650話 隠蔽と攻撃!
「くそっ!」
ウォンナイムは起き上がり、俺に唾液を吹き掛けるが掌で防ぐ。
「なっ、何故だ。人族であれば皮膚は焼けただれる筈だ!」
「これが俺とお前との実力差だ」
「そんな筈は無い!」
ウォンナイムは、俺の方が強いという事を認めようとしなかった。
認めれば、今迄の自分を否定してしまうとでも思っているのだろうか。
俺は徐々にウォンナイムとの距離を詰める。
「プルガリスの居場所を教えろ」
「知っていたとしても、お前に話すつもりは無い」
「……だろうな」
「死ね!」
やけくそになったのか、四本の腕で攻撃を仕掛けて来た。
俺はそれを避けて、ウォンナイムの顔を殴る。
顔の外殻が崩れて青い血が流れる。
「馬鹿な奴だ。これで、俺の勝ちだ」
拳を見ると小さな棘が数本刺さっている。
「私の体には無数の針が出ている。しかも全ての針が猛毒だ!」
自慢気に話すウォンナイムだが、俺は気にせずにウォンナイムを殴り続ける。
殴る度にウォンナイムの外殻が剥がれて、青色の血が飛び散る。
四本の手も動くことなく、垂れさがったままだ。
神経でも切れたのだろう。
「話す気になったか?」
「何故、私の猛毒が効かない」
「俺に毒は効かないんだよ」
「そんな筈は無い! これはプルガリス様より頂いた素晴らしい力だ!」
プルガリスに貰った力?
物理的な物なので、スキルでは無い。
「お前、自らの体を改造したのか?」
「そうだ。それによって私は素晴らしい力を手に入れた。だから、お前に負ける筈が無い!」
ウォンナイムは叫んだ。
やはり、ガルプツーの背後でプルガリスが指示を出して、生体実験を行っていた。
以前に潰れた研究所も、プルガリスが関係していたという事だ。
俺はウォンナイムが話す気が起きるまで、攻撃を続ける。
ウォンナイムは、膝から崩れ落ちて口から青色の血を吐き出した。
「いいだろう、教えてやる。プルガリス様に倒されてしまえば良い」
自分では勝てないと思い、仇をプルガリスに託すつもりなのか?
「プルガリス様は!」
喋っている途中でウォンナイムの体から黒い棘が飛び出す。
ウォンナイムは絶命していた。
プルガリスの秘密を喋ろうとすると、体内部から黒い棘が飛び出すように、何か施されていたようだ。
これで、プルガリスの足取りが途絶えた。
ネイラート達の所に戻ろうとすると、ウォンナイムの体から飛び出している黒い棘の根本から先端に掛けて、徐々に赤色に変化している。
俺は嫌な予感がしたので、ウォンナイムの周囲に【結界】を重ね掛けをする。
先端が赤色に変わると同時に、ウォンナイムの体が爆発した。
プルガリスは、自分の秘密を喋ろうとした者と、自分の秘密を聞き出そうとした者の両方を始末するつもりだったようだ。
この方法であれば、効率的に殺すことが出来る。
俺は爆発したウォンナイムを見ていると、影のような物の形が変わり顔の形に変化した。
見た事のある顔だ。
そう、プルガリスだ。
俺と視線が合うと目じりを下げ、口角を上げて嬉しそうな表情を見せる。
その表情を保ったまま、霧のように消えていった。
その瞬間、プルガリスは俺を見ていたのだと確信した。
必死で自分を追う俺を滑稽だと、嘲笑っているのだろう。
俺は【結界】の中が落ち着いた事を確認して、【結界】を解く。
ウォンナイムの体の欠片らしき物が、幾つか焦げた状態で床に転がっていた。
所詮、ウォンナイムもプルガリスに利用されただけだったのだろう。
しかし長年の間、このシャレーゼ国を影から支えていた事も事実だ。
当然、それなりの見返りがあったからだろう。
俺は疑問を抱く。
シャレーゼ国が建国されたのと、プルガリスが第五柱魔王になった時期だ。
俺が魔王になる前は、プルガリスが一番新しい魔王だった筈だ。
王都を攻撃した話や、前回の転移者が第五柱魔王になった話も聞いた。
つまり、プルガリスは魔王になる前から、ウォンナイムを配下にしていた事になる。
長い年月を掛けて、魔王になったと考えるべきだろう。
とりあえず、ネイラート達の様子を確認する前に、部屋の端っこで気絶している国王のウーンダイを確保する事にする。
体の一部はウォンナイムの攻撃で焼け爛れている。
最初にウォンナイムから受けた攻撃で、骨も何本か折れているようだ。
死んではいないし、命にも別状は無いだろう。
【アイテムボックス】から縄を取り出して、ウーンダイの両手両足を縛る。
これで逃走する事は出来ない。
例え、縄で縛らなくても激痛で体を動かす事が出来ないかも知れない。
ウーンダイをどうするかは、ネイラートが決める事だ。
俺は、ウーンダイを動かさず、ネイラート達の所まで移動する。




