631話 依頼完了!
ジラールから連絡があったので、城に戻る。
ネイラートとの話がどうなったのかは、俺も気になっていた。
ネイラートがエルドラード王国に協力を頼んでも、ルーカスはいい返事はしない筈だ。
他国の情勢に介入する前例を作ってしまえば、各国が自分の都合の良い者達を支援し始める。
国と言う体を壊してしまい、この世界の独裁者を作ってしまう危険もある。
だからと言って、ネイラートを匿えば、国同士の大きな問題へと発展する。
シャレーゼ国としては、反逆者を渡せと言うのは正当な権利だからだ。
ネイラートに、エルドラード王国まで案内を頼まれた時から、ネイラートが希望する回答が貰えないと思っていた。
しかし、俺が案内を断っても、ネイラート達は諦める事無くエルドラード王国を目指していたのだと思う。
そう思い、ネイラート達をエルドラード王国まで案内してきた。
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「冒険者のタクトだ」
俺はルーカス達に自己紹介をする。
今回はシロとクロも本来の姿のまま、同行している。
そして、呪詛証明書を提示して、丁寧語が話せない事を伝える。
部屋には先程、別れた時に居た四人の他に国王のルーカスに、王妃のイース。それに、王子のアスランと護衛衆の四人が居た。
今、俺が最も会いたくない王宮鑑定士のターセルの姿もある。
当然、俺の事を【鑑定眼】で鑑定しているだろう。
「まずは、ネイラート王子を案内してくれた事に礼を言う」
ルーカスは俺に話し始める。
ネイラートとの対談については何も話をしなかった。
「ネイラート殿と同行していた者達は客室に滞在して貰うので、後で案内を頼む」
「先に部屋だけでも教えて欲しい」
「私が案内致します」
俺は言葉に、アスランがルーカスの代わりに答えてくれた。
ネイラートとイエスタも退室して、用意された部屋へと移動するそうなので、俺も同行する。
当然、アスランだけでなく、護衛衆からロキサーニも同行する。
部屋を移動する際も、ネイラートは浮かない表情だった。
俺の予想通りの結果だったのだろう。
一言も話さずに滞在に用意された部屋に着いた。
ロキサーニに続いて、アスランが入る。
合図とともに、ネイラートとイエスタが部屋へと入って行く。
部屋は思っていたよりも広い。
ネイラートから人数を聞いていたので、大き目の部屋を用意したのだろう。
客室だが、ベッドは数個しかない。
部屋の中でも幾つか仕切られている。
アスランとロキサーニが、部屋の仕様を説明する為に、扉を開けて隣の部屋へと移動したので、その隙にクロが全ての人達を部屋に出す。
先程まで、自分達が居た部屋から人声が聞こえるので、いち早くロキサーニが部屋に戻って来た。
ロキサーニは部屋を見て絶句する。
つい先程まで俺以外、誰も居なかったのに多くの者達が戸惑いながら立っている。
「ネイラートの仲間を連れてきた」
俺は簡単に説明をする。
「この一瞬で、どうやって……」
ロキサーニの後ろに居たアスランも驚いていた。
ネイラートとイエスタも驚いていたが、どこか寂しそうだった。
ネイラートとイエスタは、他の者達に説明をする。
ここがエルドラード王国の城である事。
エルドラード国の国王ルーカスに話を聞いてもらった事等だ。
話し合いの結果が気になる者も居たが、ネイラートは「今夜、話す」とだけ伝えた。
途中になった、部屋の説明を再開して貰う。
夜間の出入りは出来ず、扉には衛兵等を数人配置する事等も、説明をしていた。
万が一の事も考えているんだろう。
部屋の説明が終わったようなので、俺はネイラートに声を掛けて、俺の依頼はここまでなのをネイラートに伝える。
「そうですね。確かに……」
ネイラートは服から装飾品を外す。
「ネイラート様、それは!」
イエスタが何か言おうとするが、ネイラートが止める。
「これを」
宝石が付いた装飾品を俺に差し出す。
「これで足りるでしょうか?」
【鑑定眼】で見てみると、シャレーゼ国に代々伝わる宝石の一つのようだ。
ネイラートには、とても大事な物なのは分かる。
「これは大事な物なんだろう。今度会った時に別の物を貰うから、これは仕舞っておけ」
「しかし……」
俺は無理矢理、ネイラートに装飾品を返す。
「分かりました。今度、お会いする事があれば、その時は……」
俺の「今度」と言う言葉に戸惑ったようだ。
ルーカスとの話で、俺ともう一度会う事は無いと感じているのかも知れない。
お気楽な冒険者と違い、国民の事を考えている者達の苦悩はだろう。




