535話 操血!
「なかなか面白かったの」
「そうなの~。師匠の体は、リザードマンの尻尾みたいなの〜」
稽古と言うか、戦いを終えたアルとネロは満足そうだった。
それと、リザードマンの尻尾も切れて再生出来る事を知る。
「しかし、まるっきり敵わなかったな」
「妾達相手に、あそこまで戦えれば十分じゃぞ」
「そうなの~」
「二人とも、実力の半分も出していないだろう」
「当たり前じゃ」
分かっていた事だが、直接聞くとショックが大きい。
俺も魔王と言われてはいるが、実力で言えば二人とは大人と子供位の差がある。
冷静に考えれば、以前に見た二人のレベルと、俺のレベルを比べてみても、実力の差がある事は容易に理解出来る。
しかし、この二人と戦えば、必然的にレベルアップが早くなるので強くなれる。
「二人とも、ありがとうな。又、頼んでもいいか?」
「勿論じゃ。早く強くなって貰わんと、遊び甲斐が無いからな」
「そうなの~」
満足そうな顔で返事をする。
ネロに先程の血を使った攻撃について聞くと、吸血鬼族特有のスキル【操血】というらしい。
初めて出会った時に、ユニークスキルを教えてくれと言ったので、種族特有のスキル等は俺に話していないのだろう。
スキル名【操血】とスキル内容を理解したので、俺も【操血】のスキルを習得していた。
慌ててスキルにポイントを振るが、貯めていたポイントの量があったので即死する事は無かった。
俺はネロの目の前で、先程のネロと同じ様に指先を傷付けて流血させる。
しかし、【自己再生】の能力ですぐに傷口が塞がってしまう。
少量の血液で【操血】を試してみるが、上手くいかない。
仕方が無いので、【風刃】で手首を深めに切ってみる。
血の量は多いが、数秒で傷口を塞いでしまった。
「師匠、へたくそなの~」
ネロから笑われる。
「自在に操るのは難しいな」
「頭の中で形を決めると簡単なの~」
ネロに言われるまでも無く、イメージが大事だという事は分かっているが、簡単には出来ない。
複雑な形状をイメージしているので、簡単なイメージな針に変えてみる。
「師匠、出来たの~!」
血液を針の形状に出来たのを見て、ネロは自分の事のように喜んでくれた。
「ネロは一気に血を放出させていたけど、あれも【操血】なのか?」
「そうなの~、傷口から一気に放出するイメージなの~」
「成程!」
俺は傷口から出た血液のみを対象と考えていたが、自分の体内に流れる血液も自由に操れるという事らしい。
大量に流血すれば、貧血や失血死する恐れがあるが、俺の場合は【自己再生】があるので、その点は心配無用だ。
「他人の血では【操血】を使う事は出来ないのか?」
「出来るの~! 傷口に自分の血を入れれば血液が増えて自由なの~。御母様の得意分野なの~」
ネロの説明は理解出来た。
同時に嫌な予感が走る。
セフィーロは冒険者の傷口を舐めたりしていた事を思い出したからだ。
もしも、意図的に自分の血を冒険者達に分けていたとすれば……!
俺の変な噂を広めた事も含めて一度、セフィーロとは話し合いが必要だ。
とりあえずは、【操血】のスキルを上手に使いこなす事を優先にする。
血液を小さな球にしたり、無数の針に変えたりと少しずつだが上達していた。
「もう、戻らなくても良いのか?」
暇そうにしていたアルが、珍しく時間を気にしていた。
退屈過ぎて、早く帰りたくなったのかも知れない。
ネロとの話しに夢中になっていた事を申し訳なく思う。
「そうだな。戻る前に一ヶ所だけ寄りたい所があるが、寄ってもいいか?」
俺は【魔力探知地図】で、大きな印があった事が気になっていた。
巨大な体をしていれば、この場所に適していないと言ったアルの言葉と矛盾する。
この土地に君臨する魔物なのだろうが、魔獣か魔人かも分からないので、一目見ておこうと考えていた。
「おぉ、そこなら案内出来るぞ」
「アルは、俺の言っている印が何か分かるのか?」
「勿論じゃ!」
「わたしも知ってるの~」
二人が知っていると言った時点で、悪い予感しかしなかった。




