709話 追憶(三獣士編)-2!
ロキサーニとセルテートの二人と、パーティーを組んで挑むクエストは『トロールの調査及び、討伐』だった。
付近の村でトロールを見かけたと報告があったので、真偽を確認する為の調査と、討伐だった。
トロールが複数体いた場合、危険だと判断すれば調査報告だけでも報酬は出る。
討伐は、討伐した数だけ加算がされる。
群れで行動する習性が無いので、多くても三体程だと私は思っていた。
それは、ロキサーニとセルテートも同じだろう。
「では、行きますか」
ロキサーニが立ち上がると、セルテートも無言で立ち上がる。
私も立ち上がり、服を直していると「置いてくぞ!」とセルテートが面倒臭そうに答える。
女性の身だしなみを整える時間くらいは、待っていてくれる器量の大きさは無いのかと思いながら、急いで二人を追う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
依頼のあった付近で、セルテートが異変に気付く。
ロキサーニはセルテートの言葉を信じて、セルテートの案内通りに進む。
「当たりだな!」
大きな足跡に、倒された木々。
そして、逃げ遅れただろう大量に踏みつぶされた野獣の死体。
「しかし、トロールが何故、このような場所に……」
「確かにな。もっと北の山に生息して居る筈だよな」
「それに、これを見て下さい」
ロキサーニが潰された死体を指差す。
野獣の中に、魔獣も混じっていた。
「嫌な予感がしますね……」
ロキサーニは踏みつぶされた死体を見ながら呟いていた。
地面が大きく揺れたと思ったら、大量の鳥達が空へと羽ばたいて行く。
「……二体か」
目視でトロールを発見する。
私は撤退かと聞こうとした時には、ロキサーニとセルテートはトロールの方へ走っていた。
「おい、遅れるな!」
セルテートは、遅れた私に大声で叫ぶ。
内心、意思の疎通が出来ていないのだから当たり前だと思いながら、絶対に仲良くなれないと再度、思った。
「これは、まずいですね……」
「あぁ。なんで、こんなに居るんだ?」
二人に追いついた私の目に飛び込んできたのは、トロール四体だった。
しかも、足元には魔獣の死骸がある。
食料にしたものだろう。
その食料にした魔獣も『マンティコア』だ。
尾に毒を持ち、討伐対象はランクA以上に認定されている。
それも数体あるので、トロールがマンティコアを倒した事に驚愕する。
これは完全に撤退して、報告するだろうと私は確信する。
「セルテート。何体倒せますか?」
「そんなもの、倒せるだけ倒す!」
「えっ、撤退しないんですか?」
撤退だと思っていた私は、戦おうとする二人に驚く。
「ここで倒しとかないと、近隣の村の奴らが危険だろう。そんな事も分からないのか? お前は馬鹿か」
セルテートが私を馬鹿呼ばわりする。
セルテートは、一度も私を名前で呼ばない。
いつも、「お前」と偉そうに言う。
その度に、私は不快な思いをしていた。
「危険だと思ったら、逃げますよ」
「それで構いません」
不機嫌に答える私に、ロキサーニは普通の口調で肯定した。
「じゃあ、行くか!」
セルテートが飛び出すと、トロールも気付いたのかセルテートを攻撃しようと向かって来た。
武闘家のセルテートは肉弾戦になる為、至近距離での戦闘が主だ。
動きが遅いトロールからの攻撃を受けることなく、打撃を確実に当てていく。
ロキサーニも同様に、剣で確実にダメージを与えていた。
私も魔法攻撃をする。
火系統の魔法や、雷系統の魔法では木に燃え移る恐れがあるので、風系魔法と氷系魔法を主に二人を援護する。
私の放った【氷塊弾】でトロールの足元が凍る。
その隙に、ロキサーニがトロール一体に止めを刺す。
私が攻撃した事で、トロールに気付かれてトロール二体が私に向かって来た。
詠唱時間の短い【風刃】で、トロールの進行を止めようとする。
一体は止める事が出来たが、もう一体のトロールは完全に攻撃範囲内に居る私を捉えていた。
体が強張って動かなかった。
ラウさんに助けてもらった時の事を思い出す。
これが走馬灯なのだろう。
大きな音が聞こえる。
私は目を閉じて「死んだ」と思った。
「まだ、動けるだろう!」
目を開けると、目の前にセルテートの後ろ姿がある。
「おい、聞こえているか」
セルテートの問い掛けにも呆然としていた。
「おい、馬鹿。聞こえていたら返事くらいしろ!」
「馬鹿ではありません」
セルテートの「馬鹿」という言葉で、自分を取り戻す。
私は【氷弓】で、トロールの両目を狙う。
トロールは大声で叫び、苦しんでいた。
苦しむトロールは、目が見えない恐怖からか、闇雲に腕を振り回している。
「ったく、聞こえていたんなら、早く返事くらいしろ」
「うるさいですね……って、貴方こそ大丈夫ですか!」
セルテートは私を庇った為か、大怪我をしていた。
「弱い奴を助けるのも、強者の役目ってやつだ」
「喋らないで下さい」
私は、人前で初めて治癒魔法を披露した。
「お前、魔法士だよな?」
「はい。そうです。治癒魔法も使える魔法士です」
「そうか。お前、見た目によらず凄い奴なんだな」
「失礼ですね。それにお前ではありません。私には、ステラと言う名前があります」
治癒魔法を掛けながら、並行詠唱でトロールに攻撃されないように、比較的簡単な詠唱の【風刃】で攻撃する。
ぶっつけ本番の並行詠唱だったが、上手く出来た。
「……お前、二つ同時に魔法使えるのか?」
「お前ではありません。ステラです。これで、戦える筈ですが無理は禁物です」
セルテートは、体を動かして問題ないかを確認する。
「助かったよ、ステラ」
照れくさそうに私の名前を呼んで、セルテートはトロールを引き付けてくれていたロキサーニの所へと向かっていった。
(お礼を言わなければいけないのは、私なのに……)
セルテートに助けてもらった御礼を言えないままであった。




