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712話 杞憂!

 原点回帰の場所。

 まさに私にとっては、この場所がそうだろう。

 生まれた家だった場所の前で、今迄の事を思い出していた。

 復讐を終えて、私は満足しているのだろうか?

 そして、私はこれから何を目標にすればよいのだろうか?


 答えは出ない。

 しかし、後悔はしていない。

 では、この気持ちは何なのだろう。


 皆の家や、家のあった場所を回り、黒狐を倒した事を報告した。

 私の事を褒めてくれているだろうか? それとも、自分一人で黒狐を滅ぼす事が出来なかった事を怒っているのだろうか?

 問いかけても、答えてくれる人は誰も居ない。


 もしかしたら、タクトならジャンの時のように、死んだ人と話が出来るのかも知れないと思ったが、現実的でない話なので馬鹿にされる気がした。

 ジャンの時は、死ぬ間際にブラクリからジャンに意識が戻ったので、伝言を聞く事が出来たのだろうと、思い直す。


 長く居るつもりはないが、色々と思い出すので、自然と留まる時間が長くなってしまう。

 周りに誰も居ないと知っているので、話す相手も居ないのに、独り言のように喋る。

 もし、周りに人が居たら、変な人だと思われるに違いない。


 最後に村はずれにあった花畑を訪れる。

 草木が生い茂っている隙間から、花が咲いているのが見えた。


 花が目に入った瞬間、私は無意識に涙を零していた。

 タクトから、ジャンからの伝言を聞いた時も、必死で堪えた涙。

 周りに誰も居ないからか、涙が止まる事は無かった。

 気づくと、膝をつき、両手で花を握りしめて声を出して泣いていた。

 今迄、我慢していた感情が解放されたのだろう。


 私は、ジャンに自慢されるような幼馴染では無い。

 村の人を誰も助ける事が出来ずに、逃げた卑怯者だ。

 大好きだったジャン。

 泣き虫なのはジャンじゃなくて、私の方だ。

 地面に額を擦り付けて、何度も何度もジャンや村の人達に謝る。


 私は、皆に謝りたかったのだと気付いた。

 一人だけ逃がしてもらった負い目が、自分でも知らない内に、どんどんと私の中で大きくなっていた。

 それを気付かないようにしていたのだ。



 どれくらい泣いたのだろう。涙も枯れ果てたようだ。

 私は花を摘んで、ジャンが作ってくれた花冠を作る。


「やっぱり私は不器用なのかな? ジャンの方が、上手に出来るね」


 出来上がった花冠を見て、思い出の中にあるジャンの花冠と比較する。

 私は何度も花を摘み、思いを込めながら花冠を作った。

 これが、今の私に出来る事だと思ったからだ。


 もう一度、村を回り、思い出のあった場所に、花冠を置いて回る。

 花冠を置く度に「ありがとう」「ごめんなさい」と感情を込める。

 最後に、もう一度花畑に戻り、ジャンとよく座っていた小さな岩の所まで歩く。

 岩に花冠を置き、「あの世でも自慢出来るような幼馴染でいるからね」と伝えた。


 もう、この場所に来る事は無いだろう。

 枯れた筈の涙が、頬を伝った。



 タクトの所に戻ろうと、身なりを整える。

 変に勘繰られて、泣いていたのが知られるのが嫌だったからだ。

 尾の汚れを落としていると、ふと昔の記憶がよみがえる。

 そういえば……。


 村に伝わっていた『金色の毛束』。

 あれの行方はどうなったのだろうか?

 村に伝わっていた話だと、残り二本だった筈だ。

 村を黒狐に襲われた原因は、間違いなく金色の毛束だ。

 奪われて既に使用されている可能性もあるが、現存していれば誰が所持しているのだろうか?

 使い方次第では、この世界を滅ぼす事も出来る可能性もある。

 しかし、存在しない物としているし、金色の毛束の事は私を含めて数人しか知らない。

 他に居たとしても、村から出て行った者か、ラウさんくらいだろう。

 何かの拍子で、金色の毛束が世間に知れ渡り、争いの発端になる事もある。

 この村の二の舞には、なって欲しくない。

 戻ったら、黒狐の集落を調べていたタクトに、それっぽく聞いてみる事にする。

 タクトなら一応、信用出来る人物だし、金色の毛束の能力も知らせなければ問題ないだろう。


 一応、頭首の屋敷があった場所を、もう一度訪れてみる。

 屋敷自体が焼失したので、屋敷の土台ぐらいしか残っていない。

 何か手掛かりが無いかと探してみるが、月日も経っている為か、何も見つからなかった。


(当然よね)


 私は心の中で呟く。

 そして願わくば、私の杞憂で終わって欲しいと思う。

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