563話 礼儀正し子供達!
俺はショーシア達をこれ以上、観察しても意味が無いと思い王都に戻る。
ユキノに連絡を取ると、子供達と一緒だと言うのでユキノの所に行く事にする。
「ただいま」
「タクト様、おかえりなさい」
「子供達の様子はどうだ?」
「小さな子達は、もう寝てます」
ユキノの目線の先を見ると、安らかな寝顔で寝ている子供達が居た。
起きていたのは数人の大きな子供だけだった。
俺に気が付いた子供二人が、こちらに歩いて来た。
「少しは落ち着いたか?」
「はい。さっきは有難う御座いました」
剣を振り下ろせずに、泣き崩れていた少年だ。
名は『エアノス』と言い、十三歳の鬼人族だと教えてくれた。
隣の子供『プレイズ』と言い、エアノスと同じ鬼人族で同郷らしい。
村が貧しい為、冒険者になるべく二人で村を飛び出した。
しかし、途中で奴隷商人から武器を格安で譲って貰えると騙されて、連れて来られたそうだ。
「とりあえず、二人共これからは自由の身だ。もし今でも、冒険者になるつもりがあるなら、冒険者ギルドを尋ねてみるが良いだろう」
「ありがとうございます。その失礼ですが、御名前を教えて貰っても宜しいですか?」
そういえば、名乗っていない事に気が付く。
「俺は冒険者のタクトだ。宜しくな」
「冒険者なのですか?」
俺が冒険者と名乗った事を、エアノスは疑問に感じていたようだった。
彼らの思い描く冒険者と、俺とでは大きくかけ離れていたのだろう。
「タクト様はランクSSSなんですよ」
ユキノが嬉しそうに話すと、エアノスとプレイズは目を大きく開けて驚く。
「タクトさんは、王女様の護衛なんですか?」
「そうだな。半分正解って感じだな」
俺の回答に二人は不思議そうな表情をしていた。
惚れた女性を守るだけだし、護衛と言われれば間違いでは無い。
しかし、二人共年齢の割には丁寧な言葉使いだと感じる。
正直、羨ましいと思えた。
「タクトさんの職業は何ですか? 僕は剣士になろうと思っているんです」
「僕は武闘家に憧れています」
二人は希望に満ちた輝く目で俺を見る。
答えるのが、とても嫌だったが正直に答える。
「……無職だ」
俺の予想外の答えに、エアノスとプレイズの二人は固まる。
「因みに、メインもサブも無職だ」
申し訳なさそうに、俺は追加で答える。
「タクト様は無職だからこそ、職業という枠に縛られないからこそ、誰よりも強いのですよ」
ユキノは自分の思っている事を話すが、間違った情報で無職にでもなったら、彼等が可哀想なので、職業には就いた方が良いと訂正する。
「そうだな……」
俺は【アイテムボックス】から剣や防具、それと武闘家用の武器等を幾つか出す。
高級な武器や防具では無いが、何かの時に使えるかもと思い、購入したり拾ったりしたものだ。
「好きなのを持って行け。これから頑張ろうとするお前達に、俺からの餞別だ」
目の前に出された武器や防具に目を輝かせる。
嬉しそうに手に取り、お互いを見ながら笑う。
それを見ていた俺も知らぬ間に、笑顔になっていた。
エアノスとプレイズは武器と防具を選ぶと、俺に礼を言う。
しかし、鬼人族であれば冒険者に登録出来るのは十五歳からの筈だ。
トグルの弟子のザックとタイラーの方が年上なのには驚いた。
エアノスとプレイズは二本角だ。
角の本数に違いはあるが、同世代になるだろう。
冒険者に登録出来るまでの二年を、エアノスとプレイズはどう過ごすかだが、目的があるのであれば、それに向かって努力するだろう。
このまま腐らずに生きて欲しいと思う。
「お前達は弱者の苦しみを知っている。どんなに強くなっても弱者の味方で居てくれよ」
「はい。約束します」
「勿論です」
元気良く返事をする。
その声で寝ていた子供が目を覚ます。
「じゃあ、後は頼めるか?」
「はい」
この場はユキノに任せることにして、俺は立ち去った。




