587話 修行!
此処に来た目的はもう一つある。俺の修行だ。
左右の手の指先に集中をして【光球】を出す。
今迄、掌で【火球】や【光球】等を出していたが、この方法であれば一気に十発投げることが出来る。
【命中率自動補正】があるので、確実に目的物に当たる。
これは【操血】の練習をしていた時に思い付いた。
小さいとはいえ、威力は抜群だ。
これからの戦いでも、かなり使える。
手刀で【一刀両断】を今迄していたが、これも指先で【一刀両断】する事が可能だった。
十本の指で【一刀両断】すると、世紀末覇者の漫画に出てくる登場人物を思い出した。
切れ味は同じなので、片手で考えれば単純に五倍になる。
これもかなり使える。
料理をするにも包丁は必要ない。
【操血】だが、なかなか上手く使う事が出来ない。
理由は俺の傷口が簡単に塞がってしまうからだ。
一定量の血液を放出すれば、簡単なのだと思うが今の俺には難儀な事だ。
傷口に何か刺して、傷口を開きっぱなしにしようとしたが無理だった。
ネロが俺の血を吸えるのは、直接血管の中に歯を刺して吸っているのだろうか?
自分の体を痛めつけながら、考えてしまう。
体技では、アルやネロには到底敵わない。
スキルを使ったとしても、二人の方が強いのは間違いない。
今迄の戦いを思い返してみる。
最初のゴブリンとの闘いだけスキルに頼らず戦った気がする。
他はスキルに頼った戦い方をしている。
根本的にスキルに頼った戦い方が、アルやネロとの差が縮まらない原因なのでは無いかと考えてしまう。
体を動かす基礎が出来ていないから、スキルに頼るのだろう。
かと言って、俺は無職なので、剣や体術を教えて貰っても申し訳ない気がする。
教えて貰う学校や施設等、今迄見た事が無い。
皆、独学というか我流なのだろう。
俺の知っている一門だとか、継承者という言葉は、この世界で聞いた事が無い。
師弟関係はあるが、あくまで個人同士という事になるのだろう。
技術を継承するという事自体、この世界では浸透していないのだと思う。
もし、高ランク冒険者が教えてくれる事になれば、授業料を払ってでも教えて欲しい者達が多数いるだろう。
しかし、教えて貰ったが自分で実感出来ない者も居る。
それが、自分の努力を行ったせいや、解釈を間違って捉えてしまって意味の無いものだとしてもだ。
それが噂となり広まれば、教えを乞う者も居なくなっていく筈だ。
良い噂より、悪い噂の方が広まるのは世の常だ。
気を取り直して、体を動かしてみる。
昔、見た事があるシャドーボクシングを真似てみるが、アルやネロをイメージ出来ない。
想像力が欠落している事に落ち込む。
仕方が無いので【分身】で自分と戦ってみるが、考えている事が同じなのか、練習にさえならない。
改めて、自分一人での修行は難しいと感じた。
さぼる誘惑になる物は何も無い。
しかし、気分が乗らないというか、上手く出来ない事にもどかしさも感じる。
何か良い方法は無いだろうか……。
神であるエリーヌに戦いを挑む事まで、頭に浮かんできた。
とりあえず、【オートスキル】から【魔法反射(二倍)】を外して、自分に魔法を撃ち込んでみる。
自分自身にダメージは殆ど無い。
今度、アルとネロに一人での修行の仕方を聞いてみようと思うが、期待する回答が返ってくるかは疑問だった。
シロは今、王都で飛行艇の操縦を教えている。
これは飛行艇で移動する度に、俺やシロが呼ばれるのを防ぐ為だ。
捕まった奴隷商人達や貴族だが、数人が二種類の同じ鍵を持っていた。
それは以前、ロスナイが首から掛けていた鍵と同一だった。
領主の屋敷の地下に入る扉や、ノゲイラのサーバン商会の建物の部屋と扉と一致した。
ここに入る為に、数人に渡していたようだ。
部屋は拷問器具や、解剖された人らしき物体の欠片。
床には染みついた血の跡があったそうだ。
調査団の何人かは気分を害した為、調査が遅れているとソディックから教えて貰った。
当然、クロに撮影は頼んである。
一応、人の姿だしソディック達の紹介なので、誰も文句は言わない。
多分、クロが文句を言わせない雰囲気を出していたのだろう。
「あっ!」
俺は突然、思い付く。
何故、カメラの事を忘れていたのか。
カメラは静止画だが、動画を撮れてプロジェクターがあれば、この世界でも映画や演劇を鑑賞出来る。
それに、役者や監督等の新しい仕事も出来るだろう。
当然、子供の成長を収める事も出来るので、需要はある筈だ。
【魔法付与】や他の製作方法を考えてみるが、とりあえずは試作品を作ってみたい。
修行は後回しというか、中断する。




