528話 妬み!
ジークに戻り、イリアに連絡を取る。
エイジンと一緒に居るし、用意も出来ているそうなので、直ぐに四葉商会に向かうと言ってくれた。
フランは向かいにある冒険者ギルド会館へと走っていった。
幼馴染のロイドに、ゴンド村へ帰郷する事を伝えに行ったのだろう。
一人で帰るのも心細いので誘った可能性もある。
マリーも着替えてくると言って、自分の部屋に戻る。
移動する前に俺が『転移扉』の事を忘れていたので、マリーに案内を頼もうとしたが、状況的に自分も同行するという判断をしたようで、自分も行く前提でマリーは会話をしていた。
本当にマリーには頭が上がらない。
俺の考えている事を、ある程度先まで理解してくれている。
シロやクロを除いて、ここまで俺を理解してくれているのはマリーだけだろう。
俺はフランの後を追うように、冒険者ギルド会館へと向かった。
用件は、シキブとムラサキにゴンド村へ行く事を伝える為だった。
連絡しようとも思ったが、歩いて行っても数分の事なので、直接会いに行く。
当然、ユキノとシロも一緒だ。
冒険者ギルド会館前で、俺に気が付いた冒険者達が近寄ってきた。
何でも、昨日の美女が「俺無しでは生きていけない身体なの」と発言した事の真意を確かめに来たらしい。
……昨日の美女って、セフィーロの事で間違いないだろう。
わざと誤解するように言っている事は分かっていた。
「なんで、お前ばっかり……」
冒険者達に妬まれている事は分かった。
特に隣にはユキノとシロがいるので、余計と気持ちを逆撫でしているのだろう。
「只の友人だ。それも御前達を揶揄う冗談だろう」
俺がそう言っても、冒険者達は疑いの目を向けていた。
「私もタクト様無しでは生きていけませんわ!」
「御主人様。それは私も同じです」
ユキノが言わぬ事を言うので、シロも同調する。
この言葉で、冒険者達の妬みをより買う事になる。
とりあえず、用事があるので中に通して貰い、シキブ達が居る部屋へと移動する。
途中、嫉妬と妬みの視線を感じた。
セフィーロは、俺が困ると分かっていて発言している確信犯な事に間違いない。
今度会ったら、セフィーロに文句を言う事にする。
受付嬢のユカリにシキブに用事があると言うと今、客が来ていると言う。
イリアは今日、休みの筈なので仕方ないと思っていると、ユカリがギルマスの部屋に居ると教えてくれた。
「もしかして、客ってグランド通信社のエイジンか?」
「はい、そうです」
「俺も用事があるので上がって良いか?」
「ん~、私の判断では難しいですね。聞いてみましょうか?」
「シキブもエイジン達も俺の用事で、集まっているから扉越しに俺が来た事を伝えて問題無ければ入って良いか?」
「そういう事であれば、問題ありません」
俺が悪人だった場合、信用して勝手に面会させたユカリの責任になる。
ユカリに責任を押し付けるのも、申し訳ないので俺の言葉が本当だという事を扉越しに確認させて、責任の所在をはっきりさせておく。
「ところで……」
ユカリの目線は隣のユキノに移動していた。
右手でこっちに来るような仕草をする。
「何だ?」
「タクトさん。相変わらず綺麗な人に囲まれてますよね。冒険者の方々から妬まれていますよ」
俺に耳打ちをする。
「気のせいだろう?」
「いえ、実際にタクトさんの問い合わせも数件ありますよ」
「えっ?」
ユカリ曰く、俺が冒険者ランクの最高ランクであるSSSという事で、何人かの女性達が俺に興味を抱いているらしく、他の冒険者達や受付嬢達から情報を仕入れているそうだ。
ランクSSSの冒険者となれば、金持ちな事は間違いない。
しかも家を何日も空ける為、自由気ままに暮らす事も出来る。
そういった理由も有り、高ランクの冒険者を狙っている女性が多いと教えてくれた。
「成程ね。今迄、変な恰好の変人扱いから、一気に狙われる立場になったと言う事か」
「はい。大丈夫かと思いますが、気を付けて下さいね」
ユカリは、ユキノの事を言っているのかも知れないが、それがユカリの優しさだと分かっているので、腹が立つ事も無かった。
「忠告ありがとうな」
「ただでさえ問題の多いタクトさんです。これ以上、問題を起こされると私達の仕事が増えるので……」
反論しようとも思ったが、俺が問題を起こしている事は否定出来ない。
「ユカリ達に迷惑を掛けているつもり無いが、出来るだけ努力はする」
「タクトさんは、毎回同じ事を言っていますよね。まぁ、とりあえずギルマスの部屋に行きましょう」
ユカリと一緒に階段を上り、ユカリが部屋の扉を叩いて俺が来た事を伝える。
シキブの声で「どうぞ」と返事があったので、ユカリに礼を言って扉を開ける。
部屋には、シキブとムラサキの他に、イリアとエイジンの四人が座っていた。
部屋には紙が散らかっていた。
いつもであれば、イリアがシキブを叱っているはずなのだが……。
紙に書かれている内容は間取りやら、家の外観のようだ。
「……シキブ達も自分達で設計した家にするのか?」
「だって、イリアから家の話を聞いているとね」
「建てる場所等はゾリアスに聞くとして、建てる予算はあるんだろうな」
「まぁ、そこは相談と言う事で……」
周りに流されやすいのか、単純に羨ましいかは分からないが、気持ちは注文住宅に傾いているようだ。
只、雰囲気的に盛り上がっているのは、イリアとシキブの二人で、エイジンは困ったような表情でイリアの横に座っていた。
イリアがシキブと話をしている間に、自分とイリアで考えていた計画の変更もあったのだろう。
ムラサキに至ってはシキブの言うがままと言った感じなのか、意見も述べずに黙ってシキブとイリアの話を聞いていた。
元々、口下手なムラサキだが熱く語っているシキブが心配な様子だった。
シキブは昔、熱くなると周りが見えなくなる性格だと聞かされたので、その節を感じたのだろう。
エイジンがイリアの許可を取って席を立つと俺の所まで来て、仕事の事で礼を言われる。
「しかし、イリアが子供に勉強を教えるのは未知の領域ですね」
エイジンは笑う。
子供と接する事が無かった為、若干の不安があるのだろう。
イリアは他にも出来る範囲で、マリーの手伝いを頼みたいと思っている事や、エイジンの仕事についてもマリーと相談して決めて欲しい事を伝える。
「しかし、私の場合は村に貢献出来ることが、あるかが分かりませんね」
「ん~、エイジンは大丈夫だと思うぞ」
「そうですか?」
エイジンはゴンド村に住む為、ゴンド村での仕事を模索しているのだろうが、『転移扉』があればジークでも仕事は可能だ。
それに村で不足している物をエイジンや、イリアにマリーが調達してくるだけでも、村にとっては有難い事だろう。
それにエイジンの知識等は必ず、村にとって有益になる。
「まぁ、ゴンド村に行ってから詳しい事は話そうか」
「そうですね」
俺はゴンド村に着いて行くだけなので、家の事は当人同士で打ち合わせをしてくれれば良いし、仕事の事はマリーを踏まえた上で考えれば良いだろう。




