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510話 最弱国王!

 家の扉を開けると、エマが待っていたとばかりに俺に向かってきた。


「タクト、遅いよ~」

「もしかして、ずっとここで待っていたのか?」

「当たり前でしょう!」


 一人でアルが居る部屋に入る勇気は無かったようだ。

 怯えるエマを肩に乗せて、セフィーロと二階に上がる。


「今、戻った」

「遅いのじゃ!」


 楽しそうなアルとネロとは対照的に、ルーカスの周りだけ空気が重かった。


「そうか、普通だろう」


 アルとネロに言葉を返して、部屋を良く見てみると部屋の隅で、ザックとタイラーが小さく座っていた。

 どうやら、いつも通り家に戻って来たらルーカス達が居た事、何よりアルとネロが居た事に驚き、とりあえず部屋の隅で大人しくしていたそうだ。

 姉であるリベラの目も有り、出来る限り失礼の無いように振舞っていたそうだ。


「頑張っているそうだな」


 大人しくしているザックとタイラーに声を掛ける。


「あぁ、兄ちゃん」


 怯えた目で俺を見る。

 その後、目線の先はアルとネロになっていた。

 やはり、ネロとの件はトラウマになっているのだろう。


「トグルから聞いたが、頑張っているようだな」


 俺は二人の頭を撫でながら褒めてやる。


「冒険者の試験を受けられる歳になるまでは、出来る限りの事をするつもりだよ」

「師匠にもそう言われているしな」


 そう話す二人は嬉しそうだった。


「あまり、タクトさんに迷惑掛けちゃ駄目よ」


 リベラが俺たちの方に寄って来て話しかける。


「違うよ。兄ちゃんに褒められたんだぞ」

「そうだよ」


 ザックとタイラーは二人でリベラに反論する。


「本当ですか?」

「あぁ、頑張っているとトグルに聞いたんでな」


 疑うリベラに俺は答える。


「そういえば、トグルに家の件聞いたぞ」


 リベラにトグルと一緒に、ムラサキやシキブの家に引越しをする事を聞いたので、その事を話す。


「はっ、はい」


 リベラは俯き、顔を赤らめていた。


「俺達もだぞ!」


 ザックとタイラーも自分達も引っ越すんだと俺に主張してきた。


「らしいな。トグルとリベラに迷惑を掛けるなよ」

「大丈夫だって! なぁ、タイラー」

「なんの問題も無いぜ!」


 二人共が嬉しそうな顔で、俺に答える。


「早く冒険者になって、ライラに追いつかないとな」

「そうだぜ!」


 ザックとタイラーは、既に冒険者になっているライラを意識しているようだった。

 俺はライラが王国でも凄い冒険者に、王都で教えて貰っている事を伝える。


「今も特訓しているかもな」


 俺の言葉にザックとタイラーはお互い顔を見合わせる。


「特訓してくる」


 そう言って、三階に上がろうとする。


「ラウムさんが居るから、大きな音は出さないようにね」

「分かっているって!」


 扉を開けて行ってしまった。


「ラウムと赤ん坊は元気か?」

「はい。母子共に健康です。たまにシキブさんが、ラウムさんに母親の先輩としての助言を聞きに来ますよ」

「シキブがか!」


 ラウムは一度、我が子を捨てた経験を持っている。

 その自分が母親としてシキブに教えたりするのは、かなり葛藤があったのだと思う。

 しかし、過去を後悔してもどうしようもない。


「タクトさんは、ラウムさんの子供の名前知っていますか?」

「いや、知らないぞ」

「やっぱり、そうでしたか。フレディちゃんですよ」

「男の子か?」

「はい」


 それから、リベラがラウムの状況を教えてくれた。

 特に問題なく、フレディの子育て優先で仕事をしているようで安心したのと同時に、リベラの成長振りにも驚かされた。


「しかし、ザックとタイラーは相変わらずですが……」

「ライラを意識しているのであれば、壁は高いかもな」


 王都でも有名な冒険者である、コスカに弟子入りしているライラ。

 何度か王都で姿を見たが頑張っていた。

 声を掛けようかとも思ったが、ライラから連絡があるまでは、俺から連絡はしないと決めていた。

 ライラに変な甘えなどを持って欲しくは無かったからだ。

 コスカとは数回、王都で顔を合わせた際に「ライラは最高の弟子だ!」と自慢気に話していたので、上手く関係を築けているのだろう。

 納得いく結果を出して、ライラから連絡が来る事を期待しているのと同時に、ザックとタイラーが実力の差を目の当たりにした時が、心配でもあった。


「タクト! 国王は弱すぎて、つまらんのじゃ」

「国王最弱なの~」


 ババ抜きを終えたアルが、大声で俺に話しかける。

 ネロはルーカスに追い打ちの言葉を掛ける。


「ところで肩に乗せて隠れているのは、妖精族か?」


 アルは肩に乗せているエマに気が付くと近寄って来た。

 俺は見やすいように膝を折る。

 エマはアルを直視しようとしない。


「珍しいの。昔、妖精族とは、よく追いかけっこをしたが面白かったぞ」


 アルの言う追いかけっことは、一方的に追いかける遊びの事を言うのだろうか?

 追いかけられた方は、殺されると思って必死に逃げているのだろう。

 しかも、その追いかけていた妖精族の一人がエマだという事さえも忘れている。

 エマも自分の事を言われているのに、アルが覚えていない事に怒っているようにも思えた。

 エマ以外にも被害者が居るという事になる。


「多分、アルに追い掛けられたその妖精は、死を覚悟していたんじゃないのか?」

「何故じゃ?」

「そりゃあ、魔王に追い掛けられたら殺されると思うだろう。因みに、妖精族には追いかけっこしようと言ったのか?」

「いや、妖精族を珍しいから見つけたら、追い掛けるぞ」


 俺の思った通りだった。


「まぁ、これからはいきなり追い掛ける事は止めてやれ。妖精族も可哀想だ」


 肩でエマが大きく頷いている。


「タクトがそう言うなら、考えてみるぞ」


 アルも「分かった」と言わないので、同じ事が繰り返される気がする。


 妖精族であるエマを初めて見る者達は驚いていた。

 ましてや、魔王が妖精族を追いかけていた事を聞いたので、衝撃的だっただろう。


「とりあず、トランプを仕舞ってくれ。料理が置けん」

「分かったのじゃ」


 アルとネロは、トランプを片付けて机の上に、ガイルとロイドの料理を並べた。

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