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639話 絶望の帰路!

 ネイラート達一行は、旅人として王都から出ようとしていた。

 表情からもルーカスから、良い返事を貰えなかったのだろう。


 ルーカスもあの後、大臣等と調整はしたが他国の反乱に手を貸す等、以ての他だと言う意見ばかりだったと、偵察してくれていたクロから聞いた。

 俺としては当たり前だと思っている。


「もう、戻るのか?」


 王都の門から外に出た、ネイラートを呼び止める。


「タクト殿」


 俺を見るネイラートだが、思っていた以上に元気が無い。


「帰り道は分かるのか?」


 俺の転移魔法で、ここまで来たので帰り道も、よく分かっていないだろう。


「そうですね、なんとか帰る事は出来るかと思います。タクト殿にも、色々とお世話になりました。本当に有難う御座いました」


 ネイラートは馬の上から失礼だと言いながら、俺に感謝の言葉を口にした。


「折角、エルドラード王国まで来たんだから、冒険者でも雇って戻るつもりは無いか?」

「冒険者ですか……」

「ここに暇な冒険者が一人居るんだが。今なら、聖獣の二人も付いてくるし、お得だと思うぞ」

「……タクト殿」


 シャレーゼ国へ無事に帰って貰わないと、案内した俺としても目覚めが悪い。

 それに、シャレーゼ国に少し興味もあった。

 案内するだけなので、特に問題無いだろう。

 しかし、ネイラートは俺の身を案じてくれているのか、エルドラード王国との関係を心配していた。


「俺の正体がバレないように、仮面でも被れば問題無いだろう」


 楽観視していた俺だったが、対策をしてネイラートに余計な気遣いをさせないようにする。

 仮面は売っている物だと、足が着く可能性があるので、シロに調達して貰う事にする。


「御厚意感謝致します」


 ネイラートが礼を言う。

 俺はシロに連絡して、仮面を調達して貰う事にした。


 王都から少し歩いた所で、尾行が居ないかを確認したが、数人が変装をしながら着いて来ていた。

 ルーカスとしても、ネイラートがエルドラード王国から出国した事を知るまでは、気が休まらないのだろう。

 俺が【転移】を使い、ネイラート達をシャレーゼ国に帰そうとしたら、尾行者はネイラート達を見失い、混乱を招く恐れがある。

 俺はネイラートに「尾行されているので、転移魔法は使えない」と伝える。

 ネイラートは、静かに頷いた。

 案内すると言ったからには、何日掛かろうが同行するつもりだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 思っていた以上に移動距離が伸びない。

 馬はあっても、馬車が無いのは辛い。

 よく、ネイラート達はシャレーゼ国から逃亡の旅を続けて来れたと感心する。

 もしかしたら、最初は馬車があったが追っ手の攻撃で、破壊されたのかも知れない。

 初日は、街や村に到着する事無く、野営をする事となる。


 食料は、俺が獣を討伐したりして調達する。

 ネイラート達は、申し訳なさそうにするが、今ある食料も決して多い訳では無い。

 いずれ、底をつくのが分かっていた。

 水は俺の魔法があるので、問題は無い。


 ネイラートは深刻な顔で、起こした火を見ていた。

 早く戻って、母親を救出したい気持ちと、仲間達にこれ以上は無理をさせられない気持ちとの間で、悩んでいるのだろう。

 そして、ルーカスから協力を拒まれた為、この仲間達もシャレーゼ国に戻れば、死ぬ可能性がある。

 いや、その可能性の方が高い。

 クーデターを起こすのだから、犠牲は仕方が無いと思っていても、自分の我儘で、彼等を死なせてしまっても良いのかと葛藤しているのかも知れない。


「俺で良ければ、話し相手にでもなろうか?」

「タクト殿」


 あまりにも、思いつめた表情だったので、思わず声を掛ける。

 ネイラートも俺に声を掛けられたのが予想外だったようだ。


 話を聞くと言っても、ネイラートの本心を話す事はしなかった。

 俺に話をすれば、俺を巻き込むかもしれないネイラートの優しさだろう。

 ネイラート自身は、父親達と一戦交えるつもりなのは間違いない。


 俺達の話を、イエスタが聞いている。

 聞いていない振りをしているが、気になっているのだろう。

 イエスタも、ネイラートの為なら命さえ投げ出す覚悟がある事は分かっていた。


 ネイラートは仲間達に、ルーカスとの話等をどのようにしたのだろうか?

 聞くに聞けない雰囲気なので、ネイラートも言い出せないのかも知れない。

 しかし、いつまでも黙っている訳にもいかないだろう。

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