682話 余計な用件!
「待たせたか?」
「いや、俺もさっき来たばかりだ」
時間よりも、かなり早めについたつもりだったが、既にジラールは待ち合わせ場所に立っていた。
「早いが、とりあえず中に入るか」
「そうだな」
立っていても、城の中の待合室に居るのも同じ事だ。
早かろうが予定が入っている限り、俺達客人の待合室は必ず用意されている。
朝早いが、城の復旧作業をする作業員達は、汗を流して働いていた。
俺に気付くと挨拶をしてくれる。
冗談で「手伝ってくれよ」と言われるので、「又、今度な!」と笑って返す。
「タクトは誰とでも仲がいいよな?」
「そうか?」
ジラールは、俺のランクSSSの冒険者という肩書きに惑わされているのだと思う。
沢山の冒険者を見てきたジラールでも、俺は異質な存在なのだろう。
待合室に通されて、暫く待つ。
ジラールは窓の外を見たり、立ったり座ったりと落ち着きが無い。
昨晩、シロとクロが戻って来て報告をしてくれた。
スタリオンはユキノに好意は無いそうだ。
少し前に「いいな」と思った際、急激に悪寒が走ったそうだ。
その後も、同じような事が何度も有り、スタリオンの中でユキノは『邪な事を考えてはいけない女性』になっていると、フェンが言っていたそうだ。
クロの方も、調査完了とだけ報告があったので、問題無い事が分かった。
部屋の扉を叩く音が聞こえて、ルーカスへの謁見許可が出た。
俺とジラールは案内されて、謁見の間へと移動する。
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謁見の間には、王族の五人が居た。
当然、護衛衆の四人も居る。
ユキノの頭には、俺が贈った髪飾りが付いていた。
俺はとても嬉しかったが、表情に出さないように気を付ける。
最初にルーカスが俺に、指名クエストを受注してくれた礼を言う。
俺が既に、スタリオンを完膚なきまでに叩きのめした事を、誰も知らない。
「その親善試合は、勝っても問題ないんだろう?」
「勿論だ。但し、殺す事だけは止めて欲しい」
「分かった」
最初から殺すつもりは無いが、俺の実力を知っているからこそ、心配しているのだろう。
「オーフェン帝国での行動は、護衛衆のセルテートを除いた四人と共に行動してくれ」
セルテートは、王都に残されたアスランやヤヨイの護衛を、騎士団とするそうだ。
王都の護衛任務には、元護衛衆のカルアにも指名クエストが出ているそうで、カルアも受注したと、ジラールが教えてくれた。
「質問はあるか?」
「いいや、特に無いがステラと個人的な話をさせて欲しい」
「ステラと?」
ルーカスは勿論だが、名前を出されたステラも思い当たる節が無いので、戸惑っている。
「余達に聞かれては不都合な事か?」
「個人的な事なので、出来れば二人で話したい。無理なら護衛衆の誰かと一緒でも構わない」
「……分かった。ステラにはこの後、タクトと話をする時間を設ける」
「ありがとう」
「それとは別にシャレーゼ国の事、感謝する」
「俺が勝手にしたことだ。国は関係ないんだろう」
「確かにそうだが……」
「武闘会にネイラートは参加出来ないと思うが、正式に国王就任の事で連絡はあると思う。その時は、宜しく頼む」
「分かっておる」
「それと、枯槁の大地に森を造った。今後は希望の森林と呼んでくれ」
「……森を造った?」
「あぁ、頼まれて森を造った」
「誰にとは聞かないが……分かった。森の件は国中に連絡しよう」
「悪いが頼む」
「他には無いか?」
「もう、無い……あっ!」
肝心な事を忘れていた。
「国王と王子にターセルの三人に話があった」
三人の共通点は一つしかないので、三人とも何の事か分かったようだ。
「急を要する話か?」
「急ではないが、早めに知っておいた方が良い話だ」
「……分かった」
ルーカスはロキサーニに伝言を頼んだようで、ロキサーニが席を外した。
「別室で話をする。アスランとターセルは余と一緒に部屋まで移動するぞ」
退室際、ステラが俺の方を見ていた。
何の話か気になっているのだろう。
「指名クエストの受注報告だけのつもりだったんだがな」
「悪いな。ついでに色々と思い出してな。用件は一度の方が、お互いに都合がいいだろう」
「それは確かにそうだが……」
「ジラールも忙しいだろうし、残りは俺だけでもいいぞ?」
「そうだな。俺が居ても意味が無いしな……俺はギルド本部に戻るが、後から顔を出すか?」
「いいや、暫くは王都を離れる事になると思うからな」
「さっき言っていた件に関係するのか?」
「さぁ、どうだろうな」
「聞くと、ろくでもない事になりそうだから聞くのを止めるが、無茶はするなよ」
「ありがとうな」




