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572話 不要な者

 エランノットの周りには、使用人や護衛の為の部下に加えて、ザボーグが闘技場内に配置させていた冒険者十数人が居る。


「これだけいれば、ノゲイラも逆らえないでしょう」


 満足した表情でエランノットは話す。


「では、行きましょうか」


 エランノットが立ち上がり、部屋を出て闘技場の方へと向かう。

 少し後ろにはザボーグが歩いていた。


「エランノット様。それで、ノゲイラの後はどういたしますか?」

「そうだな。お前は、冒険者ギルドのギルマスとして、この街に必要だ。そうだな……そういえば!」


 エランノットは何かを思い出したようだ。


「名前は忘れたが、ノゲイラの長年の仲間で、商人ギルドのサブマスが居ただろう」

「ホドリゴの事でしょうか?」

「そうそう、そんな名前だったな。それに任せてはどうだ?」

「そうですね。確かに商人ギルドの運営については、殆どがホドリゴが仕切っていましたから、問題無いと思いますが……」

「ん、どうした? 心配事でもあるのか?」

「はい。一応、昔からの友人であるノゲイラとホドリゴです。これから起きるノゲイラに起きる事を、ホドリゴが受け入れるか……」

「受け入れなければ、ホドリゴもノゲイラと同じ運命というだけだ。代わりなど幾らでも居るだろう」


 そう話すエランノットの目は、ザボーグに対しても同じだと伝えていた。

 俺はその会話を聞きながら、エランノットに対して「お前も同じだろう」と思って聞いていた。

 自分しか出来ない、自分が居なければこの世界は成立しないと思っている奴ほど、自信過剰で自分が思っている程、周りに必要とされていない。

 前世のテレビで、なんとか学者だか研究者が、そう言っていた気がする。

 確かに代えの利かない者も居る。

 代表的なのは、国王であるルーカス等がそうだろう。

 しかし、本当にそういう立場に居る者は、自分が言わなくても周りが「貴方しかいない」と感じ取るものだ。


「そのホドリゴを、私の観覧席まで呼ぶように」

「はい」


 エランノットは部下に命令をする。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「皆様、お待たせ致しました。只今より、催しを再開致します。尚、これより進行は、冒険者ギルドのギルドマスターである私、ザボーグが務めさせて頂きます」


 観客席からは、期待した声が上がる。

 休憩前の殺戮が、いまいちだったので観客のフラストレーションがかなり溜まっている。

 休憩前以上のものを、疲労しなければ観客も納得しない。

 しかし、このザボーグという男の話し方は、ノゲイラに比べれてレベルが格段に低い。

 サラリーマンで言えば、プレゼン能力が低い。

 観客も今はテンションが高いかも知れないが、不甲斐無い殺戮を見せられば、先程以上のブーイングが出る事は間違いない。

 俺の心配とは裏腹に、ザボーグの進行は進められていた。



「おぉ、来たか」


 ノゲイラがエランノットの所に挨拶に来た。

 元奴隷商人達との打ち合わせが終わったのだろう。

 と言っても、強引に決定しただけなのは推測出来る、


「あぁ、後は俺があいつ等を観客が喜ぶように殺すだけだ」

「それは結構。では、その調教の腕輪を渡して貰おうか」

「はぁ?」


 ノゲイラは眉をひそめた。


「どうして、渡す必要があるんだ?」

「万が一、破壊でもされたら魔獣達の制御が効かなくなる」

「それは心配ない」

「そういう訳にはいきません。少しでも可能性があるのであれば、この催しの責任者として見逃せません」


 エランノットは冷酷な笑みを浮かべる。

 いつの間にかノゲイラを囲んでいた冒険者達も身構える。


「終わったら返してくれるんだろうな」

「勿論」

「……分かった」


 ノゲイラも敵わないと思ったのか、調教の腕輪を手首から外して、エランノットに渡す。


「それでは、良い戦いを期待している」


 嬉しそうにエランノットはノゲイラを見送った。

 ノゲイラが居なくなると、エランノットは高らかに笑う。


「とうとう手に入れたぞ。これで、ノゲイラに好き勝手される事も無い」


 俺は背後から、調教の腕輪に触れる。

 これで何時でも【転送】で手元に移動させる事が出来る。


 俺は部屋を出て、闘技場へと向かう。

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