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514話 薄情!

 王都魔法研究所に着いたので、ローラに連絡を入れると「所員を迎えに行かせる」と言うので、少し待っていると扉が開く。


「タクト様。御待たせ致しました」


 所員は俺に挨拶をすると、ローラの所まで案内をしてくれた。

 夜だというのに、研究所内にはまだ多くの所員達が残っている。

 研究者と言うのは時間の概念が無いのだろうか?

 案内してくれている所員に質問をしようかと思ったが、止めておく。


「転移扉は役に立っているか?」

「はい、勿論です。あの扉のお陰で大変助かっています」

「そうか。役に立っている様で安心した」

「研究所員一同、タクト様には感謝しております」


 面と向かって、その様な事を言われると純粋に嬉しかった。

 歩きながら世間話をする。

 研究内容については、機密情報だと分かっているので、敢えて聞かない事にしている。

 それでも俺に興味があるのか、何か新しいアイデアが無いかを、遠回しに聞いてきたりするが、俺は誤魔化しながら答える。

 実際、幾つか思い付く事はあるが、今言う事では無いと思っている。

 ローラの研究室の前に到着すると、所員は扉をノックする。

 部屋の中から「開いているぞ」とローラが返事をする。

 所員は扉を開けて「どうぞ」と、俺を部屋の中へと誘導する。

 所員は部屋に入る様子が無いので、俺は所員に礼を言って別れる。


「忙しい所、悪いな」

「別に構わん。例の紙なら、そこに置いてあるから勝手に持って行け」


 ローラが「そこ」と言った場所には書類の山がある。

 多分、ここら辺にあるという事なのだろう。


「書類は移動させていいのか?」

「あぁ、好きな所に移動してくれ」


 ローラは俺の方を見ずに、なにやら一枚の紙を見て考え込んでいた。

 俺は言われる通り、書類の山の中からトランプを見つけて仕舞う。

 これだけ散らかっていても、どこに何があるのか分かっているのは凄いと感じた。


「そういえば、この間ライラに会ったぞ」

「そうか。ライラも王都に居るから会う事はあるかもな」

「随分と、逞しくなっていたぞ。師匠のお陰だと言っていたな」

「そうなのか?」


 ローラからライラの事を聞くとは思っていなかったので、少し驚く。


「それと、タクトから連絡が無いと愚痴っておったぞ」

「それは、ライラの修行の邪魔になると思って控えているんだよ」

「自分の意思で王都に残ったとはいえ、まだライラは子供だ。それなのに、連絡をしないとは薄情な奴だ」


 まさか、ローラからそのような事を言われると思っていなかった。


「ローラだって、人の心が分かるようには見えないがな……」

「失礼だな」


 ローラはそう言うが、片手間に話をしているので本気で怒っているのかさえも分からなかった。


「他に用事はあるのか?」

「特に無いが、研究は上手く行っているのか?」

「上手くいっていないから、研究室に残っているのだろう」


 ローラと口では勝てないのは百も承知なので、礼だけ言ってさっさとジークに戻ろうとすると、ローラが俺をひき止めた。


「タクト。これをどう思う?」


 ローラは先程から見ていた一枚の紙を俺に見せる。

 回路図のようなものだが俺には何が書いてあるか分からない。


「なんだこれ?」


 何かを聞いてみるが、開発中の固定電話に使うものらしい。


「タクトなら分かると思ったんだがな」

「悪いな。そう言った知識には疎くてな」

「まぁ、タクトに期待した私が悪いのだから、気にするな」


 何故か、侮辱されて気持ちになる。


「期待に応えられなくて悪かったな」

「だから、気にするな」


 俺が紙に書かれていたものを理解しないと分かると、ローラは先程を同じように紙をじっと見ている。

 完全に俺への興味が無くなったようだ。

 これで、人の心とか言われても……。


「忙しい所、悪かったな」

「別に構わぬ」


 俺はローラに別れの挨拶をして、ジークに戻った。

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