのか、分かりませんが……」
レグナムは、胸元からペンダントを出す。
ペンダントトップには、『家族』と書かれていた。
しかし、俺は【言語解読】で読む事が出来たが、その文字は地球での言語や、この世界の言語でもない。
多分、プラウディアが前世で使っていた世界の文字なのだろう。
「これは、家族と書いてある。プラウディアにとって、弟子であるレグナム達の事を家族だと思っていたのだろう」
レグナムは、俺が文字を読めた事に驚くが、それ以上に家族である兄弟子デニーロが、師匠であるプラウディアを手に掛けた事が許せないでいたようだ。
どちらにしろ、プラウディアはガルプに送られた使徒だという事だけは、はっきりした。
しかし、その事実をレグナムに伝えるかどうか、俺は悩んだ。
言ったところで、何かが変わるとは思えなかったし、なによりプラウディアが秘密にしていたのであれば、彼女の意志を尊重すべきだと思い、俺の胸の内にしまい込んだ。
「明日、俺達は王都に戻る。エルドラード王国に入ったら一度、連絡をくれるか?」
「分かりました。私達も明日の朝一番に、此処を立ちます」
「それと、ローレーンへの説明も怠るなよ」
「はい……」
俺はレグナムと連絡先を交換して、再会の約束をする。
そして、シロに連絡をして、ローレーンを連れてきて貰うように頼んだ。
「お話は、もうよいのですか?」
ローレーンだけでなく、ユキノも一緒だった。
「はい。貴重なお時間を頂き有難うました」
「いえいえ」
レグナムとローレーンは、ユキノに挨拶をして去って行った。
俺達はユキノの警護に戻り、朝まで過ごした。




