541話 洗濯機!
引越しも終わったので、マリーとシロを連れてゴンド村に行く。
トブレから頼んでおいた物を受け取る為だ。
製作したトブレも「何に使うんだ?」と不思議な様子だった。
頼んだ物は前世で言う『サングラス』に似た物と、箱型で上面に蓋が付き閉め出来る『洗濯機』に外観だけ似た物だ。
マリーも皆目見当がつかないのか、箱の蓋を開けたり閉めたりしていた。
「これは便利な物だぞ」
俺は【魔力付与】で箱に【浄化】を施す。
「トブレ、その汚れた服を脱いで貸してくれ」
トブレは首を傾げていた。
「破いたりはしないから大丈夫だ。俺を信用しろ」
「お前は信用しているが、服を脱ぐ意味が分からん」
仕方が無いので、トブレが首に掛けていた手拭いのような物を借りて、箱の中に入れる。
入れただけでは【浄化】は発動しなかった。
蓋を閉めて、数秒後に発光石が光るような仕組みにしているので、発光石が光ると蓋を開ける。
「綺麗になっただろう」
手拭いのような物をトブレに手渡すと驚いていた。
一応、俺の構想通りの物になる。
「……一瞬で洗濯をしたのか?」
「まぁ、そういう事だ」
トブレは驚いていた。
「タクト、これって洗濯しなくても、いいって事よね」
「あぁ、便利だろ」
洗濯機は全部で三つ作って貰った。
俺のスキル【複製】で九つまで増やす事が出来る。
ゴンド村に一台、四葉商会として二台、四葉孤児院に一台渡すつもりでいる事を話す。
マリーは家事の手間が省けて大助かりだと、大喜びしている。
「国王様や、ダウザー様達も欲しがらない?」
「自分で洗濯しないから、必要無いだろう」
「確かにそれはそうね……」
マリーは考えていた。
店には王妃であるイースや、ダウザーの妻でイースの妹でもあるミラ達は、店へ頻繁に遊びに来る。
早かれ遅かれ、彼女達に知られるのも時間の問題だと感じていて、今のうちから、上手く躱せるような会話を考えているのだろう。
「それで、この洗濯が簡単に出来る機械は、何て名前なの?」
マリーに聞かれた俺は、製作者のトブレに「なにかあるか?」と聞くが、俺に言われて箱を作っただけなので、俺に決めろと答える。
「洗濯機だな」
「……そのままね」
「あぁ、そのままだな」
マリーとトブレは拍子抜けしていた。
もっと、素晴らしい名前でも期待していたのだろうか?
とりあえず、マリーに四葉商会と四葉孤児院の三台を、カバンに仕舞うように頼む。
「こんな大きな物が入る訳ないでしょう」
「いや、入るぞ」
「タクト、馬鹿なの。私の小さな鞄に、どう考えたらこんな大きな物が入るのよ」
俺の説明不足なのか、【魔法付与】した鞄には入らないのか?
「そこの鞄より大きな木の切れ端を持って入れてみてくれるか?」
「……別に良いけど」
マリーは木を持って鞄の中に収納する。
「えっ!」
やはり、収納可能だった。
俺は大きさに関係なく、鞄に収納出来る事を教える。
どうやら、俺の説明不足が原因だったようだ。
マリーに、きちんと丁寧に説明をする。
俺の勝手な思い込みで、いい加減な説明をした為、今回のような事が起こった。
「それじゃあ、洗濯機を仕舞ってくれ」
「……タクト、私では持ち上げれないわよ」
マリーが、不機嫌そうに俺を睨む。
またしても、俺の感覚で話を進めてしまった事を申し訳ないと思い、マリーに謝る。
結局、俺が全ての洗濯機を一旦、【アイテムボックス】に仕舞う。
場所を移動して、広場に洗濯機を二台出す。
見た事の無い物に、子供達は興味津々だった。
シロは相変わらず子供達に人気がある。
子供数人が、鳴き真似だけで小さなドラゴンと会話をしていた。
見ている限り意思の疎通が出来ている。
子供の学習能力と言うか、英才教育と言って良いのだろうか?
エルフ三人娘も、村に溶け込もうと頑張っているようだ。
エルフの集落に比べると、周囲に狩りが出来る動物が少ないと困っていた。
狩猟以外でも、村に貢献出来る事を探していると、前向きな発言が俺には嬉しかった。
「何の騒ぎだ?」
ゾリアスや、他の村民も集まってくる。
アルとネロは外出中のようで不在だったので、余計な横やりが入らずに済みそうだ。
引っ越して来たばかりのシキブとムラサキも揃って現れる。
集まった村民に、俺は洗濯機について簡単な説明をする。
まずは操作方法から説明をして、水を使用しない事等も説明する。
子供から「汚れは何処に消えたのか?」と聞かれる。
俺自身、【浄化】した際に取り除かれた汚れが、何処に消えたのか等、考えもしなかった。
「綺麗な空気に変わったんだぞ」
とりあえず、それらしい事を言って誤魔化す。
子供達は「すげぇ!」と驚いていた。
ゾリアスに、二台の洗濯機はゴンド村に提供するから、盗まれないように管理して皆で使ってくれと伝える。
子供を持つ家庭から感謝される。
洗濯は時間の掛かる家事だ。
手で洗濯をして、干して取り込む。
この洗濯機であれば、一瞬で汚れを取り除き、水を使わないので乾かす必要もない。
主婦の大きな味方だろう。
「これで商売したら大儲けだろう!」
ムラサキが笑いながら、冗談を言う。
しかし、マリーは「確かに!」と新しい商売になると確認したようだ。
「タクト! これ、私も使っていいのよね」
「あぁ、シキブもこの村の一人だからな」
シキブは嬉しそうだった。
身籠の体での家事は、やはり辛かったのかも知れない。
「タクト! この洗濯機を三台ほど用意して貰っても良い?」
「早速、商売の話しか?」
「えぇ、さっきムラサキさんが言ったように、安価で洗濯を請け負えば、かなりの御客を確保出来ると思うわ」
「確かにな。しかし、衣服が破れていたりして問題事が起きる可能性も高いぞ」
「そうね。そこら辺は考えてはいるわ」
マリーは、洗濯機に入れる衣類の枚数で金額を決めるそうだ。
従業員と枚数を確認して、指定の袋に入れた後に従業員と一緒に洗濯機まで行き、御客自らが洗濯をすれば、この問題は解決すると言った。
「それだと、洗濯機の中で破けたとか、言う奴等が現れるぞ」
「確かにタクトの言うとおりね。それなら、洗濯機に入れて破れたりしても責任持ちませんにすれば、良いのかしらね?」
「う~ん、どうだろうな。その規約を説明して、ギルドカードのような証明書を持った人のみが利用出来るようにすれば、大丈夫かもな」
「場所の事もあるし、ブライダル・リーフでは扱えないから、他の店舗の事もあるし難しいわね」
「それなら、ブライダル・リーフに受付だけ用意して、転移扉で別の場所に移動して洗濯すれば問題無いんじゃないのか?」
「その別の場所って、何処よ」
「そうだな……」
ジークのスラム街跡に建物を建てる計画は白紙になっている。
仮に建てたとしても管理する者が居ない。
問題は色々とあるが、マリーはこの『洗濯屋』を諦めてはいないようだった




