566話 自問自答!
「俺に関係するっていうのは、黒狐人族って事か?」
ラウ爺が話終わったと思った俺は、ラウ爺に確認する。
「はい。いずれは奴等と衝突する可能性が高いと考えております」
「出来ればステラには関わらせたくないって事だな」
「出来ればですが……」
「まぁ、ラウ爺の気持ちは分かった」
復讐の相手と会ったステラが、冷静な判断が出来なくなって取り返しがつかない事態になる事を、ラウ爺は恐れているのだろう。
冷静さを失ったステラを一度、見ている俺にはよく分かった。
しかし、黒狐人族を野放しにしておくのは何故なのかが気になった。
その事をラウ爺に尋ねる。
「それは、黒狐人族に仕事を依頼する者が居る事が大きいですな。それと拠点を変えている為、実態を把握する事も難しいでしょう」
「それはそうだが……」
特定の者だけ連絡が取れる仕組みなのだろうか?
一般的に知られていないとは言え、納得が出来なかった。
黒狐人族を名乗っているとはいえ、暗殺等に特化しているかも知れないが、狐人族と能力は大きく変わらない筈だ。
もしかしたら、飛躍的に能力を上げる秘術等があるのかも知れない。
実態が分からないだけに、不気味な存在なのは確かだ。
前世の記憶で言えば『忍』に近いイメージだ。
見分けるには刺青しかないそうだが、それだけでは普通の平民に交じって生活しても気が付く事は無いだろう。
俺の顔見知りの冒険者の中にも、黒狐人族がいる可能性だってある。
「もし、黒狐人族と接触する事があれば、一応連絡を入れる」
「はい。御願いします」
俺はラウ爺との連絡を終えて、外を見る。
既に夜も深まり、街の灯りも少なくなっていた。
街の灯りを見ながら、タルイに置いて来たショーシアたちの事を思い出す。
俺自身が、ショーシア達をどうしたら良いか分からないでいる。
考えが変わらずにいる事を悪と決めつけている。
しかし、奴隷を人と見ない環境で育っているので、理解が出来ないのかも知れない。
悪く言えば、俺の価値観を押し付けているだけになる。
今回の件で、一時考えを改めたとしても貴族社会に戻ると、以前と同じ考えになってしまっては意味が無い。
奴隷制度が無くなったとしても、自分より地位の低い者に対して同じような事を繰り返す事は、十分に考えられる。
ショーシア達と同じような考えの子供達は、他にも大勢いるのだろう。
せめて、そういった子供達が人の痛みが分かるようになってくれればと思うのだが……。
こういう時、昔だったら「あの人なら、この人ならどうするのだろう」と考えてしまうのだが、今回に至っては全く思わない。
前世の経験からかけ離れている状況だからだろう。
俺が助言を求めれるのは、シロとクロしかいない。
アルやネロ達だと、短絡的な回答しか返ってこない事が分かっている。
俺はシロとクロを呼ぶ事にした。
「主は、あの子達を殺す事が目的ですか?」
「いや、殺すというか、考えを改めて欲しいと思っているだけだ」
「もし、考えが変わらなければ?」
俺はクロの問いに答える事が出来なかった。
考えが変わらなければ、死んでも仕方が無いと思っている自分が居る。
しかし、子供だから可哀想だと思う自分も居る事も確かだ。
口では大人子供関係無いと言ってはいるが、一時的な感情の部分もある。
時間を置く事で冷静に考えてしまう。
「こういう言い方は失礼ですが、主は思ったように行動するのが良いかと思います」
「私もそう思います」
「例えそれが、主の思っていた結果と違っていたとしても、それは仕方が無いでしょう。正解はひとつではありません。今、間違ったとしても何年後かには正解だと思える時が来るかもしれません」
「……逆もしかりって事か」
「はい、その通りで御座います」
やはり、人に聞いてもらうというのは大事な事だ。
結論は出ないと分かっていたが、少しは気が楽になった。
仲間がいて良かったと、改めて思った。




