559話 遊びの代償-1
保護した子供達の前に、剣やナイフを置く。
「好きな物を手に取っていいぞ」
俺の言葉に、子供達は戸惑っていた。
「タクト、これは……」
「あぁ、これから起きる事については俺が全責任を取る。事と次第によっては、軽蔑されるだろうな」
子供が剣を取り、相手の子供を殺そうとする光景は、 アスランやユキノに、ヤヨイの王族には衝撃的な事かも知れないだろう。
「とりあえず、アスラン達はここから動くなよ。さっき、説明した事を実際に見る事になるだろうからな」
俺は【結界】を張り、外部からアスラン達の姿を見えなくする。
勿論、アスラン達の声も外部に漏れる事は無い。
(主、捕獲完了致しました)
(ありがとうなクロ。すぐに戻って来てくれ)
(承知致しました)
クロとの会話が終わると同時に、影の中からクロが現れる。
子供達は驚き叫ぶ。
「あぁ、クロは敵じゃない。俺の仲間だから安心してくれ」
子供達にすれば、自分達が捕まった際に、クロの姿を見たものも居るだろうから、怯えるのも仕方が無い事かもしれない。
影から出す時は、人型だったので気にならなかったのだろう。
「もう一度、言う。今から登場する子供達は自分達貴族以外は、死んでも良い奴だと持っている奴だ。大人になれば、お前達と同じような子供が犠牲になる」
俺は敢えて、戦闘を煽るような口調で話した。
「クロ、頼む」
「承知致しました」
返事と共に、影から三人の子供が現れる。
「此処は何処よ! マチオ、貴方の仕業ね」
「俺は知らない。ショーシアこそ、刺された仕返しなんじゃないのか!」
ショーシアとマチオは言い争いを始める。
「おい! 御前等、うるさいぞ」
「……貴方、誰よ。早く私を返しなさい。私の御父様が誰だか分かっているのかしら」
「そうだ。俺の御父様だって、黙っていないぞ」
ショーシアとマチオは、相変わらず高飛車な態度だ。
ベラサージは誰かに殴られたのか、頬が腫れている。
「別に、お前らがどうなろうと知ったこっちゃ無い。用があるのは、あっちの子供達が奴隷を殺し続けた報復をするそうだからな」
「貴方、何を言って……」
ショーシアは俺を馬鹿にするが、剣やナイフを手に取っている子供達を見ると青ざめていた。
「じょ、冗談よね。今なら、許してあげるから、すぐに止めさせなさい」
「そ、そうだ」
「何を言っているんだ。お前達が奴隷にしてきたことだろう」
「奴隷と私達とでは身分が違うわ。私は貴族の娘なのよ。奴隷のような生きる価値の無い者と一緒にしないで」
子供とはいえ、ショーシアの言葉には怒りが込み上げる。
こういった教育で育ったのであれば、それが正しいと思い込んでも仕方が無い。
一瞬でも、この子供達も被害者なのではと思った自分を悔いる。
「僕達は生きる価値が無いって事か!」
ショーシアの言葉に、俺だけでなく他の子供達も怒っていた。
徐々にだが、ショーシア達との距離を詰める。
「止めなさいって言っているでしょう」
ショーシアは、青ざめながらも高飛車な態度は崩さない。
マチオも威嚇するように睨んでいた。
ベラサージに至っては、影から出て来て泣きっ放しでいる。
「お前のような奴が居るから、僕達が犠牲になるんだ!」
剣を振りかざして、ショーシアを斬り掛かろうとする。
しかし、剣先は天を向いたまま、振り下ろされる事は無かった。
「何故、殺せないんだ……」
ショーシアを斬る事が出来なかった子供は剣を手から離して、自分の不甲斐無さを嘆く。
他の子供達も同様だった。
彼等は命の尊さを知っている。
それだけで、彼等は十分に強いと思う。
「驚いたじゃないか!」
マチオは子供が落とした剣を拾い、逆に切りかかろうとした。
間違いなく殺す気だろう。
「何をする!」
剣が振り下ろされる前に、クロがマチオの腕を掴み止める。
「それはこっちの台詞だ」
俺は殺気を放ちながらショーシアとマチオ、ベラサージの三人に近付く。
「お前達が玩具と言っていた、奴隷のように扱ってやろうか!」
「ご、ごめんなさい」
「もう、絶対にしません」
「しません」
三人共泣き出す。
(主。彼等は嘘をついています)
(だろうな)
クロが三人の言葉が嘘だと教えてくれるが、それはクロから聞かなくても分かっていた。
「絶対にするなよ」と言うと、三人共頷く。
俺は後ろを向き、その場から離れる。




