601話 生誕祭!
街は賑やかになり、国民が国王であるルーカスの事を祝っている。
俺はマリーと二人で、買い物をしたり食べ歩いたりと祭りを楽しんでいた。
店に並んでいる商品を見ながら、二人で話している姿は恋人同士に見えるかも知れないが、話している内容は商売の話が殆どだ。
この金額なら粗利がどれくらいだとか、この商品はこうすれば、もっと良くなる等だ。
勿論、店主に聞かれると気分を害するので、店を離れてから感想等を話す。
王都でも冒険者の何人かは、俺の事を知っているので声を掛けてくる。
しかし、俺以上にマリーの方が知名度が高い。
『四葉の女帝』の二つ名は俺が思っているよりも浸透していた。
面白可笑しく噂等を広めたがる奴が居るに違いない。
マリーも諦めたのか、女帝と言われる事に抵抗を示さなくなる。
「しかし、タクトの無職無双と最初に言った人には感心するわ。ピッタリな二つ名よね」
「そうか?」
「えぇ、最初に聞いた時は笑ったけど、よくよく考えれば、その通りなのよね」
マリーは感心していた。
俺自身も誰が最初に、この二つ名を付けたかを知らない。
【全知全能】で聞けば、すぐに分かる事だが、聞いたところで二つ名が変わる訳でも無い。
「それよりも、エンヤさんの所には寄って行くでしょう」
「あぁ、勿論だ」
エンヤ治療院も四葉商会の系列になる。
ジーク領にある四葉孤児院から修行の為、二人働いている。
近況確認やらも含めて、顔を出すつもりではいた。
マリーが近くの店で手土産を買っていた。
俺には無い、こういった細かい気遣いがマリーは出来る。
エンヤ治療院に着く。
扉には『休業』の札が掛かっていた。
生誕祭なので、休業なのだろう。
扉を叩くが、中から返事が無い。
「留守か?」
「そうね。お祭りだから皆で出かけているかもね。エンヤさんに連絡をしてみるわ」
マリーは【交信】でエンヤと連絡を取る。
俺はその間、往来する人々を見ていた。
夫婦か恋人かは分からないが、何人かはブライダル・リーフで販売している指輪を付けていた。
俺はその光景が誇らしく嬉しかった。
「買い物に出かけているそうよ。すぐに戻って来るから待っていましょう」
「分かった。ところで……」
俺はマリーに指輪の売り上げについて聞く。
指輪は定期的に売れているそうで、写真も含めて業績は悪くない。
リベラのアイデアで、結婚式では無いが夫婦であれば、指輪を渡す時に夫婦の証明書を、恋人であれば恋人証明書を付けた事が評判になっているそうだ。
代表でありながら、俺はその事を知らなかったので申し訳ない気持ちだった。
マリーも店主である、リベラの意見を積極的に取り入れているそうだ。
リベラ自身、自分の意見が店に貢献出来た事で自信もついていると、嬉しそうに話していた。
話を聞く俺も嬉しい気持ちになる。
自分で考えて行動する事が、何よりも嬉しい。
「待たせてしまって悪いね」
エンヤ達が戻って来た。
「こっちこそ、突然訪ねて悪いな。プレセアにティオも元気か?」
「はい」
立ち話を少ししていたが、エンヤから中に入るよう勧められる。
「悪いな」
エンヤ治療院の中に入ると、ティオが飲み物を運んできてくれたので、礼を言う。
マリーはエンヤに手土産を渡すと「気を使わなくても良いのに」と申し訳なさそうにしていたが、マリーが日持ちのしない物なので、早めに食べて貰うよう話す。
エンヤはティオに、手土産を俺達に出すよう指示していた。
「何か用事でもあったのか?」
「用事というより、前夜祭に四葉商会も招待されたので、ついでに生誕祭も楽しむつもりなので、ここにも寄っただけだ」
「そういう事かい」
「あっ、それと俺達の事は国王から正式に発表された。婆やも招待するから出席してくれよ」
「それは本当かい! 長生きはしてみるものだね」
端的に話すが、エンヤには分かって貰えた。
一応、あの場に居た者だけに向けて発表をしたわけだから、プレセアやティオには言えない。
ユキノの口から俺との婚約を知っていたエンヤには、伝えておくべきだと思っていた。
俺はプレセアとティオについて、エンヤに聞く。
失敗も多いが良くやっていると答える。
お世辞抜きに微力ながら、役に立っているのだと感じる。
エンヤの言葉に、プレセアとティオは嬉しさと恥ずかしさが混在したような表情をしていた。
エンヤと、プレセアにティオの二人を見ていると店主と従業員、師匠と弟子というよりも、祖母と孫という表現が、見ていて一番しっくりくる。
お互い良い関係が築けている事は喜ばしい。




