720話 再び!
オーフェン帝国では、武闘会の準備。
ゴンド村では、ババ抜き大会の準備が進められていた。
ババ抜き大会は、武闘会の後に開催になるので、ゴンド村では優勝を目指して、アルとネロは村の子供達相手に、連日ババ抜きをしているそうだ。
俺はトブレにトロフィーのような物を作るようにと、【交信】を使い説明する。
優勝カップのような豪華な物でなく、台座に長方形のような物がついている簡素な物なので、説明し易かった。
アルとネロとは、何度もババ抜き大会の運営について話し合いを持った。
参加人数が多いので、四~五人一組として予選リーグを行い、最終リーグへの出場者を決定する事等をアルとネロに説明した。
参加者が多ければ、予選リーグを二回行う必要もある。
「分かったのじゃ!」
「分かったの~」
本当に分かっているのか不安だったが、アルもネロも自分達で企画して開催する大会なのか、本当に楽しそうにしながら準備を進めている。
こういった娯楽の大会が増えれば、喜んで参加する国民も居るだろう。
四葉商会の代表であれば、グランド通信社等と連携して開催する事が出来たのにと、少し悔しい思いをする。
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オーフェン帝国へと向かう日が来た。
飛行艇に乗り込み、オーフェン帝国まで移動する。
操縦するのは、ロキサーニだった。
護衛兼、操縦者のようだ。
俺とシロにクロは、ユキノの護衛という事なので周囲に気を使う。
空で襲われる事は、そうそう無いが俺達以外で、対応出来る者が居ないのも事実だ。
ステラの魔法も、空を自由に飛び回れたら狙いを定めるのも難しいだろう。
前回も襲われなかったので、大丈夫だと思っていた。
俺の嫌な予感は的中する。
飛んでいる航路が悪いのか、ワイバーンの群れと遭遇する。
「なんとか、ならぬのか」
ルーカスが、飛行艇を操縦するロキサーニに叫ぶ。
ロキサーニがワイバーンの群れを回避しようと旋回するが、既に発見されている為、襲い掛かろうと向かって来ている。
ルーカスやイースは青ざめていた。
「ちょっと、行ってくるわ」
「はい、御主人様」
「お気を付けて」
冷静に返事をするシロとクロ。
ステラは俺が飛べる事を知っているので、驚く様子は無かった。
反対にセルテートは「死ぬ気か!」と、俺を心配してくれていた。
「まぁ、大丈夫だろう」
俺は飛行艇の扉を開けて、飛び降りる。
ワイバーンの数は、十数匹。
【飛行】と【転移】を使いながら、確実にワイバーンを仕留めていく。
下は海なので、死体を落下させても問題無いと思っていたが、血に他の魔物が集まって来ても面倒なので、ワイバーンの死体は全て【アイテムボックス】に仕舞い込んだ。
時間にして、数分の出来事だ。
俺は何食わぬ顔で、飛行艇に戻る。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
シロに挨拶を返す。
ルーカス達は驚いていた。
「今、飛んだのか?」
「あぁ、そうだ」
ルーカスの問いに答える。
以前も同じような事があったと思い出す。
「飛びたいなら、俺が抱えてやるぞ」
俺の提案に最初に飛びついたのは、やはりイースだった。
「ただし、髪型が酷い状態になるから帰りでもいいか?」
俺の言葉にイースは酷く落ち込んだ。
しかし、王妃の髪が乱れていては、オーフェン帝国対して失礼に当たるかも知れない。
イースも、その辺の事情が分かっているので、無理を言わないのだろう。
しかし、このような経験さえも忘れてしまったのかと、少し悲しい気持ちになる。
「相変わらず無茶苦茶ですね」
ステラが話し掛けてきた。
「そうか? この中で対処出来るのは俺だけだと判断しただけだ」
「悔しいですが、その通りですが……」
黒狐との戦いを終えたステラは、どことなく丸くなった気がした。
自分なりに、気持ちの整理をして、少しずつ変わって行っているのだろう。
俺は【魔力探知地図】を発動する。
そして、ロキサーニに指示を出して、魔物の居ない場所へと飛行艇を誘導した。
「何故、魔物の居場所が分かるのだ?」
「それは、俺の勘だ!」
ルーカスの問いに即答で答えた。
「勘か……一流の冒険者ともなれば、その勘も鋭くなるのだな」
第六感とでもいうのだろう。勘が鋭い事で、命を救った冒険者は多数居る。
その一方で、選択を間違えた冒険者には、悲惨な現状が待っている。
実力以外にも、勘が大事だ。
そう考える冒険者が多いのも事実だ。
「ステラやセルテートだって、勘が鋭いだろう」
「……全く分かりません」
「俺は鼻が利く。しかし、風下に居る敵は分からない」
俺の意見に、ステラとセルテートは否定もしくは、否定的な意見を述べる。
確かに、俺の【魔力探知地図】なので、通常の第六感とは違うが、もう少し肯定的な意見を言ってくれても良いだろうと思った。
「とりあえず、帰りに期待するとしよう」
鳥になる計画を楽しみにしているルーカス。
そして、同じように期待に胸を膨らませるイースが居た。




