662話 持て余す時間!
カンツオ村には思っていた以上、滞在してしまった。
滞在と言っても、夜しかやる事は無く、昼間は観察していただけだ。
二日目の昼間に観察をしていると、エルドラード王国冒険者ギルドのグランドマスターであるジラールから連絡が入った。
用件は、シャレーゼ国の事だった。
俺は国王であるウーンダイを倒した事や、第三王子のタッカールは殺されて、魔族に変わっていた事を話す。
ジラールは、既に反乱が成功したとは思わずに連絡をしてきたようだったので、驚いていた。
ジラールから国王であるルーカスに伝えて貰うように頼む。
「もう、戻ってくるのか?」
「いいや、少しシャレーゼ国を旅してから戻るつもりだ。何かあったのか?」
「その、なんだ。タクトに指名クエストが来ている」
「俺に? 誰からだ?」
「国王様からだ」
以前のルーカスであれば、大して驚きもしなかったが、俺との記憶を失っているルーカスが指名してくるという事は、冒険者としての能力を求めている事になる。
「それはいつだ?」
「二か月後だ。詳細な内容については、直接話したい」
「あぁ、構わない。エルドラード王国に戻ったら、ギルド会館に顔を出す」
「分かった」
クエスト発注が二か月後という事は、クエスト納期はもっと先になる。
事前に準備が必要な内容なのかも知れない。
それと、長期クエストなのかくらいは、聞いておくべきだったと後悔する。
三日目の昼間は、死者を扱うという事で冥界の神であるオーカスに、報告する必要があると思い、冥界と連絡が取れる【蘇生】のスキルを使う。
俺が冥界に行くと黒いローブを被った者が現れる。
担当であるセレナを呼ぼうとすると、セレナの魂は既に無いと告げられた。
ガルプツーが死んだ事で、一緒に成仏したという事なのだろう。
とりあえず、俺の事は知っているようなのでオーカスを呼んで貰う様に伝える。
黙って頷くと、俺の視界から消える。
暫くするとオーカスが姿を現す。
俺は【死霊魔法】のスキルを習得した事を話す。
オーカスは既に知っていたようで、わざわざ俺から報告に来た事には驚いていたようだ。
ロッソは【死霊魔法】という括りで、ユニークスキルを習得しているが、死霊系魔法という事になると思う。
俺の習得した【死霊召喚】と【魂寄せ】以外にも個別魔法として、ユニークスキルを習得している者も、今迄も少数だが居たそうだ。
通常であれば、扱えるスケルトンやゾンビの数は数体程度で、スキルによっては持続中にMPが消費され続けるので、使用する事自体が難しいスキルになる。
そもそも、習得する事自体難しいスキルだ。
オーカス自身は、【死霊魔法】に関して、特に制限は設けていない。
誰がどのように使用しようと関係無いらしい。
ロッソの場合はリッチである為か、冥界と連絡が取る事が可能らしい。
大量のスケルトンやゾンビ等を扱う事が出来る為、俺同様にオーカスに挨拶はしたそうだ。
ロッソとオーカスが言葉を交わしたのは、その一度きりらしく遠い昔の事だと教えてくれた。
俺はロッソがアンデッドモンスターのロードである事を言うが、オーカスは「成程」と言うだけだった。
冥界以外の事なので、あまり興味が無いのかも知れない。
俺の用件が済むと同時に、オーカスは俺の目の前から消える。
そして、俺も冥界から現実世界に戻る。
それ以降、昼間に連絡が入る事は無かった。
このカンツオ村のような村が、他にもあるのかと考える。
シャレーゼ国の犠牲になっているのは、何も知らない国民達だ。
ネイラート達が一刻も早く、国を復興してくれる事を願い、同じ様な犠牲者が出ないで欲しいと思った。
俺は背伸びをして、大きく呼吸をしてカンツオ村を出発した。
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真夜中なので、辺りからは獣の鳴き声がする。
人とすれ違う事も無い。
もしかしたら、盗賊が出現するかもと考えていたが、現れることは無かった。
走り続けながら、シロとクロの事を考える。
二人共、休暇を満喫しているのだろうか?
聖獣や魔獣と言われている二人にとって、人族のように休暇という概念が、元々ないのだろうとも考える。
良かれと思い、休暇を与えた事が二人にとっては迷惑な事だったのではないかさえ考え始めた。
朝が来たら、二人に連絡を取ってみようと思い、ひたすら走った。




