636話 連携攻撃!
セルテートの蹴り技が終わると、その影から【火球】が飛んで来る。
俺は肉弾戦を楽しむ為に、前回とは違い【魔法反射(二倍)】をオートスキルから外していた。
飛んで来た【火球】を避けると、セルテートが予想していたのか俺に殴りかかって来た。
それも簡単に避けて、セルテートと距離を取る。
セルテートは俺が逃げたと思ったのか、嬉しそうな表情を浮かべていた。
しかし、ロキサーニは冷静な表情をしていた。
やはり、セルテートが攻撃している間に詠唱を唱えて、魔法を発動させている。
当然、魔法を連発で出す事も出来ない。
俺が初見だと思い、ロキサーニの事を魔法剣士だと知らない前提での攻撃だろう。
ロキサーニも、いとも簡単に俺が攻撃を回避した事に驚いているに違いない。
「なかなか、いい攻撃だったぞ」
敢えて上から目線で話し掛ける。
そして、手を前に出して指を曲げて、「掛かって来い」と笑いながらセルテートを煽る。
怒りに任せて俺に攻撃しようとするセルテートだったが、ロキサーニが止める。
「悪い」
自分を見失った事に気が付いたセルテートは、ロキサーニに謝罪する。
戦闘力は一流かも知れないが、精神面は二流なのは変わっていない。
仲間の足りない部分を補うのが、ロキサーニでありステラなのだろう。
冷静になったセルテートは、攻撃を再開する。
連続で殴りかかって来たり、蹴りを出したりしている。
俺の後ろにロキサーニが回り込んで、剣で攻撃をして来た。
どちらも、相手に当たらない距離を保ちながらも、俺への攻撃は当たる距離だ。
しかも、俺を上手く壁際へと誘導している。
一朝一夕で出来る芸当ではない。
「流石だな」
俺は聞こえるように呟いてみた。
セルテートの蹴り出された足を掴み、後方に引っ張る。
後ろで攻撃しようとしていたロキサーニは攻撃を止めて、セルテートを避ける。
俺から一瞬目を離したロキサーニの背後に回り、セルテートの方に体を押すと、ロキサーニとセルテートは絡み合うようにして、地面に倒れ込んだ。
「何をしたの?」
近くで見ていたステラも、俺の攻撃を目で捉える事が出来なかったようだ。
ステラには二人の間から俺が消えたと思ったら、次の瞬間にはロキサーニとセルテートが倒れていたように見えたのだろう。
当然、攻撃された二人は何をされたか分かっている。
しかも、足を引っ張られたり、背中を押されただけの攻撃とは言い難いものだ。
俺に見下ろされている事に気が付いたセルテートは、ロキサーニを退けると起き上がると同時に、俺へ攻撃を始めた。
攻撃を避けながらセルテートやロキサーニが、スキルを使わない事に気が付く。
しかし、使わないのではなく、気が付かれない様に使っているのかも知れないと考えを改める。
一流の冒険者はスキルを口にしないのだろう。
つまり、スキルを口にする奴は二流以下と言う訳だ。
この世界では、その事に気が付くだけでも、大した事なのかも知れない。
セルテートが俺に殴りかかって来た瞬間、カウンターで顎を軽く叩く。
脳を揺らされたセルテートは、そのまま膝から崩れ落ちる。
意識ははっきりしているが、体は思うように動いてくれない事が不思議なのか、俺に向かって「魔法か!」と叫んでいた。
セルテートの口から降参する言葉は聞けないと思っているので、俺はセルテートの足を掴んで上空で回す。
観客席からは笑い声が聞こえてきた。
ロキサーニが起き上がり、剣で切りかかってきたが、セルテートを回しながら攻撃を避け、時には武器としてロキサーニに当てようとしたりした。
暫く回して、地面に下ろすと千鳥足で左右に動いている。
とりあえず、殴り飛ばすと反対方向まで飛んで行った。
叫び声が聞こえなかったので、気絶している筈だ。
ロキサーニは俺の方を見ながら、セルテートの所まで移動していた。
ステラは一目散に、セルテートの元へと走って行った。
「これで俺の勝ちだよな?」
ステラとロキサーニに聞く。
「確かに、私達の負けですね」
ロキサーニは剣を下ろして、自分達の負けを認めた。
ステラは、セルテートが無事かの確認をしていた。
「出来るだけ傷付けないように、勝つつもりだったから大丈夫だろう?」
ステラに逆切れされないように、俺は気を使ったつもりだが……。
「はい。貴方の勝利です」
ステラは睨みながら、俺の勝利を宣言する。
仲間が倒されて悔しいのだろう。
「しかし、簡単に倒されましたな」
「まぁな。しかし、上手い連携だったな。ステラの魔法が加われば、太刀打ち出来る奴は、そうそう居ないだろう」
「そう言って頂けると嬉しいですね。タクト殿の実力を引き出す事も出来ませんでしたが」
「まぁ、それはそれだ」
ロキサーニは俺が様子を見ながら闘っている事に、気が付いていたようだ。
客観的に状況を見れるのも、ロキサーニの強みなのだろう。
ロキサーニは倒れているセルテートを担ぎ、俺に一礼してから去って行った。




