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565話 ステラの過去!

 ステラは蓬莱の樹海にある集落とは、別の場所にある狐人の里で育った。

 とはいえ、蓬莱の樹海内の集落なので、分家達が暮らす集落という事も有り、本家の言う事には逆らえず、本家の意見は絶対だった。

 ステラが十三歳の時に、里を襲撃される。

 偶然、居合わせたラウ爺や里の大人達が里を襲撃する者達と戦う。

 しかし多勢に無勢の為、里が壊滅しそうになる。

 里の者達から唯一、七本以上の尾を持つステラだけでも里から連れ出して欲しいと頼まれる。

 八本尾のステラに、里の希望を託したのだろう。

 大人達はラウ爺とステラを逃がす為に、自ら囮となり殺される。

 泣きじゃくるステラを背負いながら、ラウ爺はその者達の思いを背負い、振り返ることなく足を進めた。


 逃げる最中にラウ爺は確信していた。

 今回の襲撃は間違いなく『黒狐人族』の仕業だと。

 ラウ爺が今回、里に居たのは偶然でなく黒狐人族がこの里を襲う情報を得ていたからだ。

 当然、里の頭首にも伝えていたので警戒はしていた。



「多分、目的はあれでしょうね」


 頭首は狙われる理由に、心当たりが有ったようだった。

 里の宝とも言われる『金色の毛束』の事をラウ爺に話す。


 昔、蓬莱の樹海にある本家の集落から追い出された分家の者達は、新天地を求めて旅に出る。

 数ヶ月の旅をした後に、この地で暮らす事を決めて自然や、狩猟する動物達に感謝をしながら穏やかな生活をしていた。

 数年後、里の者から金色の毛を持つ九尾の娘が生まれる。

 娘は未来が見えているかのように、次々と起こる出来事を当てる。

 九尾という事も有り、次期頭首になるのは里の者達の誰もが信じていた。

 娘は徐々に体調を崩し、寝たきりになってしまう。

 しかし、里の者達は娘に言葉を聞こうと毎日、娘の元に訪れた。


 娘は、ある日衝撃の告白をする。


「私の命は、次に月が丸くなるまでです」


 里の者達は耳を疑った。

 娘の言う通りにしていれば、里は安泰だった。


「どうにかならないのか!」

「どうにもなりません。これも運命です」


 興奮する里の者とは対照的に、冷静な口調で受け答えしていた。


「私の命が尽きたら、九本の尾から一本ずつ毛を抜いて束ねて下さい。何かの役に立つ時が来るかも知れません」


 娘は遺言のように里の者達に話した。


 それから数日後、娘の言葉通りに娘は里の者達に看取られて息を引き取る。

 里の者達は、娘の言葉通り九本の尾から一本ずつ毛を取り束ねた。

 頭首は『金色の毛束』と名付けて、村に一大事がある時まで使用を禁止した。


 しかし、何年も娘の言葉通りにしか動かなかった里の者達は狩猟も失敗し、農作物も上手く育たなかったりと苦労が続き、次第に気力体力共に無くなって行く。

 里の者の一人が『金色の毛束』を使えば、娘の力が借りられるのではないかと発言をする。

 楽な生活に慣れてしまった里の者達は、その言葉に同調し始める。

 それは頭首も同じ考えだった。


 頭首は毛束から、一本毛を抜き「昔のように楽な生活が出来ますように」と祈る。


 目の前に娘の姿が現れる。そして、目の前を見ながら言葉を発した。


「ここより東へ二キロ行った所に里を移動して下さい。大きな木が目印です」


 人々から歓声が上がる。これで楽が出来ると思ったのだろう。


「作物は今よりも良く育ちます。狩猟は皆様次第です」


 思い描いていた結果と違い、娘の言葉に落胆する者も居た。

 徐々に娘の姿が消えると同時に、頭首が手に持っていた金色の毛も消えた。


 里の者達も思っただろう。これが使えるのは、残りの毛がある八回だけだと。

 頭首はすぐ里を移転する事を決断する。

 その後も理由を付けては、金色の毛に願いを掛け続ける。

 残りの金色の毛束が二本にまで減った時に、頭首は前々より考えていた事を里の者達にと問う。


「本当に、このままで良いのか?」


 残り二回助けを受けたとして、その後はどうするのか?

 それ以上は、助けてもらえない。

 里の者で話し合った結果、二度とこれに頼らない。

 つまり、使用しないという事だった。

 そして、里の秘密として厳重に管理していた。

 本家に対してもそれは同じだった。



 時は流れて、里の出身者が里の外で、金色の毛束の話をしてしまう。

 酔っぱらっていたとはいえ、欲の深い連中からすれば眉唾話かも知れないが、一攫千金になる話に聞こえたのだろう。

 何度も冒険者や商人が里を訪れて、金色の毛束の事を聞かれる。

 頭首は知らぬ存ぜぬ、噂話だと話そのものを否定していた。

 当然、本家からも同じように聞かれるが、答える事は同じだった。


 諦めきれない商人は人を雇い、何度か里を襲う。

 しかし、魔法に特化している狐人族に返り討ちに合っていた。


「今回の襲撃の相手は、黒狐人族かも知れませぬ。その金色の毛束なる物を使用すれば、危険を回避出来るのでは?」

「ラウ殿。我らは、金色の毛束を使用する事を禁じました。里に危機が迫っているからとはいえ、例外ではありません」

「しかし!」


 里が滅んでしまっては、元も子もない。

 ラウ爺は必至で説得する。


「申し訳御座いません。これは里の掟なのです」


 何を言っても頭首の考えが変わる事は無かった。

 それは里の者達も同じだった。

 先人の掟に従う同族に、ラウ爺は素晴らしいと思う反面、何も出来ない自分が歯痒くて仕方が無かった。



「里が!」


 ステラの言葉で、ラウ爺は振り返る。

 里が燃えている事が分かった。

 追って来る者の気配も無い。

 目的の金色の毛束さえ、手に入れば良いのだろう。


 ラウ爺は悩んでいた。

 このまま、ステラを本家の居る里に連れて行って良いか。

 七尾の幼いローラでさえ、レクタスに目を付けられて愛人候補になっている。

 まだ成人の儀前のステラは本家の挨拶もしていないので、八尾だという事は知られていない。

 しかし、本家の居る里にステラを連れて行けば間違いなく、レクタスの毒牙に掛かる事は目に見えている。

 ラウ爺は自分の里にステラを連れて帰らずに、個人的に親交のあった別の狐人族の里にステラを預ける事にする。



 ラウ爺は二日掛けて、親交のあった里に到着する。

 ステラは元気が無く、食事も喉を通らなかった。


「里の皆が逃がしてくれた命だ。大事にした方が良い」


 ラウ爺の言葉に、ステラは泣きながら食事を取る。

 それから三日程で、親交あった里に到着する。


 親交のあった里の者も事情を知って、ステラを里に迎え入れてくれた。

 その後、ステラは村の者として生活を送る。

 ステラが三十歳になったので『成人の儀』を行う際に、頭首から言葉を掛けられる。


「次期頭首の正妻になるつもりは無いか?」


 反対をする里の者も居ない。

 ステラ自身、里に馴染んでいた事も有った。


「私のような外から来た者に有難い事だと思います。しかし今後、争いの火種になるかも知れません。やはり、里の方から選んで頂いた方が良いかと思います。申し訳御座いません」


 ステラは申し出を丁寧に断る。

 頭首も里の者達もステラの思いが伝わる。

 里の事を一番に考えてくれたステラには感謝こそすれ、恨む者は居なかった。


 ラウ爺も時折、里を訪れてステラの様子を見に来る。

 成人の儀が終わり、身の振り方を考えていたステラはラウ爺に質問をする。


「私の里を襲ったのは誰ですか」

「それを聞いてどうするつもりだ?」

「……分かりません」

「復讐だけは考えるな」


 ラウ爺の言葉に、ステラは何も言葉を返さなかった。


「……黒狐人族だ。暗殺等を生業とする者達だ」

「黒狐人族……」


 少し考えてステラは口を開く


「私もラウさんと同じように、冒険者になりたい」


 ステラの申し出に、ラウ爺は答える。


「冒険者は危険だぞ。分かっているのか?」

「はい」

「里の皆に救って貰った命だと分かったうえでの事だな」

「はい」

「黒狐人族に復讐するのか」

「……分かりません」


 ラウ爺は先程と同じ質問をする。


「ステラの人生だ。好きにすればいい。ただし、この里の者達にも納得して貰う事が条件だ」

「はい、分かりました」


 ラウ爺は出来れば、ステラには危険の少ない人生を歩んで欲しいと思っていた。


 ステラは里の者に冒険者になりたい事を伝える。

 驚く者、賛成する者と様々だったが、ステラの思いが変わらない事を知ると、最後は里の皆で応援してくれた。


 ステラはラウ爺に連れられて、王都へ行き冒険者になる。

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