604話 絶望!
「愛する者を殺された気分は、どうですかな?」
破壊された窓の外から声が聞こえる。
聞き覚えのある声だ。
「……お前の仕業か」
俺は声のする方を睨みつける。
「えぇ、そうですよ」
影が変化してガルプツーが姿を現した。
クニックスの時に居た老人の姿だった。
「これで私の憎しみも分かって貰えるでしょう」
ガルプツーは満足気な表情で、俺に話す。
俺が怒っているのが分かっているので、ガルプツーは挑発をしてくる。
怒りに任せて攻撃をしようとすると、それを察知したガルプツーは不敵に笑う。
「今、私を攻撃したら王都はどうなりますかね?」
ガルプツーの後ろには王都の街がある。
避けられる事は【命中率自動補正】があるので無いが、その影響が周りに出る事は間違いない。
「貴方には、私達の計画を何度も邪魔されましたから、この機会を狙っていましたよ」
ガルプツーは嬉しそうに笑う。
「絶望を知った感想を教えて貰えますか?」
俺はガルプツーとの距離を詰めて、ガルプツーに殴り掛かる。
怒りが頂点に達しているとはいえ、思っていたよりも冷静だった。
ユキノを殺した奴を殺す!
明確な理由に基づいて行動しているだけだと感じる。
ガルプツーも俺の行動を読んでいたのか、空へ移動して俺の攻撃を避ける。
「城へ簡単に魔獣を送り出す事は出来ない。何をした!」
「簡単な事ですよ。贈呈品の中に仕込みをさせて貰っただけですよ」
「結界があるはずだ。外から簡単に持ち込めるわけがない」
「えぇ、そうです。タクト、貴方のお陰ですよ」
「……どういう事だ」
俺の攻撃を躱しながら、楽しそうに話す。
「貴方が転移扉と呼んでいる物を応用させてもらいました」
この言葉に俺は驚く。
俺の表情が変わった事が面白いのか、ガルプツーは話を続ける。
「国王の贈呈品の中に細工をして、箱を開ければ魔獣達が出て来れる仕組みにしただけですよ」
「嘘を付くな! それが本当なら、出入り出来る箱の大きさの魔獣しかいない筈だ!」
「流石ですね。私自身、その結界が邪魔で城に侵入が出来ませんでしたよ」
「……お前が侵入して、魔獣を召喚したって事か」
「えぇ、ガルプワンの能力を私なりに試した結果ですよ」
魔獣達を自分の影に捕獲して、自分が城に侵入したと同時に開放したという訳か……。
ガルプツーが、「元を辿れば俺のせいで今回の事が起きた」と、言っている気がした。
ガルプツーと戦闘をしながら、シロとクロと連絡を取り、俺の所に戻って来てくれるように頼む。
二人共、俺を通して状況が分かっているのか、何時でも駆け付けれるようにしてくれていたようだ。
「ガルプワン。又、私の邪魔をしに来たのか!」
クロを見るなり、ガルプツーは叫ぶ。
「ガルプツー。今度は絶対に逃がさない」
クロがガルプツーを睨む。
(主、絶対にガルプツーは逃がしません。ユキノ様の所へ)
クロが俺に気を使ってくれている。
ユキノの所にはシロが居る。
俺が戻るまで、何人たりとも近づけないように伝えてある。
「相変わらず、忌々しい奴だ」
ガルプツーは影に紛れて逃走しようとする。
しかし、クロがそれを妨げる。
「ユキノ様が殺された事は、何度もガルプツーを逃がした私の失態です! ガルプツーよ。これ以上の殺戮は私の命に代えても、絶対にさせません」
クロは俺に謝罪をしながら、覚悟の言葉を口する。
影の中へ逃げる事が出来ないと思ったガルプツーは、そのまま飛行して逃走した。
俺とクロも、ガルプツーを追撃する。
戦闘しながら暫くすると、諦めたのか地上に降りる。
「しつこいですね!」
ガルプツーは自分の影から魔獣を開放する。
「まだ、隠していたのか……」
「当たり前でしょう」
不敵な笑みを浮かべる。
しかし、次の瞬間にその表情は消える。
クロが解放された魔獣を全て自分の影に捕獲したのだ。
「私が主のお陰で習得したスキルです。真似されたスキルに劣る筈がありません」
クロがガルプツーを睨んでいる。
「くそっ!」
逃げようとするガルプツーだったが、手足に影の縄のような物が絡みついていた。
「なんだこれは!」
ガルプツーは、影を必死で外そうとする。
クロが新しく習得したスキルのようだ。
同じように見える影でも、所有権のような物があるのか、所有権を持たない者は扱えないようになっている。
(主。あとは御任せ致します)
俺はガルプツーを殴り続けた。
殴っても殴っても怒りが消える事は無かった。
殴り続けながらも、俺は自問自答を繰り返す。
そう、何度も頭の中で繰り返されている言葉をだ……。
「私が憎いだろう。魔族が憎いだろう。憎ければ魔族を全滅させれいい。そう、私がやろうとしていたように!」
ガルプツーの言葉に、俺は殴るのを止める。
「俺はお前とは違う。憎いのはユキノを殺した御前だけだ!」
「何を綺麗事を言っている」
「お前のやっている事は、ただの八つ当たりだ」
「何を……」
俺はふと、冥界で会ったセレナの言葉を思い出す。
「セレナがお前が悪事に手を染めている事を嘆いていたぞ」
「今更、何を言っている」
「セレナが着けていたペンダントは、計画的にセレナを殺す為の物だった」
「……セレナにあったかのような口ぶりですね。嘘を言って何になる」
「私の肌が黒いのは、ツーさんと会う為だった」
「何故、その言葉を!」
「黒は全てを隠してくれる色。悲しみも何かも」
「セレナに会ったのか!」
「あぁ、お前を止めるように頼まれた」
ガルプツーは、俺の言葉が嘘では無いと分かっていた。
「そんな筈は無い。あのペンダントは友情の証に貰った物だ。あいつが私を裏切る筈が無い!」
ガルプツーは俺に向かって叫ぶ!
「ぐぁ!」
ガルプツーが血を吐く。
俺の腹にも黒い棒状の物が貫通して、ガルプツーにも刺さっていた。




