502話 それぞれの思い!
シキブに押し切られた形で、ルーカス達の食事をする場所が、ジークにある俺の家になった。
マリーとフランは、グランド通信社の仕事で王都に行っているので、リベラに連絡をする。
「タクトさん、どうしたんですか!」
俺が直接、リベラと連絡を取る事が少ないので、連絡を受けたリベラは驚いていた。
「急で悪いが、二階に七人程、客を連れて行きたいんだが大丈夫か?」
俺が人数を伝えると、アルが服を引っ張る。
「妾とネロも行くぞ!」
……食事するだけなのに、何故だ?
面倒なので、リベラに「九人に変更だ」と訂正する。
「はい、大丈夫ですが大事な御客様ですか?」
「いつもの我儘な客だ」
皮肉を込めて話すと、ルーカスと目が合う。
「いつ、余が我儘を言った」
……今、言っているだろう。
ルーカスを無視して、リベラと話をする。
「もしかして、国王様達ですか?」
「流石だな」
「それは分かりますよ。タクトさんがそんな皮肉を言う方は、国王様かダウザー様くらいですから」
リベラは笑いながら話す。
「イース様が来られたら、ユイちゃんも大変ですね」
「まぁ、必然的にそうなるよな。一応、釘を刺しておくけど……」
「まぁ、無理でしょうね」
イースはリベラやユイとも、一人の女性として普通に話をして接している。
普通の話から服の話や、街での流行等も話にもなるので、女子会の感じになる。
感覚的に、イースとユイは気が合うのだろうと思う。
「ガイルの店から食事を運んで食べるだけだから、リベラ達もついでに食べて良いからな」
「ありがとうございます。皆に伝えておきますね」
「悪いが頼むな」
シキブには十人前と頼んだが、後でガイルに追加で料理を頼めば問題無いだろう。
リベラとの【交信】を切り、ルーカス達に場所を『ブライダル・リーフ』の二階に変更した事を伝えて、料理は俺が運ぶので、気兼ねなく食事してくれるように話す。
「ユイちゃんも居るんですよね」
話終わる前にイースが、俺に寄って来た。
「あぁ、ユイも一緒に食事をする様に言っておいた」
「そうですか。うふふ」
嬉しそうなイースを横目に、フリーゼが小声で俺に話し掛けてきた。
「何故、王妃はあんなに嬉しそうなんだ?」
「友達に会えるのが嬉しいだけなんだろう」
「友達?」
フリーゼは不思議そうな顔をしていた。
「マリーとフランは、王都に仕事で行っているから留守だからな」
一応、ルーカス達にマリー達が不在な事を伝えると、イースが少し寂しそうだった。
完全に女子会を開く予定だったのだろう。
ゴンド村からであれば、転移扉を使えば、ジークまですぐに着く。
「ただいまなの~」
ネロがジークから戻って来た。
「ネロ。夕飯はジークにあるタクトの家で食べるぞ」
「やった~なの~」
アルの言葉に、ネロが喜ぶ。
「食べた後はタクトと、トランプ勝負じゃな」
……それが目的か!
スキルを使わなくても、アルやネロの場合、表情に出るのですぐに分かる。
本人達は気が付いていないようだが、俺が教える事でもない。
戦いの最中でも頻繁に表情を変えているのか、気にはなる。
「そのトランプとは、以前に見た紙で出来た玩具の事か?」
ルーカスが俺とアルとの会話に入って来る。
「あぁ、簡単な遊びだが色々と遊べる。数字を覚えたりと、教育にもなる」
俺はそう言うと、トランプを出して机の上に並べる。
一から十三までの十三枚に、絵柄は四種類。そして、大きなバツが書かれているババだ。
俺はババ抜きの簡単な説明をすると、イースやアスランにヤヨイも興味を持ち始める。
「因みに、十三は一番数が大きいので国王だな。十二は王妃と考えてくれ。そして十一は……」
前世のJの意味を覚えていない。
「まぁ、分かりやすいように四種類の十二と十三を歴代の国王の絵にしたり、十一は親衛隊長の絵にしたりすると、より面白いだろうな」
苦し紛れに剣を持ったカードを思い出したので、親衛隊長と言ってみたりする。
ルーカスは興味津々だ。
「それと、このバツだが手元にあると不吉な物や、姿にするとより楽しく遊べるぞ。まぁ、子供達が怖がらない事が前提だがな」
仮に髑髏でも良いが、魔物や死を連想したりするのは俺的には避けたい気持ちがあった。
「絵柄はともかく一度、遊んでいる所を見てくれ」
俺はそう言うと、外で遊んでいた子供達三人に「ババ抜きをするので一緒に遊んで欲しい」と言うと、喜んで誘いに乗ってくれた。
アルとネロを交えてババ抜きを始める。
トランプに興味を持ったルーカス達。
俺は、未だ表情が冴えないダンガロイに話し掛ける。
「まだ、気持ちの整理が着かないのか?」
「そうですね。領主として、夫として、そして兄としての立場を考えると、何が正解だったのかと……」
「正解なんて無いだろうな。ただ言える事は、悩んでも結果は変わらないという事だ」
ダンガロイにとって、俺の言葉は冷酷と感じるかも知れない。
確かに、この数時間で起こった事はダンガロイにとって衝撃だった事は間違いない。
気持ちの整理の問題だけだ。
「……その、人を殺す事は魔獣を殺す事は同じ感覚なのでしょうか?」
ダンガロイの質問に、俺は少し驚く。
「あっ、気分を害されたのであれば、申し訳御座いません」
俺が怒っているように見えたのか、ダンガロイは早い口調で謝罪した。
「いや、別に怒っていないから、安心してくれ。只、その質問は難しいな。結論だけ言えば同じになるな」
俺の答えにダンガロイは無言になる。
続けて、俺は弱肉強食の事や、自分や仲間に危害を加える者には容赦しない事を話す。
「ロスナイの場合は、自分の趣味で殺人を犯す。それが奴隷でも同じ事だ。人の道理から外れる外道のやる事だと俺は思っている。言い方は悪いが、俺はあの瞬間、ロスナイを人だとは思っていなかった」
淡々と話す事で、余計と俺が血も涙もない人間だと、ダンガロイに思われるかも知れない。
しかし、これがダンガロイの質問に対しての俺の答えになる。
俺の答えを聞いたダンガロイは又、無言になる。
「タクトの言う通り、悩んでも事態が変わる事は無い」
下を向くダンガロイに、フリーゼが話し掛ける。
「悪人は罰せられる。それがこの世界の決まりだ」
「それは分かっているが……」
これは本人の問題なので俺には、どうする事も出来ない。
「少し席を外すから、戻って来て聞きたい事があれば、さっきのように何でも聞いてくれ」
「ありがとうございます」
フリーゼが慰め役になって、少しでもダンガロイの気持ちが楽になればと思う。




