572話 不要な者
エランノットの周りには、使用人や護衛の為の部下に加えて、ザボーグが闘技場内に配置させていた冒険者十数人が居る。
「これだけいれば、ノゲイラも逆らえないでしょう」
満足した表情でエランノットは話す。
「では、行きましょうか」
エランノットが立ち上がり、部屋を出て闘技場の方へと向かう。
少し後ろにはザボーグが歩いていた。
「エランノット様。それで、ノゲイラの後はどういたしますか?」
「そうだな。お前は、冒険者ギルドのギルマスとして、この街に必要だ。そうだな……そういえば!」
エランノットは何かを思い出したようだ。
「名前は忘れたが、ノゲイラの長年の仲間で、商人ギルドのサブマスが居ただろう」
「ホドリゴの事でしょうか?」
「そうそう、そんな名前だったな。それに任せてはどうだ?」
「そうですね。確かに商人ギルドの運営については、殆どがホドリゴが仕切っていましたから、問題無いと思いますが……」
「ん、どうした? 心配事でもあるのか?」
「はい。一応、昔からの友人であるノゲイラとホドリゴです。これから起きるノゲイラに起きる事を、ホドリゴが受け入れるか……」
「受け入れなければ、ホドリゴもノゲイラと同じ運命というだけだ。代わりなど幾らでも居るだろう」
そう話すエランノットの目は、ザボーグに対しても同じだと伝えていた。
俺はその会話を聞きながら、エランノットに対して「お前も同じだろう」と思って聞いていた。
自分しか出来ない、自分が居なければこの世界は成立しないと思っている奴ほど、自信過剰で自分が思っている程、周りに必要とされていない。
前世のテレビで、なんとか学者だか研究者が、そう言っていた気がする。
確かに代えの利かない者も居る。
代表的なのは、国王であるルーカス等がそうだろう。
しかし、本当にそういう立場に居る者は、自分が言わなくても周りが「貴方しかいない」と感じ取るものだ。
「そのホドリゴを、私の観覧席まで呼ぶように」
「はい」
エランノットは部下に命令をする。
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「皆様、お待たせ致しました。只今より、催しを再開致します。尚、これより進行は、冒険者ギルドのギルドマスターである私、ザボーグが務めさせて頂きます」
観客席からは、期待した声が上がる。
休憩前の殺戮が、いまいちだったので観客のフラストレーションがかなり溜まっている。
休憩前以上のものを、疲労しなければ観客も納得しない。
しかし、このザボーグという男の話し方は、ノゲイラに比べれてレベルが格段に低い。
サラリーマンで言えば、プレゼン能力が低い。
観客も今はテンションが高いかも知れないが、不甲斐無い殺戮を見せられば、先程以上のブーイングが出る事は間違いない。
俺の心配とは裏腹に、ザボーグの進行は進められていた。
「おぉ、来たか」
ノゲイラがエランノットの所に挨拶に来た。
元奴隷商人達との打ち合わせが終わったのだろう。
と言っても、強引に決定しただけなのは推測出来る、
「あぁ、後は俺があいつ等を観客が喜ぶように殺すだけだ」
「それは結構。では、その調教の腕輪を渡して貰おうか」
「はぁ?」
ノゲイラは眉をひそめた。
「どうして、渡す必要があるんだ?」
「万が一、破壊でもされたら魔獣達の制御が効かなくなる」
「それは心配ない」
「そういう訳にはいきません。少しでも可能性があるのであれば、この催しの責任者として見逃せません」
エランノットは冷酷な笑みを浮かべる。
いつの間にかノゲイラを囲んでいた冒険者達も身構える。
「終わったら返してくれるんだろうな」
「勿論」
「……分かった」
ノゲイラも敵わないと思ったのか、調教の腕輪を手首から外して、エランノットに渡す。
「それでは、良い戦いを期待している」
嬉しそうにエランノットはノゲイラを見送った。
ノゲイラが居なくなると、エランノットは高らかに笑う。
「とうとう手に入れたぞ。これで、ノゲイラに好き勝手される事も無い」
俺は背後から、調教の腕輪に触れる。
これで何時でも【転送】で手元に移動させる事が出来る。
俺は部屋を出て、闘技場へと向かう。




