57話 トラブルメーカー!
ギルマスの部屋に戻ると、シキブが頭を抱えている。
原因は、奥の部屋でしていた会話のようだ。
ローラは俺に興味を持ったらしく、『ギルド会館』の空いている部屋を貸して欲しいとの事だった。
部屋は基本的には空いていないと伝えたが、基本的に使っていない部屋があるという事だろう? と言葉の揚げ足を取られたようで、反論が出来ずに困っているようだ。
王都から来たローラの頼みなので、簡単に断る訳にも行かない。
ローラがギルド会館内に居るという事は、研究協力しているアピールになるので、王都に対してもかなり有利になるだろう。
しかも家賃として提示された金額は、この街の一流宿屋の三倍になる。
当然、ギルドの運営資金も増える。
冒険者ギルドとしては、『ギルド会館』には基本的に空いている部屋があるのでメリットは大きい。
しかし今は、商人ギルドの『産業会館』に居る。
商人ギルドとは、あまり仲は良くないので出来れば問題事や、争い事を起こしたくないのもあるようだ。
シキブからすれば、俺はトラブルメーカーだろうと思う。
シキブはローラに、『商人ギルドより移動の許可があれば、ギルド会館への滞在を許可』の条件を出した。
ローラは深く考えていないのか簡単に承諾して立ち上がると、
「じゃ、行こうか」
ローラが俺の方を向いて、さっさと歩き始めた。
「……行く?」
「そうだ。 アイテムボックスに荷物入れて運んでもらわないと、引っ越せないだろ?」
「荷物持ちか?」
「タクト以上に、最適な人物は居ないだろう!」
研究者とは、頭のネジが吹っ飛んでいると聞いたことがあるが、本当だった。
「そんなに荷物あるのか?」
「思っているよりは、少ないと思うぞ?」
「商人ギルドとの交渉は、ローラがするんだろうな?」
「そんな事は分からん」
嫌な予感しかしない。
多分、面倒くさい事になりそうだ。
「タクト、余計な問題事は持ち込まないで頂戴ね!」
シキブから釘を刺された。
俺だって、何も好きで問題を起こしている訳じゃないんだけどな……
「多分、大丈夫だろう!」
自信なさ気に答える。
「本当に頼みますね!」
再度、釘を刺される。
「シキブやムラサキも、一緒に来るか?」
そんなに心配なら同行するように求める。
「私達は、色々とやる事があるので……」
「そうだ、色々と忙しいからな」
絶対に、行くのが面倒くさいからだろう。
態度ですぐに分かった。
「そうだな。 ギルドメンバーへの報告で忙しそうだから、俺だけで行ってくるよ!」
「いや、そういう訳ではないのよ! ねぇムラサキ!」
「おぅ、そうだ!」
「はいはい!」
しぶしぶ、ローラとふたりで商人ギルドへと向かうことにした。