675話 枯槁の大地再生計画-5
「さぁ、やるか!」
枯槁の大地を目の前にして、気合を入れる。
【浄化】を使い、魔素を取り除いていく。
範囲が広い為、場所を変えながら何度も【浄化】を掛ける。
地中にある切れ目は、どれだけ深いか分からないので同じ場所で【浄化】を掛け続ける事もある。
レベルアップの音が短時間で何回か、頭の中で響いた。
魔素の最終確認はノッチとアリエルがしてくれる。
地道な作業だったが、森を再生出来ると分かっていたので苦にも成らなかった。
「もう大丈夫だろう」
「そうね」
二人の言葉で、魔素が無くなった事が証明された。
ノッチは俺達をイザベラの種子がある場所まで案内する。
ミズチが乾いた地面を濡らす。
俺も【水球】を使い、ミズチを手伝う。
乾いた地面はすぐに水を吸収する。
ある程度の土地に水を吸収させると、ミズチと交代してノッチが作業をするようだ。
ノッチは地中に手を当てる。
暫くして、手を離すが手の中には小さな種子が握られていた。
「魔素の影響は無いのか?」
「大丈夫だ。咄嗟に一番深い根の先端に避難して、何重にも被子を張って魂だけは守ったようだ」
魂だけと言うのは、肉体となる樹が無いからだと推測する。
「又、俺の番だな」
種子を地面に置いて【再生栽培】を使うと、種子は色を変える。
「自力で根を生やす事は難しいようだな」
「分かった」
続けて【成長促進(植物)】を使うと、種子から大きく根と芽が出る。
そのまま、【成長促進(植物)】を掛けると、種子から小さな光と共に、少女が現れた。
「久しぶりだな、イザベラ」
「お久しぶりです。ノッチ様」
イザベラと呼ばれた少女が、ノッチに挨拶をする。
「ノッチ様にタクト様。この度は有難う御座います」
イザベラはノッチと俺に礼を言う。
「これを使え」
ノッチはイザベラに種子を幾つか渡す。
「タクト様。申し訳ありませんが、先程の力で芽を出して頂けますか?」
「分かった」
イザベラは樹精霊本来の力が戻っていないようだった。
俺は言われたとおりに【成長促進(植物)】で種子から芽を出す。
芽を出してからは、イザベラが徐々に大きく育たせていた。
ある程度、大きくなると「ゴメンね。枝を分けてもらうわね」と樹に囁き、枝を数本折る。
それを地面に埋めると、俺に【再生栽培】を掛けて欲しいと頼むので、言われた通りに【再生栽培】を掛ける。
枝は成長したのか、少し大きくなった。
この作業を何回繰り返したか分からない。
気が付くと、陽が沈む位置まで来ていた。
「ありがとうございます」
イザベラは俺に礼を言う。
その姿は、少女でなく成人女性へと変化していた。
「ある程度、力も戻りました。残りは頑張ってみます」
笑顔で話す。
「どうせ、暇だから出来る限り協力してやる」
「ありがとうございます」
イザベラは再度、俺に礼を言う。
まだ森と呼べる程、大きくは無い。
出来れば森と呼べる位までは手伝いたいと思っている。
「俺の力で、大きく出来るから心配ない」
ノッチは【成長促進(植物)】と【再生栽培】も使える。
よく考えれば地精霊なのだから当たり前だ。
「悪いと思ったが、タクトを試させてもらった」
実際に俺が、どのような人族なのかを確認したかったそうだ。
多分、フォーレスも分かっていて、俺にこのスキルを教えたのだと感じた。
しかし、俺は悪い気がしなかった。
「そろそろ、私の番ね。イザベラ、池の大きさはどれ位がいいかしら?」
「数や大きさは、ミズチ様にお任せします」
「分かったわ」
ミズチの指示で移動しながら、池を造る。
水脈のある場所に池を作っているため、まだ森になっていない場所にも池を作っていた。
イザベラとノッチが、森を再生している間に俺とミズチは、乾いた土地に水分を与える。
アリエルは風で花等を受粉させたり、種子を飛ばしたりして協力していた。
何かを協力して造り上げる。
久しぶりの感覚だった。
疲労が無い体なのが少し残念なくらいで、心地良い疲労感を味わいたいと思っていた。
陽が昇ると共に作業を終える。
残りはイザベラとノッチだけでも問題ない。
なにより、十分に森と言える規模にまで広がっている。
遠くに見えていた枯れ掛けた樹が生い茂っている場所も吸収してしまっている。
満足のいく仕事が出来た充実感が俺にはあった。
イザベラに何度も礼を言われて、お礼にと『大地の祝福』を受取る。
フォーレスからは今回の報酬になるので、この世界に生存する五人の樹精霊達全員から、精霊印『大地の祝福』を受取る事になる。
その後、ノッチからも「気に入った」と言うことで、契約をする事になった。
上級精霊が簡単に契約しても良いのか? と疑問に思い尋ねる。
契約出来る最低条件は、上級精霊と直接対話が可能な事。
他には、各精霊が興味を持てば契約が出来る。
上級精霊と直接対話出来る人族は、殆ど居ない。
低級精霊を見る者でさえ、重宝されるらしい。
最初にミズチと会ったときも、俺が行かなければ魔物の仕業だと思われていたし、ミズチの警告に気付く者も居なかった。
「残りの火精霊のホオリンと契約すれば、人族達から『精霊王』と呼ばれるかもな」
「精霊王?」
「あぁ、人族が噂をする勇者に魔王と同じような称号だ」
「何か得はあるのか?」
「いいや、精霊王と呼ばれるだけだ」
笑いながらノッチは話す。
「精霊王は上級精霊を統べる存在と言う事よ。勝手に人族が作った称号。決して、精霊達全ての王と言うことでは無いので、勘違いしない事ね。しかし、貴方が精霊王って……契約したけど、納得出来ないわね」
アリエルがノッチの説明が的確でない為、補足説明と感想を口にする。
しかし、火精霊のホオリンか……。
俺に婚姻関係を結ぼうとした 水精霊のミズチ。
恋愛話が好きで、少しツンデレ気質のある風精霊のアリエル。
考えるよりも体を動かすのが好きな地精霊のノッチ。
他の上位精霊も人族と同じような感じだが、火精霊と言うだけあって情熱的や熱血のイメージを持ってしまう。
何事も無ければ、出会う事はないだろう。




