532話 戦闘準備!
「じゃあ、そろそろ戦うかの!」
アルは準備運動の動作なのか、腕を回し始めた。
「ここでか?」
「あそこでじゃ!」
アルが指差す先に、その場所があるらしいがここからでは見えない。
「……何処だ?」
「仕方ないの。ついて来い」
アルに連れられて、空から移動する。
上空から見ると、幾つものクレーターが出来ている事が分かる。
山脈に囲われているというのは本当で、山脈より低い場所には魔素の影響か薄黒い霧で覆われていた。
先程は気にならなかったが、こうしてみるとはっきりと分かった。
所々、クレーターのように地面が削られている。
案内された場所も、五十メートル程地面が下がっているクレーターだった。
十メートル程の足場が良い場所以外は、水で浸かっている。
雨水が溜まったのだろうか?
……もしかして!
このクレーターのような跡は、アルやネロが作ったのかと疑問を抱く。
アルに聞くと案の定、二人で遊んだ時に出来たそうだ。
クレーターだけで無く、山ごと破壊した為、この場所自体作った事になる。
原因はアルとネロの喧嘩だそうだ。
理由を聞いても「覚えていない!」と、アルとネロは答える。
その後、セフィーロに叱られて、仲直りをしたと教えてくれた。
しかし、二人共嘘を付いているのが態度で分かった。
興味があったので、詳しく聞きたかったが喧嘩の続きを始められたら、俺に止める事は出来ないし、本人達が俺に話さないのは、何か理由があるのだとも思えた。
続けてアルがその時の事を話してくれた。
喧嘩した際に、此処から近い場所では地面がかなり揺れて、人族にも被害が出たらしいが、本人達は昔の事だと気にする素振りも無い。
当時の神であるガルプが隠蔽したのか、大した事では無いと判断したのか分からないが、中級神や上級神から罰せられる事は無かったようだ。
そもそも、担当神以外が介入してくる条件も良く分かっていない。
今度、エリーヌかモクレンに聞いてみる事にする。
この場所を作ったアルとネロは、破壊された何も無い状態を殺風景と感じたのか、暇潰しにアルとネロ二人で競うように、魔物や動物達を此処に運んで来たが、段々と面倒臭くなり途中で止めたそうだ。
飽きっぽい性格は昔から変わらないようだ。
「だから、この場所は妾達が好きに使って良いのじゃ」
「そうなの~」
自慢気に話すが、誰の土地でもない場所を開拓したと言う点だけ捉えれば間違いではない。
人族も同じようにして国を大きくしてきた訳だからだ。
此処でアル達に稽古をつけて貰うとしても、地形や魔獣達に影響が出る事には間違いないだろう。
「ふっふっふっ、心配ない。そこら辺も対策済みじゃ!」
アルが嬉しそうに答える。
対策済み?
アルやネロの戦闘力に耐えられるという事なのだろうか?
「これじゃ!」
アルが自慢気に石塔を触っていた。
「なんだこれ?」
これと同じような物が六ヶ所に設置してあった。
地上にも同じ物が六ヶ所あるそうだ。
第三柱魔王のロッソに作ってもらったそうで、結界を作る装置のようでアルやネロが攻撃しても結界の効果で、外には影響が出ないそうだ。
但し、【魔法反射】等のスキルを発動すると効果がなくなるそうなので、俺は【オートスキル】から【魔法反射(二倍)】を外す。
しかし、こんな便利な装置があれば人族、特に王族や貴族にとっては重宝されるに違いないだろう。
ロッソの作る道具を魔法研究所の所員達に見せると、大喜びで解析や分解を始めるだろうと思いながらも、ローラに至っては死を覚悟してでも、ロッソと話をしたいと言いかねない。
ロッソ自身、人族に嫌悪感が無いので、即死させるスキルなければ歴史も変わっていたのかも知れないと思う。
「とりあえず、これに触れ」
アルが石塔の一つに埋め込んである掌大の石に触るように言う。
既にネロが触っていたので同じように触る。
「魔法と使うか、攻撃する時の感覚を思い出すのじゃ」
俺は言われたとおり、攻撃のイメージを作ると石が少しだけ温かくなり、うっすらと光った。
「これで良いのか?」
「準備完了じゃ」
アルの目が嬉しそうに輝いていた。




