665話 漁村、それとも港町?
一睡もせずに、ひたすら進み続けた。
【魔法探知地図】で埋まっていない場所は、寄り道等もして出来る限り埋める努力をした。
【神速】や【飛行】を使ったので効率は良い筈だ。
幾つかの村があったが既に廃村となっていた。
村人達が出て行ったためか、盗賊に襲われた為なのか、それとも飢餓等で村人が死んでしまったかは分からない。
村によっては白骨化した死体さえも無かった村もあったからだ。
改めて、シャレーゼ国の実情を知る事となった。
オーフェン帝国との国境が近くなる。
国境と言っても、ここから海で渡るか山を越えるかしなければ、オーフェン帝国には行けない。
流石に港がある町まで滅んでは居ないだろうと思い、進んで行く。
数分後に港のある町に到着する。
大きさから言って、町というより村と言った感じだった。
分かってはいたが、活気が無い。
いや今迄、見てきた村よりはまだある方なのかも知れない。
もう少し待てば陽が昇るので、村に入るのは少し待つ事にした。
その間、上空に上がり位置関係を把握する。
村の上空からだと、オーフェン帝国がある対岸が見えない。
山や霧が邪魔をしている事も影響している。
村に停泊している船も漁船ばかりだった。
俺が今迄、シャレーゼ国で見てきた村では一番まともな村だ。
やはり、オーフェン帝国との往来がある事や、漁業があるからだろう。
見栄を張る前国王であれば、この村をもっと整備していても良いと考えたが、都から遠い村にまで予算を割く必要が無いと考えたのかも知れない。
海を見ながら、ふと思う。
この世界は海の探索を、どれ位の範囲までしたのだろうか?
もしかしたら、未開拓な島等もあるのだろうか?
アルやネロに聞けば、そう言った事も教えてくれるのかも知れない。
陽が昇り始めたので、地上に下りてシロとクロに連絡をすると、すぐに駆け付けて来てくれた。
「ゆっくり、休めたか?」
二人共、獣の姿で頷く。
「因みに、何をしていた?」
俺は興味があったので、二人に尋ねる。
シロは、【魔法創製】で新しい魔法を作っていたと答える。
クロは四六時中、ユキノの護衛をしていたと話す。
二人の答えは俺の中で休暇では無い。
しかし、二人共が俺の力になろうとしてくれているのが伝わる。
シロとクロには人の姿になって貰い、港の村を訪れる事にした。
俺達が村に近付くと案の定、俺達が珍しいのか好奇の目で見られる。
村の中に入ってみたが、声を掛ける者も居ない。
それに訪れる者も居ないのか、宿屋や飲食店は閉店していた。
村人を見るが漁業があるだけ、他の村よりも健康状態はよさそうだ。
「あんた、オーフェン帝国へ渡るつもりか?」
虎人族の男が俺に話し掛けてきた。
シャレーゼ国に人間族以外が居たので、俺は驚く。
「いいや、山を越えるつもりだ」
「おいおい、あんた正気か! いくら金貨が無いとはいえ、それは無謀だぞ!」
「まぁ、無謀だとは思うが、俺には行かなければならない用事があるんでな」
「そうか……。まぁ、死にそうになったら帰って来いよ」
「ありがとうな。それより、虎人族なのにシャレーゼ国に居るのは珍しいな?」
「あぁ、俺はこの国の者では無いからな」
「この国の者で無いって事は、オーフェン帝国か?」
「あぁ、その通りだ。通貨の換金や、船の手配等をしている」
オーフェン帝国から派遣された商人という感じなのだろう。
しかし、他国と積極的に貿易をしていないシャレーゼ国の筈だが……。
俺が考えていると虎人族の男が、俺の考えを読んだように話す。
「シャレーゼ国との貿易は無いと思っているんだろう?」
「あぁ、そう聞いていたからな」
虎人族の男は『ダルベット』と言うそうで、他にも村に滞在している仲間が四人居るそうだ。
表向きは先程聞いた内容だが、実際にオーフェン帝国との間を往来する者は殆ど居ない。
建前上、人を配置する必要がある為、仕方なしに滞在しているという事だった。
事実、ダルベット達は村人達と漁業等を一緒にしていると話していた。
そして、俺の大きな勘違いだが、此処は村で無く町になるそうで、『プレッツ』と言う名前だそうだ。
「町の代表に挨拶をしたいが、案内を頼めるか?」
「その前に、お前さん達が無害な者かを証明出来るか?」
「そうだな……これでいいか?」
俺はエルドラード王国の冒険者ギルドカードと、ネイラートから貰った手紙を見せる。
「……本物か?」
「本物だ」
明らかに疑っている。
俺は提案として一旦、村の外に出るので、ネイラートからの手紙だけ渡すので町の代表に渡して貰う様、ダルベットに頼む。
「分かった」
ダルベットにネイラートからの手紙を渡して、俺達はプレッツ町の外で待機する事にした。




