684話 復讐心!
ルーカスと入れ替わりで、ステラが部屋に入って来た。
明らかに俺を警戒してる。
「私に何用でしょうか?」
機嫌も悪そうだ。
「実は個人的に闘おうと思っている奴が居るんだが、ステラにも声を掛けた方が良いと思ってな」
「……そんな事、私の許可等関係なく自由に闘えば良いのでは?」
「黒狐」
俺の言葉にステラの表情が変わる。
そして、持っていた杖を俺に突き出す。
「どうして、私が黒狐と関係がある事を知っているの!」
完全に戦闘態勢になっている。
「ステラは俺の記憶が消えているから覚えていないだけで、昔にステラから聞いた」
「嘘!」
確かに嘘だ。
本当は、狐人族のラウ爺から聞いた話だ。
「本当だ。その場にはラウ爺も居た」
「……」
ラウ爺の名を出した事で、俺の言ってる事が本当だと信じて貰えたのか、突き出していた杖を元に戻した。
「私は何処まで貴方に話したの?」
「生まれ育った集落を黒狐に滅ぼされた事や、八尾のステラを仲間が逃がしてくれた事だ」
「そう……」
俺との記憶が無い事で、余計に混乱をしているようだ。
情報を整理しているのと、気持ちを落ち着かせているようだ。
「俺は黒狐の拠点を、全て見つけ出した。全滅させるつもりでいる」
「私に協力しろと?」
「いや、俺一人でも問題無い。しかし、黒狐に恨みを持っているステラに黙っているのは、申し訳無いと思っただけだ」
「凄い自信家ね。頭目は簡単に倒せるような相手では無いですよ」
「九尾のジャンだったか? 大丈夫だろう」
「ジャンの名前まで……私が何年も掛けて得た情報なのに、何処まで情報を掴んでいるの?」
「あと知っているのは、頭目は代々ブラクリという名を受け継いでいる事くらいだな」
「そうなのね。ブラクリとジャンは同一人物という事ね」
「そういう事になるな」
「……やっぱり」
ステラは何かを考えていた。
暫く待ってみたが、言葉が返ってこないので俺から話し掛ける事にした。
「護衛の仕事があるから難しいか? それとも復讐する気は無くなったか?」
「何を! あの日の惨劇を忘れた事等、一日だって無かったわ」
ステラは大声で俺に反論する。
ラウ爺は復讐を忘れて過ごして欲しいと願っていたが、俺に言わせれば難しいと思っていた。
俺が勝手に黒狐を全滅させれば、ステラは怒りの矛先を失ってしまう。
「じゃあ、どうする?」
「国王様に相談して、お暇を頂くわ。一ヶ月あればいい?」
「そうだな……余裕を見て、三日ってところだろう」
「……三日? 何を冗談言っているの。相手は黒狐よ!」
「大丈夫だって、ランクSSSの俺を信用しろって」
「本当に信用していいのね」
「あぁ、勿論だ。ちなみに頭目のジャンと闘いたいのなら、俺は譲ってもいいぞ」
「そう。有り難く譲って貰う事にするわ」
ステラは嬉しいのか笑っていた。
「貴方も暇なら、国王様の所まで一緒に来て説明してくれる?」
「別にいいが、黒狐の事を喋ってもいいのか?」
「えぇ、国王様には情報入手に協力頂いたから問題ないわ」
「……暗部を動かしたのか?」
「流石ね。私の報酬の一部を黒狐の情報にして貰ったのよ」
俺が思っていた以上に、ステラは黒狐に執着していた。
表情や態度には出さないが、それだけ恨みが深いという事だ。
「前言撤回だ。俺はステラの復讐方法を手伝う事にする」
「……何を言っているの?」
「賢いステラの事だ。長い間に、色々な復讐方法を考えていたんだろう?」
「……」
俺は黒狐の刺青と、魔素の関係が分かればいいだけだ。
しかし、ステラは違う。
俺以上に黒狐への思いが強い。
だから、ステラの思いを優先にする事にした。
「……黒狐人族全員を、捕獲する事は出来る?」
「簡単に出来るぞ」
クロの能力を使えば、造作も無い事だ。
「貴方は捕獲してくれれば、あとは私が全てやる……」
「分かった。邪魔はしないが、俺も黒狐には聞くことがある。殺すのは、その後にしてくれるか?」
「分かったわ」
「因みに捕獲は、先にしても良いのか?」
「えぇ、任せるわ」
ステラの了承を得られたので、クロに伝える。
(聞いていたか?)
(はい)
(黒狐いや、黒狐人族全員を捕獲してくれ。一人残らずだ)
(承知致しました)
「どうかした?」
「あっ、悪い」
立ち止まっていた俺を気にしたステラが、声を掛けてきた。
俺が返事をすると、そのままルーカスの居る場所へと歩き出す。
ステラの後姿を見ながら、復讐を終えたステラのモチベーションが気になった。
この国唯一の『賢者』のステラは、俺の想像以上に努力をしたのだと思う。
それも黒狐への復讐心を糧にしてだろう。




