593話 前夜祭-5!
「そう言う事なら、私達もヴィクトリック商会とは取引出来ないな」
大声で会話に混ざってくる男性が居た。
聞き覚えのある声。
俺の友人で、魔法都市ルンデンブルク領主のダウザーだ。
「これは、ルンデンブルク卿。どういう意味でしょうか?」
ペラジーはダウザーに挨拶をして、言葉に意味を問う。
「言葉の通りだ。我がルンデンブルク領は今後、ヴィクトリック商会とは取引しないという意味だ」
「えっ!」
ペラジーは驚いている。
当たり前だろう。王国でも王都の次に大きい都市でもある魔法都市ルンデンブルクとの取引が中止になったのだ。
ダウザーは四葉商会には、色々な方面で協力をして貰っている。
貢献度で言えば、ヴィクトリック商会の比では無い。
そして、物流であればグランド通信社や、業界第三位のジョウセイ社に頼むと話す。
ダウザーの声は会場に響いていた。
元々、声は大きい方だったが今回は、わざと大きな声を出しているのだろう。
ダウザーが話をしている間、ミラはマリーに話し掛けている。
笑顔でミラと話をしているマリーに、ペラジーは驚いていた。
「それならネイトス領も同様だな。四葉商会の代表には借りがあるしな」
ダウザーの声を聞いて、国王ルーカスの姉であるフリーゼが夫のダンガロイと一緒に寄って来た。
「これはフリーゼ様。借りという事は、フリーゼ様もタクトに助けられたのですか?」
「タクトは私の命の恩人だ。恩人の商社を無下に扱う事は、私の信条に反する」
「彼は、ピッツバーグ家の危機を救ってくれた人物です」
ダウザーが問い掛けると、フリーゼとダンガロイは俺の事を答える。
王族に関係する領主が相次いで、ヴィクトリック商会との取引中止を宣言した事になる。
「なにやら物騒な事になっておるの。そんなこと言ったら、ヴィクトリック商会は王都では商売出来んじゃろう」
人混みをかき分けながら、魔法研究所所長のシーバが登場する。
「魔法研究所は四葉商会と業務提携をしていおるからの。なぁ、ローラ」
「そうですね。そういう事なら、私は王都魔法研究所から去るだけですし、技術提供した品も引き上げます」
ローラがシーバの後ろから現れる。
この前夜祭にローラが参加している事自体、俺も知らされていなかった。
まぁ、いつもの事だと納得をする。
王国に技術提供している魔法研究所が、四葉商会と技術提携している事は世間に知られていない。
ヴィクトリック商会も当たり前だが、王都で商売はしている。
王都からのグランド通信社の撤退に、魔法研究所からの業務提携解除と提供品の引き上げ。
王都で混乱が起きる。
その発端は全て、ヴィクトリック商会副代表のペラジーだ。
「何の御騒ぎですか!」
中年の男性が焦った表情で、ペラジーの横に駆け付ける。
「御無沙汰しております。チャランタン様」
「……もしかして、君はオーギュストの娘のマリーか?」
「はい。以前は父がお世話になりました」
マリーが中年男性に挨拶をする。
それよりもマリーの父親の名が、オーギュストだと初めて知った。
「彼がペラジー殿の父親で、ヴィクトリック商会様代表のチャランタン殿です」
ヘレフォードが親切に説明をしてくれていた。
ダウザーの声と、人だかりでヴィクトリック商会の事を話している事は知って、驚き駆け付けたのだろう。
アンガスがチャランタンに事情を説明する。
説明を聞くにつれて、チャランタンの顔が青ざめていった。
自分の娘。
いや、ヴィクトリック商会の副代表が取り返しのつかない事をしでかしたのだ。
「そろそろ私の出番ですかね」
ヘレフォードは嬉しそうに、渦中の場に歩いて行く。
「ちょっとした冗談よ」
「そうか……お前も冗談が過ぎるぞ」
「ごめんなさい」
ペラジーは今までの事を冗談として、やり過ごそうとしている。
「何を仰っているのですかな?」
「これはヘレフォード殿」
チャランタンはヘレフォードに挨拶をするが、少し楽観視しているようにも思えた。
「仮にも領主様達が居られる前で、一方的に商社を潰すと宣言したのは御社の副代表ですぞ。それを冗談で済ます等、それこそ冗談では無いですぞ」
ヘレフォードは先程とは違い、温厚な喋り方では無かった。
「そうですね。ペラジー殿に私は確認致しました。あの発言が冗談という事であれば、私は勿論ですが証人になって頂いた領主様達全てを侮辱したと言う事になりますね」
アンガスがヘレフォードに続いて話す。
「アンガスが先程申しましたが、弊社は四葉商会様に協力致しますので」
ヘレフォードはグランド通信社代表として正式に、四葉商会の味方だと宣言した。
周りにいる領主達が小声で話し始める。
内容は同じだ。グランド通信社かヴィクトリック商会のどちらを選択するかだ。
四葉商会を発端に、商業戦争が勃発した瞬間だった。




