710話 追憶(三獣士編)-3!
ロキサーニと二人で倒したトロールの死体から、討伐証明となる核を取り出す。
「お疲れ様でした」
ロキサーニが、MP回復薬を差し出す。
最近、言われた事の無い言葉だった。
討伐終了すれば、「流石だ!」「ステラが居れば、楽勝だ!」等と、言われる事は多々あった。
しかし、労いの言葉を掛けられた事は、冒険者を始めた時くらいの記憶しか無かった。
「いえ、与えられた仕事をしただけです。それに、足を引っ張ったようですし……」
「そんな事ありませんよ、十分すぎる活躍でした。しかし、並行詠唱とは凄いですね」
「ロキサーニも魔法を使いながら戦っていましたよね」
「はい。まだ、魔法を使うと剣技が疎かになりますが」
ロキサーニは笑いながら答える。
「それは、私も同じです。今回、初めてだったので、上手くいって良かったと思っています」
「そうですか。お互い、未熟者同士ですね」
ロキサーニの発した「未熟者」という言葉が、私に響いた。
私を未熟者と言ってくれる者は居なかったからだ。
「ふふっ、確かに未熟者ですね」
「なにか、面白かったですか?」
突然、笑った私にロキサーニは不思議そうだった。
「楽しくお喋りか?」
周囲の偵察に出ていたセルテートが戻って来た。
「どうでしたか?」
「あぁ、思った通りだ。北の山に居る筈の野獣や魔物達が、移動しているようだ」
「まさかと思いますが……」
「俺もそう思いたくないが、多分そうだろう」
ロキサーニとセルテートは真剣な顔だった。
「それは、ゴブリンロードとオークロードの出現という事ですか?」
私は、現状とセルテートからの言葉で思った事を口にする。
「えぇ、そうです。可能性の問題ですが時期的に言えば、そろそろですからね」
この世界で、大きな被害を出すゴブリンロードとオークロード。
種族は違えど、大量に種族を引き連れて破壊を繰り返す。
「では、すぐに報告しないと」
「勿論です」
「じゃぁ、戻るぞ。遅れるなよ、ステラ」
「分かっています」
私達はクエストを達成して、無事に帰還した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私達が持ち帰った情報で、冒険者ギルドの動きが慌ただしくなった。
ギルマスにも詳しく話をして、近隣の村への警護もしくは避難等を提案した。
クエスト報酬に加えて、情報提供という事で追加の報酬も貰えた。
そして、私達は報酬の分配で揉めていた。
通常のクエスト報酬は三等分だが、私自身は一体も討伐出来ていないので、減額を要求した。
しかし、ロキサーニとセルテートは頑として首を縦には振らなかった。
「三人で達成した依頼です。討伐した数の問題では有りません」
「そうだ。ステラの魔法攻撃があったからこそ、討伐出来たんだしな」
こんな事は初めてだった。
今迄のパーティーでは、自分がいかに討伐に貢献したかをアピールして、少しでも多くの報酬を貰おうと皆、必死だったからだ。
その一つの基準が、討伐数だ。
私が体力を削っても、最終的に止めを刺した者が、討伐者となる。
当然、私自身もそれまでの功績は認められるし、それほど報酬も悪くなかったので、あまり気にする事も無かった。
何より、功労者である私を無下に扱えば、今後はパーティーを組んで貰えなくなると知っていたので、まず私が納得した報酬を受け取った後に、残りの報酬を分配していた。
しかし、今回は今迄とは逆のパターンだ。
「分かりました。三等分で納得します」
このままでは埒が明かないので、私が折れる事にした。
「追加報酬は、情報収集をおこなったセルテートで、良いですね」
追加報酬である情報提供に関しては、私は何もしていないので辞退する旨を伝える。
「いいや。俺が居ない間、核を取り除いたりして、俺の仕事をしてくれていただろう。だから、これも三等分だ」
セルテートの言い分は分かるが……。
「ステラ。ここは全て、三等分で納得してくれませんかね?」
「……分かりました」
「有難う御座います。初任務でしたし、この後食事でも御一緒にどうですか?」
「いえ、私は……」
クエストが終わったので、パーティーでは無い。これ以上、一緒に居る理由が無いので、断りの言葉を言うつもりでいた。
「誰かさんを庇った時の、傷が痛むな」
セルテートが私の顔を見ながら、嫌味っぽく言ってくる。
「……治ったはずですが」
「まぁ、少しくらい付き合えよ」
「少しだけですよ」
「はいはい」
セルテートは笑顔で、軽く返事をする。
「では、いつもの店でなく個室のある店でゆっくりしますか」
「おぉ、追加報酬も出たんだし、いいね」
「食事の御勘定も三等分ですよ。セルテートの酒代は、自分で払って下さいね」
「分かっているよ。ステラには飲み物の一つくらいは、奢ってやるからな」
「いいえ、結構です。自分の分くらい、自分で支払います」
「お堅いね~」
セルテートは上機嫌だった。




