558話 奴隷予備軍の子供!
王都に戻ると、王族一同と護衛のカルアとターセル、それに騎士団団長のソディックが揃っていた。
「簡単とは言わぬ。出来る限り詳しく説明をしてくれ」
ルーカスは重い口調で、俺に事情を聞く。
俺は作戦前に自分の目で確認をする為に、タルイを訪れた事を説明する。
貴族の子供による奴隷への暴行から説明をする。
「まさか、そんなことが……」
集まった者達が信じられない表情をしていた。
「証人を連れてきているから、直接聞いてみてくれ」
俺はクロに、影の中から奴隷の女性を出す。
当たり前だが、女性は周りを見回していた。
「俺はタクト。さっき、子供達に暴行を受けて、死にそうになっていたので助けた。あそこに居るのは王族だ」
俺は女性に説明をして、ルーカスの方に目線を移す。
女性もルーカスに気が付き跪く。
「よい。面をあげよ」
ルーカスは、奴隷の女性に事の経緯を聞く。
奴隷の女性は、奴隷としてタルイ領主であるエランノットの屋敷で労働していた。
新しい奴隷が増えては、知らぬ間に居なくなったりを繰り返している為、正式な人数や奴隷同士でも交流が殆ど無い。
女性自身も、人が急に居なくなる事を不思議に思っていたが、エランノットからは奴隷契約期間が過ぎたので、奴隷契約を解除して何処かで生活出来るだけの褒美を持たせて、タルイより他の地へ送り出したという言葉を信じていた。
涙ながらに話すその姿を嘘だと思うものは居なかった。
「奴隷契約は俺が解除したから、もう安心していいぞ」
俺の言葉に女性は浮かない表情を浮かべていた。
女性は、親に売られたので自由の身になってもいく所が無いと話してくれた。
「それなら心配ない。王宮の使用人として、我らの面倒を見てくれれば良い」
「そうですね」
ルーカスとイースは、女性に問題無い事を伝える。
「し、しかし……」
王宮に仕えると言う事は、それだけで凄い事である。
ましてや、元奴隷である自分は場違いだと思っているのだと感じた。
ターセルも同じ事を思っていたようで、ルーカスとイースに女性が戸惑っている状況を説明する。
「そうですわ。ゴンド村に移住するというのはどうでしょうか?」
ユキノが名案でも閃いたかのように、得意気に話す。
「そうじゃな。それは良い考えだ。どうだ、タクトよ」
どうだと聞かれても答えようが無い。
村長であるゾリアスにしてみれば、国王であるルーカスの頼みであれば断る事は出来ないであろう。
「俺じゃなくて、村長のゾリアスに聞いてくれ」
「うむ、分かった。ソディックよ、悪いがゾリアスに事の経緯を説明してくれるか?」
「承知致しました」
なんで、王国騎士団団長のソディックが、そのような役回りをしているのか気になったが、ソディックが納得しているようなので黙っていた。
「話を続けてもいいか?」
「そうだったな。その前に……」
話を再開しようとしたが、ルーカスは奴隷女性に向けて声を掛ける。
「色々と大変だったろう。部屋を用意しておくので、今日は此処で休むが良い」
奴隷女性は驚きながらも、頭を下げて感謝の言葉を口にしていた。
その後、王宮使用人が迎えに来たので、奴隷女性は部屋を後にした。
「タクトよ、悪かったの。話を続けてくれ」
「分かった」
俺はタルイの華やかな通りから外れた場所で、奴隷契約をしていない子供達が生活していた事を話す。
スラム街だと誤解される可能性もあったので、奴隷契約が結ばれていない事で逃げ隠れて、怯えている子供達が多数居た事や、大人が居なかった事を説明して、子供達を保護した事を伝える。
「保護した子供達は、こちらで事情を聞いた後に対応する」
ルーカスは大臣を呼び、俺を別の部屋に案内をさせる。
いきなり出て来て、国王が居たら驚くかも知れないので、ルーカスなりの配慮だろう。
俺の後ろには、ユキノを先頭にアスランに、ヤヨイとソディックが着いて来る。
女性が居てくれた方が、子供達も安心をすると思うので助かる。
それにソディックの格好を見れば、子供達も歯向かおうとは思わないかもしれない。
クロの影から子供達を一斉に出す。
出された子供達は、当然だが状況が分かっていない。
王子であるアスランが、子供達に説明を始めた。
これは俺がアスランに頼んだ事だ。
俺よりも王子であるアスランの口から説明した方が、より説得力があると考えた。
アスランが王子だと言っても疑う者も居た。
アスランや王女であるユキノやヤヨイと、王族の証を見せると、子供達は膝を曲げて頭を下げる。
騎士団団長であるアスランや大臣の紹介をすると、疑う者は完全に居なくなる。
ユキノがアスランの説明の後に、優しい口調で子供達に語りかける。
ヤヨイも同じだった。
子供達も次第に、今迄の事を話し始める。
小さな子供は話している途中で、泣き出す子も居た。
それほど辛い生活をしていたのだろう。
「教えてください。どうして、僕達がこんな目に遭うんですか!」
保護した子供の中でも一番年上っぽい子供が、ユキノに向かい叫んでいた。
ユキノは、その子供に謝罪をして、全て国を預かる自分達王族のせいだと、申し訳なさそうに答える。
その後も、「なぜ」「どうして」を繰り返していた。
ユキノそして、アスランやヤヨイも子供達に謝罪をする。
俺はその光景を見て、やりきれない気持ちで一杯だった。
「それでお前達は、どうしたいんだ?」
俺は意見を言う子供に聞いてみる。
「それは……」
具体的な答えが返ってこない事は分かっていた。
誰かに文句を言いたかっただけなのだろう。
その気持ちは理解出来る。
「僕達をこんな目に合わせた貴族や、奴隷商人達に復讐をしたい!」
暫く黙っていたが、子供の口から「復讐」と言う言葉が出る。
「奴隷商人は分かるが何故、貴族もなんだ?」
貴族への復讐に対しては、疑問を感じたので子供に質問をする。
「それは、僕達を捕まえる時に、貴族の玩具だと言われたからです」
「成程な。もうひとつ聞こう。何故、自分達は奴隷契約がされなかったのだと思う」
「分かりません」
タルイで行われている事までは把握していないようだった。
俺の推測では、一度に多くの奴隷契約をするメリットが無いからだと思っている。
仮に、捕まえて奴隷契約したとしても、その後に譲渡する事で再度、奴隷契約をする必要があるので、手間を省いているのだろう。
捕まえて地下に連れて行き、必要な者とで奴隷契約をすれば面倒な契約を省ける。
その為、彼らはあの場所で管理されていた。
(主、そろそろ)
(分かった。頼む)
(承知致しました)
クロが残りの二人の捕獲する連絡が入るので頼む。
ルーカスへの説明に、思っていたよりも時間が掛かってしまった。
「分かった。お前達いや、奴隷を物扱いしている貴族の子供達を連れてきてやる。そいつ等に復讐してみろ」
俺の言葉に子供達は静まり返る。
一時の感情では無いだろうが、俺の中で今回の場合、復讐イコール人を殺すという事だと思っている。
人殺しの業を背負って、これからの人生を歩む覚悟があるのかを問う事にする。




