671話 枯槁の大地再生計画-1
アリエルは次に、世界樹の役割について話してくれる。
世界樹という名は、このエクシズと言う世界が出来たのと同時に植えられた樹木の為、そのような名が付いているそうだ。
最初は地上にあったのだが、世界樹の葉を煎じて呑めば不老不死の体を得られるや、死んだ者を生き返らせる事が出来る等の間違った噂が広まり、世界樹の葉を奪おうとする者が多数訪れる。
フォーレスも当然、阻止していたが訪れる者が減る事は無かった。
最初こそ、傷付けずに返すつもりでいたが、徐々に森を荒らす者達等も現れた為、命を奪う事も考え始める。
丁度、そんな時に水精霊のミズチと、に地精霊のノッチが世界樹の庭園を訪れる。
フォーレスの悩みにノッチが地中に大きな飛行石が埋まっている事を教える。
飛行石の上の土等を取り除けば、空に浮かぶ。
しかし、何処まで浮かぶかは不明な為、危険を伴う事を伝える。
そして、もう一つ問題は雲の上まで上がった場合、雨が降らない。
樹木が枯れる恐れもあると付け加える。
水に関しては、ミズチが責任を持って世界樹が枯れないようにすると、自分の範疇だとばかりに話す。
実際、世界樹は貯水槽の意味も兼ねているらしく、必要以上の水分を貯めておけるらしく他の樹木も、その水分を使う事が可能らしい。
俺の認識だと、植物に水をあげ過ぎると腐ってしまうイメージがあるが違うようだ。
それから、ノッチが土を取り除いて世界樹の周辺毎、空に浮かべる。
しかし、制御出来ていない為、高さや方向が定まらず、自由に飛び続ける。
風精霊のアリエルが風を上手く使い、比較的目に付きにくいホエイ山の上空で固定をする。
それからはアリエルも世界樹の庭園でフォーレスと暮らしているそうだ。
ミズチは何年かに一度、水の補給に訪れる。
話を聞き終えた俺は、「結局は人族の欲望の被害者か」という感想だった。
「その通りだな」
俺の考えを読んだフォーレスは、俺の思っていた事に同意した。
「それと何故、私の姿がこんなにも幼いのかだな」
俺がフォーレスを最初に見た瞬間に思った感想だった。
その質問は答えなくても良いと言おうしたが、フォーレスが先に答える。
「私も分からない」
樹精霊は本当の姿を見せる事は無い。
樹精霊を見た者の理想の女性に見えるからだ。
しかし、他の樹精霊であるリラやオリヴィア、フローレンスは豊満な肉体を持つ大人の女性だ。
誰もが美人だと口を揃えて言うに違いない。
フォーレスのみ異なっている。
姿だけでなく、口調もどちらかといえば乱暴な感じにも聞こえる。
しかも、樹精霊でも最年長になるだろう。
管理する森の規模等に依存しているわけでもない。
「それよりも、本当の目的はイザベラの事だな」
「あぁ、フォーレスに聞くようにと、他の樹精霊達から言われている」
「まぁ、そうだろうな。結論からすればイザベラは消滅した」
「消滅した?」
「その通りだ。枯槁の大地が消滅した事が原因だ」
「そうか……」
薄々は感じていたが、俺は生きていて欲しいと思っていた。
「だがイザベラの魂は、まだ残っている」
「どういうことだ?」
フォーレスの話だと、枯槁の大地は草木が生えない土地になってしまっている。
肉体となる植物は消滅したが、イザベラの魂は種と成り枯槁の大地の地中で眠っているそうだ。
「つまり、植物が育つ環境に戻れば、復活すると言うことか?」
「その通りだ。それを可能に出来るのは地精霊のノッチと、私達のスキルを受取ったタクトの協力が必要になる」
「俺の?」
「そうだ。枯槁の大地は魔素が充満しております。そのせいか、周囲にも魔物は生息していない。というよりも枯槁の大地のおかげで、シャレーゼ国には魔物が少ない要因となっている」
「つまり、枯槁の大地と言うか、森を復活させれば魔物達も集まってくるという事か?」
「そういう事だ。しかし、それが本来の生態系だ」
確かにそうだ。
人族が生態系を壊した為、魔物が居ない平和な時代が続いた。
しかし、精霊族にとっては本来の姿に戻す事が当たり前だと考えている。
「タクトはフローレンスより、【浄化】のスキルを受取っている。それを使って、枯槁の大地周辺の魔素を取り除いて欲しい」
フローレンスは奈落の密林から動く事が出来ない。
それに魔素に対する免疫も無いかもしれない。
俺であれば、確かにそれは可能だ。
「その後に、ノッチにイザベラの種を探して貰う」
「なるほどね。確かに名案だな」
俺は納得する。
「報酬は私の『大地の祝福』と『ドライアドの実』を十個とユニークスキル三つだ」
報酬の事が頭を過ぎっただけなのに、フォーレスは先に報酬の話を始めた。
「先に二つ教えておく【再生栽培】と【成長促進(植物)】だ」
「あっ!」
樹精霊が俺に対して、毎回使う方法だ。
先にユニークスキルを習得させて、俺が断れない状況を作る。
スキル値の消費は少ないので問題は無いのだが……。
「このやり方は樹精霊で流行っているのか?」
「何を馬鹿な事を。この方法が使えるのはタクトだけだ」
フォーレスは、俺を馬鹿にしたような目で見ていた。
「先にユニークスキルを教えたという事は、イザベラの種を見つけたら復活させろという事だな」
「流石だな。話が早くて助かる。ミズチも一緒に行って来るか?」
フォーレンスはミズチに俺に同行するように頼む。
復活の際に、大量の水が必要になるからだろう。
当然、ミズチは断る事無く了承する。
それにミズチには、地精霊のノッチに協力を頼むという、別の依頼もあった。




