692話 黒狐との戦闘-5!
「おぉ!」
ロブソンが遠く離れた位置から俺を殴る仕草をする。
拳の風圧が俺を襲う。
この風圧だけでも、普通の奴なら大怪我を負うレベルだ。
風圧を耐えたと思ったら、アレクシアが背後から切り裂こうと攻撃を仕掛けてくる。
よく見ると爪が炎で包まれている。
流石と言うべきか、気配を絶つのが上手い。
しかし、避ける事が出来る速さだ。
アレクシアを盾にして、コネリウスが【氷弾】で攻撃をしてきたが、【魔法反射(二倍)】でコネリウス自身が【氷弾】の攻撃を受ける。
「アレクシア、どけっ!」
コネリウスの声でアレクシアが、俺の視界から姿を消す。
「これで終わりだ、【氷塊弾】!」
氷の塊が飛んで来る。
体に触れれば、触れた箇所が徐々に凍らされる氷系統の上級魔法だ。
しかし、コネリウスの言葉とは裏腹に氷漬けになったのはコネリウス自身だった。
俺の【魔法反射(二倍)】が発動したので、コネリウスも自分が氷漬けになった事に気付いていないだろう。
「ちっ、コネリウスも使えない男ね。それよりも、思っていた以上に手強いわね」
アレクシアが俺の視界から攻撃を仕掛けてくる。
攻撃を避けていると、後ろからロブソンが俺を羽交い絞めにした。
意識がアレクシアにいっていたので、気が付かなかったようだ。
完全に油断していた。
「そのまま、離さないでよ!」
「任せろ!」
羽交い絞めの俺を突き刺すようだ。
俺はアレクシアの爪が体に触れる寸前に【転移】でアレクシアの後ろに回り、アレクシアの体を押す。
アレクシアの爪はロブソンの心臓に突き刺さり、ロブソンは血を吐き出す。
ロブソンの体から腕を抜こうとするアレクシアだったが、ロブソンの筋肉で押さえつけられて腕が抜け無くなっていたところを、俺がアレクシアの両腕を切断する。
アレクシアは叫び声を上げる。
強化薬でも痛覚を遮断する事までは出来ないようだ。
完全に戦意喪失したアレクシアに、瀕死のロブソン。
アレクシアとロブソンは、放っておいても出血多量や毒等で死ぬのは時間の問題だ。
俺は二人をブラクリに投げる。
部下達が倒されても顔色一つ変えずに、ブラクリは俺を見ていた。
「使えない奴に意味は無い」
ブラクリの言葉に、アレクシアとロブソンは死を覚悟したのか、目を閉じる。
これも黒狐の掟なのだろう。
言葉を発する事無くブラクリは、アレクシアとロブソンに止めを差した。
「約束よ」
ステラが俺の所まで歩いてきた。
シロとクロとで、残りの黒狐達は殆ど倒したようだ。
勿論、ステラの了承を得てらしい。
「大丈夫なのか?」
「えぇ、大丈夫です」
顔色は未だ、悪いようだ。
(シロ。解毒は出来たのか?)
(いいえ、私では無理でした)
(分かった)
「少しだけ回復してやる」
「大丈夫です」
やはり、俺に触れられるのが嫌なようだ。
「まぁ、そういうな。万全の状態で復讐をしたいだろう」
俺はステラに【神の癒し】で解毒や、回復等を行う。
「……何をしたのか分かりませんが、御礼は言っておきます」
「気にするな。ステラに死んでもらうと、俺も困るからな」
「死ぬつもりはありません」
「当たり前だ」
俺と話している間も、ステラはブラクリを見ていた。
幼馴染だろうが、殺す覚悟が出来ているのだろう。
しかし、先程のステラとの会話が俺には気になっていた。
昔は六尾なのに、今は九尾。
一体、どういう事だ?
尾の数は身体的な特徴ではあるが、魔法の才能等にも比例していると思っている。
俺は【全知全能】に黒狐の頭目ブラクリの事を訊ねる。
【全知全能】から衝撃的な回答が返ってくる。
黒狐の頭目に代々継がれているブラクリという名。
これは、名だけでなく精神も引き継がれている。
そして、引き継がれる条件は、前頭目を殺す事だった。
これが本当なら、ステラの幼馴染のジャンは、前頭目のブラクリを殺した事になる。
つまり、ジャンは前頭目を殺した事で黒狐人族になったと言う事になる。
黒狐の頭目は、他の黒狐人族と異なる存在という事なのだろう。
黒狐人族でなくても頭目を殺せば、自分が頭目になる事も出来る。
そして、黒狐の者達も常に頭目の座を狙って、殺す機会を窺っていたのかも知れない。
失敗すれば、自分の命も無い。
それだけの対価を払ってでも頭目になろうとする者が居るのだろう。
黒狐の頭目ブラクリとは、ブラクリという精神に体を寄り代にされる事で、代々引き継がれてきた事になる。
尾の数が変わったのは、その影響のようだ。
しかし、狐人族以外に殺された場合は、どうなるのか気になったので【全知全能】に聞くと、黒狐人族に似た姿になるそうだ。
とりあえず、目の前に居るステラの幼馴染ジャンは、ブラクリに精神を乗っ取られている事と、ステラが殺した場合は、ステラがブラクリになってしまう事だけは分かった。




