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673話 枯槁の大地再生計画-3

 シャレーゼ国の新国王であるネイラートに連絡を取ろうとしたが、連絡先を交換していない。

 それは俺が意図的にそうしたからだ。

 俺は何処に居ようが、帰る場所はエルドラード王国だ。

 ジークにゴンド村そして、王都。

 他国の国王と個人的に連絡先を交換する事は、俺に考えに反するからだ。

 しかし、騎士団長のイエスタくらいは、連絡先を交換しておけばと、少しだけ後悔する。

 仕方が無いので、都に戻る事にする。

 ネイラートに別れを告げて、都から去って数日で戻ってくることになるとは……。

 少し恥ずかしい。



 姿は隠しているが水精霊(ウンディーネ)のミズチに、地精霊(ノーム)のノッチも同行している。

 通常であれば精霊を見る事は出来ない。

 俺は 樹精霊(ドライアド)達から受け取った『大地の祝福』がある為、精霊を見る事が出来る。

 他の者は、俺を媒介する事で見る事が可能らしい。

 確かにミズチを呼ぶ時は当たり前だが、俺が居る。

 会う人々は皆、精霊を見た事が無いと口を揃えて言っていた。

 地精霊(ノーム)のノッチは、ネイラートに言いたい事があると、ついでの話のように言っている。


 とりあえず、都に入りネイラート達が居る城を目指す。

 数日とはいえ、都の人々の表情が変わっていた。

 ネイラートの言葉に嘘がないと分かったのだろう。

 大人も子供も希望に満ちた表情をしていた。

 この光景が見れただけでも、俺は良かったと思う。


 城に着き、衛兵にネイラートに謁見を希望する。

 当たり前だが、有無を言わさずに却下される。

 衛兵の彼は悪くない。自分の仕事をしているだけだ。


 仕方が無いので、騎士団長のイエスタを呼んで欲しいと伝えるが、駄目の一点張りだ。

 仕方が無いので、ネイラートが持たせてくれた封筒を見せる。

 馬鹿にしたように封筒を手に取り、裏返す。

 衛兵の顔が見る見る青ざめて行った。

 シャレーゼ国王家の紋章が押されていたからだ。

 これは国王直々に任務を賜った者にしか、渡されない物だったからだ。


「しっ、失礼しました」


 衛兵は、近くの者を呼び至急、イエスタに俺が来ている事を伝えるように早口で話していた。

 返事が来るまで、俺と衛兵の気まずい空気が流れる。

 衛兵と目が合うと、衛兵が愛想笑いをする。

 先程までの俺への態度で、悪くなった自分の印象を少しでも良くしようとしているのだろう。


「タクト殿、遅くなりました」


 イエスタが走って俺の所までやって来た。


「忙しいのに悪いな」

「何を仰いますか!」


 俺とイエスタの会話に、隣の衛兵の顔色はどんどんと悪くなる。


「そういえば、この衛兵だが」

「なにか、粗相でもしましたか?」

「いいや、不審人物の俺を頑として中に入れようとしなかった」

「そっ、それは、失礼しました」

「怒っているんじゃない。彼は自分の仕事を良く分かっているし、シャレーゼ国の為にきちんと働いている。素晴らしいな」


 俺は衛兵を見て笑う。

 衛兵も最悪の状況を予想していたのか、俺の言葉で緊張の糸が途切れたのか分からないが涙目になっていた。


「それで、私に用事と言うのは?」

「イエスタでなく、ネイラートいや、国王に用事がある。すぐにでも会えるか?」

「タクト殿が、わざわざ足を運んでまで伝える事ですから、よっぽどの事なのですね。すぐに確認致します」


 イエスタは誰かと連絡を取っていた。


「ありがとうございます」


 衛兵が小さな声で俺に礼を言う。


「何がだ?」

「先程、私の仕事内容を褒めて頂いた事です」

「あぁ、そう思ったから口にしただけだ」


 衛兵はネイラートが反乱を起こそうとした時には同行せず、前代国王のウーンダイに使える事を選択した。

 理由は簡単だった。

 反乱の仲間と言う事で、家族や知り合いに迷惑を掛けたくなかったからだ。

 ネイラートにすれば、反乱に参加しなかった騎士や衛兵は裏切り者と思われても仕方が無い。

 しかし、そんな彼らをネイラートは仲間だと言い、国王として未熟な自分を支えて欲しいと頭を下げたそうだ。

 国王が頭を下げた事に、皆が驚く。

 しかし、隣に居たイエスタや反乱に参加した者達もネイラート同様に頭を下げた。


「国は国民の物。決して国王の所有物ではない!」


 ネイラートが言った言葉が心に響いたと話す。

 その言葉をネイラートに教えたのがエルドラード国国王のルーカスだった。

 衛兵から、「エルドラード王国は素晴らしい国なのでしょうね」と聞かれたので、俺は「そうだ」と即答した。

 俺が自信を持って答えたので、衛兵が「いつか、行ってみたいですね」と流れる雲を見ながら呟いた。


 他国との交流がまだ確立されていないシャレーゼ国。

 自分が他国に行くこと自体が、夢の事なのだろう。

 しかし、ネイラートならば近い将来、この衛兵の夢を叶えてくれると、俺は信じている。

 衛兵の彼だけの夢ではなく、シャレーゼ国の国民全体が描いている夢なのだから。

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