690話 黒狐との戦闘-3!
「はぁ、はぁ……」
流石のステラも限界が近いのか、辛そうだ。
毒に気付いたステラは解毒剤を飲んで対処していたが、全ての毒に解毒剤が有効という訳では無い。
もしかしたら、黒狐達が使っている毒は、特別に配合した毒の可能性が高い。
一応、俺は【神眼】でステラの寿命を確認するが、ここ数時間で死ぬような感じでは無いので、毒が致死量に達していないと分かる。
黒狐達は弱ったステラを見て、チャンスと思ったのか、攻撃を止める事無かった。
ステラの魔法攻撃に対して、少しずつ黒狐達の反応が早くなってきている。
「ステラには悪いが、ここまでかな」
俺はそう思い、助けに行こうとする。
「主、もう少しだけお待ち下さい」
クロが俺を止める。
「何かあるのか?」
「いいえ、ステラ様は諦めておられませんので、ここで主が手助けに向われるのは早いかと思います」
クロが俺に意見を言う事は珍しい。
しかし、クロは考え無しで意見を言う事は無い。
「分かった。クロの言う通りにしよう」
「有難う御座います」
ステラが杖に寄りかかる動作をすると、黒狐達がステラに向けて飛び道具で攻撃をする。
しかし、ステラは詠唱をしている。
飛び道具がステラに届く前に、ステラは詠唱が終わったのか、ステラの周りに竜巻が起きる。
近くに居た黒狐達は吹き飛ばされていた。
又、燃えている家等も竜巻の影響で、火の勢いが増す。
これも計算に入れながら今迄、魔法攻撃をしていたのだろうか?
「もう少し……」
ステラは、とりあえず足を進める。
歩いていく先に誰が居るのかは分からないが、攻撃が及んでいない場所に向う。
ステラの進行方向から、氷の矢が凄い勢いで飛んで来るが、ステラは氷の矢を避ける。
その後も、何本も氷の塊が飛んで来て、ステラを襲う。
しかし、氷の塊がステラに当たる事は無かった。
「変だな?」
「魔法を使ってきた事ですか?」
「あぁ、そうだ。今迄、黒狐達は物理攻撃のみで、ステラと戦っていた。それは黒狐達が魔法を得意としないからだと、俺は考えていた」
「確かに、主の言われるとおりです。しかし、狐人族と同種族と考える事も出来ますし、私自身も黒狐人族が魔法を使っていた記憶も御座います」
クロの言葉で、ステラを出来るだけ弱らせるように指示を出していたのだろうか?
「主!」
ステラから目を離して、考えていた俺をクロが呼ぶ。
クロの言葉でステラを見ると先程、居た場所より後方に倒れていた。
「派手にやってくれたな」
煙の向こうから、長身長髪の九つの尾を持つ男を先頭にして、五人の黒狐人族が姿を現した。
同時に今迄、攻撃をしていた黒狐達は攻撃を止めた。
「しかし、一体どうやって他の所に居た奴等まで、此処に集めたんだ?」
男がステラに話しかけるが、ステラは答える気が無いのか男を睨んだままだ。
「ん? もしかして、ステラか?」
「……」
ステラは答えなかった。
男はステラを、じっと見ていた。
「間違いない。お前、ステラだな。幼馴染の顔を忘れたのか?」
ステラは男が発した「幼馴染」と言う言葉に反応する。
「……ジャン。いえ、ジャンは村を襲われた時に死んだはずです。何より、ジャンの尾は六本です」
ステラは男に向って叫んだ。
「そうだったな。あの時は、俺の尾は確かに六本だったな」
「何? 頭目の尾の数は成長して増えたんですか?」
「まぁ、そういう事だ」
「またまた~」
「俺が嘘を言っているとでも?」
「だって、尾が成長と同時に増えるわけ無いじゃないですか」
この会話から、九尾の男が黒狐の頭目ブラクリだと判明する。
「そうか、俺は嘘つきか」
「そんな事は、うっ!」
ブラクリは、自分を笑った部下の男を躊躇無く殺した。
「余分な体力を使わせやがって!」
その光景を見ていた仲間は、動揺する様子も無かった。
「所詮、数合わせの奴はそれまでって事だな」
「そうね。あんな馬鹿が、私と同列なのは納得出来なかったから、頭目が殺してくれて良かったわ」
「馬鹿は死んでも治らないってか! はははっ!」
残った三人は、八尾の細身男性に、露出狂かと思うほど肌を出している八尾の女性に、大柄で筋肉隆々な力自慢の八尾の男性だ。
「そういや、ステラ。お前、今は国王直属らしいな。それに賢者らしいじゃないか」
ブラクリがステラに話しかける。
「あぁ、ステラって、あのステラなのね。国王直属の実力って、この程度なの? たいした事無いわね」
「こんな娘など、俺の拳で一撃だな! はははっ!」
「アレクシアにロブソン。お前達は黙っていろ!」
「何よ、コネリウス! 文句でもあるのかしら」
「俺じゃない。頭目が話しているんだ。横から話をするなと言うことだ」
コネリウスと呼ばれた男性が、ブラクリの方を見るとアレクシアとロブソン二人を睨んでいた。
その事に気が付いたアレクシアとロブソンは、大人しくなる。




