670話 憎き相手!
シャレーゼ国とオーフェン帝国の境にある山の麓まで移動して来た。
この世界で一番高いと言われる『ホエイ山』だ。
麓にある村は既に廃村となっていた。
野生の獣達が村の中に生息していたし、住居の傷み具合を考えても、かなり前から放置されているようだ。
時折、ホエイ山からの吹きおろされる風は強風で、この村で生活していた人達の苦労が分かる。
一応、クロと二人で手分けをして情報が無いかを調べる。
しかし、それらしい情報は無かった。
仕方が無いので、【飛行】を使い山頂を目指す。
雲を突き抜けて、山頂より上を見ると島のような物が浮かんでいる。
あれが『世界樹の庭園』と呼ばれる場所なのだろう。
そのまま、空を移動して近付こうとすると、風が行く手を遮る。
強引に入ろうとすると、風は勢いを増して侵入を阻止しようとしているかのようだった。
「風の力で浮いているのか?」
ふと、そう思う。
その後、何度も挑戦するが、尽く風が俺の邪魔をする。
奥に進もうとするが真空状態になっているのか、かまいたちに似た現象で切り傷が出来る。
やはり、「これ以上は近付くな!」と警告しているのだろう。
「主、左手の甲にある大地の祝福を使ってみては、如何でしょうか?」
「そういえば、フローレスが紋章が教えてくれると言っていたな」
俺は助言をくれたクロに礼を言って、左の拳を強く握る。
(世界樹の庭園まで連れて行ってくれ)
俺が願うと、紋章が浮かび上がる。
そして一筋の光が島の方へと差していった。
この瞬間、あの島が世界樹の庭園だと確信する。
俺はその光に沿って移動をする。
すると、先程まで頑なに邪魔をして来た風が止んでいた。
資格の無い者は入れないという事なのだろう。
島の切り開かれた入口で光は終わっていた。
俺は島に着陸する。
地面には綺麗に石が並べられて、その両脇に森がある。
奥に見える大きな樹が『世界樹』なのだろう。
世界樹を見て歩こうとした時、突風が吹く。
一瞬、目を閉じて開くと目の前に女性が立っていた。
先程までは、その場に居なかったはずだ。
「ここの管理者、樹精霊のフォーレスか?」
今迄、出会った樹精霊とは印象が違う。
目の前の女性は、か弱い病弱な印象だ。
しかし、このような事が出来るのは俺の思いつく限り樹精霊しかいない。
「残念だけど、違うわ」
敵意も無く、心地よい声で女性は答える。
俺は【神眼】で女性を鑑定する。
風精霊のアリエルだと判明する。
「私の正体が分かったようね」
俺の表情から察したようだ。
「樹精霊達の精霊印があるという事は、貴方がミズチの言っていたタクトね」
「あ、あぁ」
いきなり名前を呼ばれ、ミズチの名を出されたので驚く。
「私が案内致しますわ」
「悪いが頼む」
何故かアリエルに対して警戒してしまう。
理由は自分でも分からない。
敵意は感じられないので、敵ではないと思うのだが……。
とりあえず、ミズチを呼ぶ。
現れると同時に、アリエルと仲良く話を始める。
どうやら、上級精霊であるミズチの求婚を、劣等種である人間族の俺が断った事を、アリエルは良く思っていないようだった。
たしかに友人のプロポーズを断った奴に、良い印象を抱くのは難しいと立場を変えて考えると分かる気がした。
ミズチも誤解があるという事で、アリエルを説得していたが、結果だけ見れば変わることは無い。
「とりあえず、歩きながら話をしましょうか」
ミズチの提案でフォーレスが居る所まで歩きながら、話をする事にした。
アリエルと話すミズチは、本当に楽しそうだった。
「此処よ」
世界樹の根本まで案内された。
改めて世界樹の大きさに驚く。
この世界における世界樹の役割や、この浮いている島等、聞きたい事は幾つもあった。
「質問なら答えてやる」
世界樹の幹から少女が姿を現す。
彼女がこの『世界樹の庭園』の管理者である樹精霊のフォーレスだと、すぐに分かった。
俺が自己紹介をしようとすると、情報は既に伝わっているので不要だと言われた。
そして、俺の質問に答えてくれた。
まず、この場所は大きな岩の上に存在していると教えてくれる。
大きな岩は『飛行石』なので、上空に浮いている事が可能な事。
地上にある飛行石は、この岩から崩れ落ちた石になるそうだ。
ホエイ山の山頂付近には沢山落ちているらしいが、歩いて登ってくる者も無い為、風に運ばれた石が各地に点在しているようだ。
飛行石を制御する事が出来ない為、風精霊のアリエルが風を使い制御している。
此処に入ろうとした時に邪魔をしていた暴風には、そういった意味もあったのだと説明を聞きながら納得する。




