570話 責任者として!
「次は趣向を変えて、一方的な殺戮を御覧に入れましょう」
魔獣控室からは、アシッドリザードが運ばれる準備をしていたので、次の魔獣はアシッドリザードなのは間違いない。
対戦相手は、失態を犯した奴隷商人達四人だった。
最初は逃げ惑っていたが、アシッドリザードが粘液のような物を吐き出すと、近くに居た奴隷商人達は、狂ったように笑う。
目は虚ろで、よだれを垂らしている。
アシッドリザードは、奴隷商人に噛み付くが、噛み付かれた奴隷商人は変わらず幸せそうな表情を浮かべて、アシッドリザードに食べられていた。
大きな歓声と、笑い声。
決して、「可哀想」等と言う言葉を聞く事は無かった。
それから、アシッドリザードは三人目を途中まで食べると、腹一杯になったのか食べるのを止めてしまう。
そのまま、アシッドリザードを退場させてる
代わりに、ポイズンマンティスが登場する。
そして、補充要因として俺の顔見知りの奴隷商人二人組が闘技場に姿を現した。
ポイズンマンティスは自分の毒を使うことなく、アシッドリザードの食べかけの奴隷商人を食べ始めた。
間近でその光景をみた二人組は失禁して、ノゲイラに命乞いをしていた。
観客は、それも面白いのか笑っている。
アシッドリザードの食べ残しを食べ終えたポイズンマンティスは、男二人組を標的に定めた。
逃げ回る男達だが、あっという間にポイズンマンティスに捕獲される。
ポイズンマンティスの毒が体にまわる。
意識はあるが、体の自由が利かない。
アシッドリザードと違い、意識があるままポイズンマンティスに食べられる。
俺はその光景を見ながら惨いと感じるが、助けようとは思わなかった。
しかし、観客達は泣き叫ぶ男達を見ながら、笑っていた。
ポイズンマンティスも全部は食べきれなかったのか、毒で自由を奪った二人目の男を食べるのを途中で止めた。
当然、二人目の男は途中まで生きていたが、今は死んでいる。
進行役のノゲイラを見ると、難しい顔をしていた。
もう残された奴隷は、ショーシア達子供三人しか居ないからだろう。
魔獣の数からも、今回予定していた殺戮ショーはもっと多かった筈だ。
「一旦、闘技場の清掃を行いますので、暫し御待ち下さい」
ノゲイラは観客に向けて、休憩する事を暗に告げた。
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「おい、どうなっているんだ!」
ノゲイラが奴隷達を閉じ込めていた場所に怒鳴り込んできた。
後にはタルイ領主のエランノットと護衛らしき者も居る。
「俺達にも分かりません……」
監視していた奴隷商人達は、力ない声でノゲイラに答える。
「お前達、分かっているよな」
鋭い眼光でノゲイラは睨む。
後の部下達も、それを察知してか武器に手をやる。
「ノゲイラ様。俺達にも何が何だか分からないんです。どうかお許しを」
必死で許しを請うが、ノゲイラの考えは変わらないだろう。
「ところで、ノゲイラ。部下ばかりに責任を負わせているようだが、君自身は今回の件、どう責任を取るつもりなんだ?」
「……どういう事だ?」
「予定と全然違うのであれば、私が招待した御客達も納得しない。当然、責任者である君自身も責任を取る必要があるだろう。成功した時は自分の手柄で、失敗した場合は部下の責任では無理があるだろう」
俺はエランノットの話を聞きながら、「その通りだ」と思った。
「責任って、言ったってな……」
いきなりの事で、ノゲイラは悩んでいた。
「そうですね。奴隷ではありませんが、君が魔獣と戦ってみてはどうですか?」
「なんだと!」
「君も元冒険者でしょう。魔獣の一匹位は簡単に倒せるのでは?」
「いや、しかしだな……」
元冒険者と言っても、特別強かったわけでも無かった筈だ。
冒険者に見切りをつけて、商人になったくらいだから実力も知れているだろう。
「分かりました。では、そこの奴隷商人二人と決闘と言う形で、観客を喜ばせて頂けますか」
「あぁ、それならお安い御用だ」
ノゲイラが嬉しそうに笑う。
反対に、指名された奴隷商人は顔面蒼白だった。
「じゃあ、どれだけ御客様を喜ばさせれるか、ちゃんと打合せして下さいね」
「任せておけ」
エランノットと部下は、ノゲイラ達を置いて戻って行く。
俺はエランノットの後ろを着いて行く。
途中で、エランノットは笑い始めた。
暫くして笑いを止めると、
「私は運がいい。これで邪魔だったノゲイラを消す事が出来る」
エランノットは、小声で呟いた。




