550話 ライラの成長!
「それ、まだ使っているんだな」
「うん!」
ライラの杖を見ながら話し掛けると、嬉しそうに返事をする。
「これはお兄ちゃんに買ってもらった杖だし、大事にしているよ」
「この杖、貴方が買ったの! どうりで、私が杖の購入を勧めても頑なに断る訳ね」
コスカの言葉に、ライラは恥ずかしそうにする。
「お兄ちゃん、これも大事にしているよ」
胸元から俺が買ってあげた、クリスタロス製のネックレスを見せてくれた。
「そうか、ありがとうな」
俺が買ってあげた物を大事にしてくれている事は、とても嬉しかった。
あまりの嬉しさに一瞬、俺の【魔法付与】で【MP自動回復】や【魔法威力増加(十倍)】でも施そうと考える。
しかし、それは俺の思いなだけで、ライラの成長を妨げる事になる。
過保護過ぎる。ライラも、そのような事を望んではいないだろう。
「ライラの成長でも見てみる?」
「勿論、見てみたいな」
コスカの提案で、ライラの成長を確認する事になる。
ライラは俺に見られると言う事で、少し緊張しているようだった。
「じゃあ、訓練場に行きましょうか」
コスカの案内で訓練場まで移動する。
三獣士や、ジョイナスにクレスト、ナイルも一緒に着いて来る。
「暇なのか?」
思わず聞いてしまう。
「そうだよ。暇だよ」
クレストは即答する。
しかし、ジョイナスは体を動かすつもりだったので、俺達に関係なく訓練場には行くつもりでいたらしい。
それはナイルも同じだった。
「私は、九尾の力に興味がありますので、同行させてもらいます」
八尾のステラは、同じ狐人族である九尾のライラに対して、興味があるようだった。
ロキサーニとセルテートは、ステラに付き合うようだ。
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「相手役は誰にしようかしら」
コスカは、ライラの訓練相手を選ぼうとしていた。
「私が御相手しましょう」
ステラが立候補した。
直接、ライラの実力を確かめられると考えているのだろう。
「じゃあ、ステラ。お願いね」
「はい」
ライラとステラを残して、訓練場から出る。
先に訓練場で訓練をしていた騎士達も、賢者であるステラの戦いが見られるとあって、続々と訓練場から出て椅子に座り始めた。
俺はコスカの隣に座る。
「どうだ。ステラ相手にいい勝負が出来そうか?」
「難しいわ。けれど、魔法のセンスは私よりライラの方が上なのは確かよ」
「珍しいな。他人を認めるなんて」
「種族の違いを改めて知ったわ。だけど、師匠として弟子に負けるわけにいかないしね」
コスカは種族の違いと言ったが、それに加えて九尾というのも大きな理由の一つだろう。
「ただし、ライラが全く勝ち目無いわけでもないわよ」
コスカが悪そうな顔をして笑う。
「おい。それはステラが、少しでも負ける可能性があるって事か?」
後ろに座っていたセルテートが、俺とコスカの話に入ってくる。
「そうね。多少だけどね」
「無いな。ステラはランクSだぞ。それをこの間、冒険者になったばかりの小娘如きに負けるだと!」
セルテートが怒っているのは良く分かる。
冒険者の一握りしかなれないランクS。
その一人でもあるステラが、ランクBになったばかりのライラに負ける事等、通常ではありえない。
「そうね。普通であればね。でも、ライラは隣に居る常識では通じない者の戦いを見ているのよ」
「コイツが常識外れの強さなのは分かっている。それが何か関係しているのか?」
「そうね。オークロードとの戦いをライラから聞かされたけど、それは凄いわよ」
コスカはライラから聞いた俺とオークロードとの戦いをセルテートに話し始めた。
オークロードの酸で俺の体が溶けても怯まずに、諦める事無く立ち向かう。
自分の体がどうなっても、国をそして、仲間を守ろうとする姿は凄かったと話す。
その後も、シキブに間違って腹を刺されても、責める事無く冷静に、副隊長に変装していた魔族を見抜く事など……。
どうやら、ライラの視点では、俺の行動はかなり美化されているようだった。
一緒に聞いている俺は、とても恥ずかしかった。
コスカから話を聞いたセルテートも感心をしていた。
「ライラはいつも言っていたわ。貴方と一緒に戦えるように強くなるってね」
「それは嬉しい事だな」
俺は自然と笑顔になった。
「そろそろ、始まるわよ」
ライラとステラの戦いが始まる。




