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626話 自身の証明!

 城は復旧作業中だった。

 他の都市からも人員を集めているのか、人の往来が多く賑やかだった。

 シロとクロには、ネイラート達の護衛を頼んだ。

 万が一を考えてだ。


 俺はギルド本部へと向かう。

 今、俺が頼れるものと言えば、冒険者という立場しかない。

 その冒険者の最高ランクであるランクSSS。

 俺が自分自身を唯一証明出来るものだ。


 ギルド本部の入口に立ち、深く深呼吸をして建物の中に入る。

 俺の知っている風景と変わっていない。

 しかし、見たことの無い奴が入ってきたと、何人かの冒険者が俺を見ていた。

 俺はクエストボードを見ている冒険者達の横を通り、受付に直行する。


「何か、御用ですか?」


 いきなり目の前に、見知らぬ奴が現れた事で、受付嬢は警戒しながら俺に話し掛ける。


「グラマスのジラールか、サブマスのヘレンは居るか?」

「あの、失礼ですが……」


 俺はギルドカードを見せる。


「し、失礼しました。少々、御待ち下さい」


 ギルドカードを見た受付嬢は顔色を変えて、席を立った。

 その様子を見ていた冒険者達は、先程以上に俺を見ていた。

 正体不明の冒険者だから、興味があるのだろう。


「グラマスがお部屋へとの事です。どうぞ、こちらへ」


 受付嬢は俺をジラールの部屋へと案内してくれる。

 案内してくれなくても知っているのだが、素直に案内される。


 部屋の前で受付嬢が扉を二回叩く。


「グラマス。タクト様を御連れ致しました」

「入ってくれ」


 受付嬢は扉を開け、俺に中に入るよう促す。

 俺が部屋の中に入ると、受付嬢は御辞儀をして扉を閉める。


 俺はジラールに向かって、第一声が出てこなかった。


「……その、グラマスとして恥ずかしいが、タクトの事をあまり覚えていない。ランクSSSであれば、覚えている筈なんだがな」

「気にしなくていい。ギルド本部には滅多に顔を出さないからな」


 俺はジラールに話を合わせる。

 グラマスが、ランクSSSの昇級試験に立ち会わない筈が無い。

 仮に前任者だとしても、俺は人族の中でも短命な人間族だ。

 グラマスであるジラールより、長く冒険者をしていると言うのは考えにくい。


「まぁ、座ってくれ」


 ジラールに言われて座る。

 俺は一応、ギルドカードと呪詛証明書を見せる。


「提示しなくても大丈夫だ。しかし、【呪詛】にも掛かっているとは珍しいな」

「まぁ、色々とあったからな」

「深くは聞かないから安心してくれ。それよりも、ランクSSSの冒険者がいきなり何だ?」

「まずはこれを見てくれ」


 俺はイエスタから預かったシャレーゼ国王妃の手紙を、ジラールに見せる。

 手紙を読んでいたジラールの表情が、読み進んでいく度に険しくなっていく。


「経緯を教えて貰ってもいいか?」


 俺はシャレーゼ国と往来が可能な洞窟付近で、ネイラート達一行と出会ったと嘘を付き、王都まで護衛をして来たと伝えた。

 理由は分からないが、ルーカスに伝える事があると聞いていた為、疑う事無く重要人物だと思ったと話す。

 途中で、シロとクロにも伝えて、ネイラート達と話を合わせるように頼む。


「成程な。それで、ネイラート王子達は何処に?」

「王都に入る身分証明書が無いから、少し向こうで待機している」

「そうか。関係者に連絡を入れるから、少し待っていてくれ」

「あぁ、頼む」


 ジラールは【交信】で誰かと話を始めた。

 俺は天井を見ながら改めて、「俺の事を覚えていないんだな」と思っていた。


 部屋の扉を叩く音が聞こえて、「失礼します」とヘレンが入ってきた。

 ヘレンはジラールが、【交信】で連絡していると分かったようで、俺に挨拶をして来た。

 俺も先程と同じように、ギルドカードと呪詛証明書を提示する。

 ヘレンもランクSSSの冒険者が相手とあってか、少し緊張をしているように見えた。

 俺がどんな人物か分からないから、他の冒険者同様に警戒をしているのだろう。


「少し、変な事を聞いてもいいか?」

「はい、なんでしょうか?」

「俺は冒険者達の間では、どう思われている? ヘレンの主観でも構わない」


 俺自身が、記憶を失った人族の間でどのように捉えられているのかを聞く。


「そうですね……無職無双という言葉が最初に思い付きますね」

「俺の二つ名ね」

「はい。それに存在しているのかと疑問視もされていました」

「ヘレンは俺が実在している事は知っているだろう?」

「はい、勿論です。しかし、以前に面識がある筈ですが、初対面の印象しかありません。変な感じです」


 やはり、オーカスの記憶操作での不整合があるようだ。

 都合良く記憶が変わるとはいえ、難しいのだろう。


「それと、変人という噂もあります」

「……それは、ランクS以上の冒険者に変人が多いからか?」

「それは分かりません」


 ヘレンの話を統合すると、俺と出会い会話をして「タクト」というランクSSSの冒険者だと認識されれば、記憶の改ざんが始まるという訳だ。

 俺と会話を交わさなければ、以前に親交があったとしても、俺という人間を思い出さないという事になる。

 彼等の中では、ランクSSSの冒険者タクトと、俺が合致しないという事だ。


 もう少し、情報収集をする為には出来る限り、多くの人と会話をする必要があると感じた。

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