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595話 前夜祭-7!

 ヘレフォードと話をしていると、魔法研究所所長のシーバとローラが、俺に近づいて来た。


「さっきはありがとうな」

「何を言っておる。タクト殿には、まだまだ協力をして貰いたいから当たり前の事をしただけだ」


 話を聞くと、魔法研究所は領主や商人達の献上品等で、発明のヒントになるかも知れないと思い、真剣に見ていると教えてくれた。

 本当であれば、副所長が同席するはずだったが多忙の為、知識では負けないローラが急遽選ばれたそうだ。


「ここに居るより、私は研究の続きを一刻も早くしたいのだが」


 ローラは不満そうだった。


「退屈はさせないから、安心しろ」

「ほほう。それは四葉商会が面白い物を紹介すると捉えて良いのか?」

「勿論だ。ローラは社員だから先に教えても良いぞ」

「断る。面白味に欠ける」


 いつものローラだ。

 領主達が慌ただしく動き始めた。


「そろそろですな」


 ヘレフォードが献上品を用意する為、前の方に移動を始めた。

 俺達もヘレフォードとアンガスに着いて行く。

 後には何故だか、シーバとローラも着いて来た。


 ルーカス達が休憩から戻って来た。

 護衛衆のターセルにカルアの他に、新たに三獣士も後ろに居た。


 グランド通信社の献上品『魔獣図鑑全三冊』は領主達に好評だった。

 魔獣が写真付きで説明がある事自体、珍しい。

 領主達はすぐにでも見たい様子だった。


 冒険者ギルドの初心者に無料提供する事もそうだが、なにより魔獣の弱点が記載されているので、魔獣に脅かされている領主にとっては大変有り難い書物になる。

 情報提供元は、四葉商会だと忘れずに説明してくれた。

 これだけの物を印刷して製本出来る技術は、エルドラード王国ではグランド通信社しか無い。

 技術力を宣伝するにも、良い場になっただろう。


 ヴィクトリック商会は得意の食品を献上品にしていた。

 それは隣国オーフェン帝国で珍味として食されている『クラーケンの干物』だった。

 俺はその説明を聞いて、吹き出しそうになった。

 確かにクラーケンの身等は殆どを、オーフェン帝国に譲った。

 研究用や、漁師の餌等の使用すると言っていたし、俺がクラーケンを食べようとしたら、周囲から白い目で見られていた。

 俺の【アイテムボックス】には今も、クラーケンの死体が入っている。

 干物の技術は、この世界にもある。

 偶然にクラーケンの干物が出来て、それを知らない者が焼いて食べたのだろう。

 そうだとすれば、オーフェン帝国では軟体動物が新たに食材として出回っているかも知れない。


 チャランタンは自慢気に話をしているが、ルーカス達は事情を知っているので、つまらないだろうと思って、チャランタンの話を聞いていた。


「このクラーケンを討伐したのは、エルドラード王国の冒険者だと御聞きしました」


 俺は嫌な予感しかしなかった。

 あれだけの人数が居たのだから、噂が広まっても不思議では無い。

 それ以上にルーカスが嬉しそうな表情をしている。


「無礼を承知で御聞き致します。国王様は、その冒険者を御存じなのでしょうか?」

「勿論だ。我が国最高の冒険者だからな」


 ルーカスの表情は話したくてウズウズしているようだ。


「その者の名は後程、教えよう」


 ん?

 ルーカスが返答を保留にした。

 後程……どういう事だ?

 口の軽いルーカスが思わせぶりな事を話した事に、疑問を感じた。

 ルーカスが何を考えているのかを、色々と考えている



「タクト、行くわよ」


 マリーの言葉で我に返る。

 俺が考えているうちにヴィクトリック商会とジョウセイ社の番が終わっていた。

 どうやら俺達、四葉商会が最後のようだ。


 マリーが代表である俺が【呪詛】のせいで、丁寧な言葉使いが出来ない事を最初に告げて、副代表である自分からの祝辞である事をルーカスに謝罪する。

 勿論、ルーカス達は知っているが体裁の関係だ。


 出す順番はマリー等が決めているので、俺も知らない。


「弊社は初めて御招待頂きましたので、四葉商会を知って頂く上で、試作品も含めて幾つかの献上品を御持ちしております。御時間が掛かる事を御許し下さい」

「よかろう。時間を気にすることなく存分に使う事を許す」

「ありがとうございます。まずはこちらになります」


 そう言うと、マリーの服の上に鞄が現れる。


「こちらは、収納鞄という代物です。先行して第一王女のユキノ様に献上しております。お気に入りの鞄等が御座いましたら、弊社で収納鞄に改造させて頂きます」


 マリーは収納鞄の説明をすると、領主達は驚きの声を上げる。

 ユキノは立ち上がり、俺があげた収納袋を嬉しそうに見せていた。


 次に洗濯機を登場させる。

 洗濯機は重い為、出し終える前に俺が洗濯機を支える。


 マリーは自分の着ていた上服を脱いで、飲み物を垂らして、皆の前で汚して見せる。

 それを箱の中に入れると、元通りの綺麗な上着になっていた。


「この中に、御召し物が汚された方が居られましたら、お試し下さい」


 マリーは会場の一角に洗濯機を置き、性能を皆に見せるつもりらしい


「国王様には同様の物を献上させて頂きます」

「うむ」


 次に、合羽を取り出した。

 見た事の無い帽子が付いた変な服だ。

 使用用途も見ただけでは分からない。


「これは水を弾く服になります」


 マリーが合羽の説明をすると、誰もが不思議そうな顔をしていた。


「国王様にはこちらを。領主様方には、弊社代表のタクトが伺います」


 護衛衆のカルアが合羽を受け取り、ルーカスの元へと運んだ。

 俺は合羽を持って、簡単な説明をする。


「この上からでも着られるのか?」


 興味があるようなのか、フリーゼが俺に声を掛ける。

 俺は無言で頷く。そして【念話】でフリーゼが合羽を羽織る事をマリーに伝えた。

 合羽を着たフリーゼは、正直不格好だった。

 バルコニーに移動して貰い、俺は用意して貰った水をフリーゼの頭から掛ける。

 合羽は水を弾き、綺麗に下に落ちる。


「……これは凄いな」


 水を浴びたフリーゼは合羽を見ながら驚いていた。


「これで服が水浸しになる事は御座いません」


 誰もが驚いていた。

 これがあれば、雨の外出も億劫にならずに済む。

 当然、ルーカス達も驚いている。

 この技術を今迄、披露しなかった事に対して俺への不満もある気がした。


 マリーは次に、掘削ドリルを出すが、披露出来るわけでは無いので、簡単に穴が掘れたりする説明で終える。

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