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590話 前夜祭-2!

 王宮の入口には馬車の列が出来ていた。

 入場者の確認だろう。

 馬車でも見栄の張り合いなのか、豪華な馬車が多い。


「……やっとか」


 王宮に入るのに正面から入る事は数回しかない。

 一度、衛兵から質問をされた事があったが、「秘密」とだけ答えた。

 俺がランクSSSの冒険者という事もあるので、不思議と納得してくれた。


 馬車が止まり、馬車の扉が開く。

 ヘレフォード達同様に、俺達も自己紹介をするが、俺はともかくマリーも顔が知られているようだった。


「そんなに王宮に来ているのか?」

「いいえ。数回だけよ」


 マリーも不思議そうな顔をしていた。


「マリー様は御美しいので、覚えておられたのでしょう」

「またまた、御冗談を」


 ヘレフォード言葉に、社交辞令と捉えたマリーは愛想良く答える。


 敷地内に入ると、城の入り口前で降りる。

 次々と人が来る為、俺達は早々に城の中へと案内される。

 案内役は一組に一人らしいので、俺達にも専属の案内役が付く。

 案内と言っても前の者について行くだけで、待合室で暫く待つだけなので迷う事が無い。

 それ以前に俺も、城の中はある程度は知っている。

 案内役は俺を知っている様で緊張しているのがよく分かる。


「緊張しているのか?」

「は、はい。タクト様のご案内ですので……」


 緊張をほぐそうと声を掛けるが、逆に緊張させてしまった。


「俺が怖いか?」


 一応、聞いてみる。


「いいえ。ユキノ様の事も御座いますので、粗相の無いようにと」


 ユキノが俺に好意を持ってい事は城では誰もが知っている周知の事実だ。

 それともユキノの婚約者だという事を知っているのか分からないが、第一王女であるユキノの関係だという事は分かった。


「こちらで御待ち下さい。御時間になりましたら、お迎えに参ります」


 部屋の前で案内役は御辞宜をして、去っていた。


 部屋に入った俺はとりあえず【結界】を張る。


「よし、いいぞ」


 俺の声と共に、マリーはソファに座る。


「疲れたか?」

「少しだけね」


 笑いながら答えるマリーは、いつもの表情だった。


「それで、贈り物は何にするの?」

「そうだな。俺的にはエリクサーは絶対だな」

「そうね。エリクサーがあれば、助かる命もあるかも知れないし当然ね」

「ビデオカメラも出来れば、披露したいな」

「ビデオカメラ?」

「あぁ、悪い。動画撮影機の事だ」

「そんな変な名前にしたのね。確かに画期的な技術だものね」

「マリーは洗濯機か?」

「えぇ、この技術を四葉商会が持っていると知れば、絶対に売れるわ。それに街の人達の生活も少しは楽になるわ」

「そうだよな。じゃあ、これに嘘発見器の四つにするか?」

「私はタクトに従うわよ。他の物も絶対に街の人達の役に立つけどいいの? 合羽とかいう服もクララに作って貰ったんでしょう?」


 確かに合羽や、浄化石に炎の剣等も街の人や冒険者の役に立つだろう。


「そうだな……」

「悩むならヘレフォードさんの言った通り、全部にしたらいいんじゃない」

「マリーはいいのか?」

「えっ、何が?」

「これだけの技術力を披露すれば、その後の対応が大変だぞ」

「確かにそうね。そこは量産化が出来ない事と、国王様の許可が必要だと言えば大丈夫でしょう」


 確かにその通りだ。

 特に、国王の許可と言う伝家の宝刀を出されれば、何も言えないだろう。

 数量限定と言えば、金貨を摘んででも欲しいと思う者も居る。


「挨拶や説明は、マリーだから頼むぞ」

「任しておいて。タクトが喋ると、絶対に問題になるしね」

「その通りだな」


 お互いの顔を見て笑う。

 俺もマリーも、良い感じでリラックスしている。


「タクトが開発責任者という事は言うわよ」

「おぉ、それでいいぞ」


 マリーと贈り物の商品説明について、最後の打合せをする。

 ついでに、マリーに嘘発見器を掛けてみる。

 よく考えれば、全て「はい」か「いいえ」で答えれば、より簡単に嘘が分かる。

 確かに、前世の嘘発見器もそんな感じだったと思い出す。


「しかし、タクトは代表と言うか、調達や商品開発が主よね」

「そうだな。全部、マリーに任せて悪いなとは思っているぞ」

「本当に?」


 疑いの目で俺を見る。

 俺がマリーに感謝している事は事実だ。

 従業員達は俺に恩を感じてはいるが、経営者としてはマリーに全幅の信頼を寄せている。

 良い意味で俺よりマリーの事を頼りにしている。


「それはそうと、ユキノ様との今後については話し合ったの?」

「いや、特には」


 ゴンド村に住む事位しか決めていない。

 婚約についてはまだ、秘密だ。

 それに結婚式についても未定の状態だ。

 人生計画では無いが、確かにユキノと話し合いをした事が無い。

 夫婦になるのであれば、相談すべきだろう。


「これが終わったら、話し合いをしてみる」

「絶対によ。ユキノ様だって不安かも知れないからね」

「はい……」


 マリーに説教をされていると、扉を叩く音が聞こえて、会場へ行く準備が出来た事を伝えられた。

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