483話 捨てられた者達の決断!
ゾリアスと一通り村を回って、皆と言葉や酒を交わす。
俺の家の三階に上がり、村について話をするつもりだが、既にセフィーロが座って酒を呑んでいた。
セフィーロは「構わずにどうぞ」と、あたかも自分の家のように振舞う。
俺も気にせずに、ゾリアスと話を始めた。
ゾリアスは村民と話して決めた事を俺に伝える。
まず、『居住区』と『農業区』を分ける事を提案してきた。
明確な区分けは無いとしながらも、コボルト達が『農業区』を主として暮らす。
決して、差別では無いと念を押すが、そんな事をしない事くらい俺は知っている。
繁殖期の為、今は仮住まいだが共同住宅のような家の方が落ち着くと聞いているらしく、その方向で建設するらしい。
トブレ達ドワーフが移住するので新たに、『産業区』が必要になりだろうと話す。
当然、先程の話で木像を掘っているクラツクも含まれている。
火を使う事を考えると、森から離した方が良いと、色々と考えていた。
話を聞きながら何だかんだ言いながらも村長だなと感心する。
俺に意見を聞かれるが、概ね同意見だと答える。
「この件とは別にタクトに聞きたい事がある」
「何だ?」
「村の者が、迷いの森でエルフらしき者を見たと言っていてな」
「あぁ、それか。今、森に三人暮らしているぞ」
「やっぱり、お前の仕業か」
「いやいや、俺のせいじゃないぞ。たまたまだ」
ゾリアスから話が出るまで、エルフ三人娘たちの存在を完全に忘れていた。
元奴隷で、エルフの集落からも追い出されて行き場を失った娘達を、とりあえず森で保護していた。
「そのエルフ達が何か問題でもあるのか?」
「エルフは森の守護者だ。人知れず暮らして、森に害を加える者に制裁を加えると言われている。森にエルフが居るのであれば、森の物を採取したり伐採する際に、問題が起きる可能性がある」
「……そうなのか?」
エルフが森の守護者と言うのは、何となく分かる。
それに制裁を加えるのであれば、樹精霊も同じだろう。
俗世との関りを嫌うエルフ達が、そう簡単に発見される事も気になる。
「ゾリアスの言いたい事は分かった。ちょっと、聞いてみるから一緒に来てくれるか」
「……今からか」
「あぁ。直接、本人達から聞いた方が良いだろう」
迷うゾリアスを無視して、森に【転移】する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
森に着くと、樹に手を当てて樹精霊のリラと連絡を取る。
リラが俺達の所まで、エルフ三人娘を連れて来ると言うので待つことにする。
「お待たせしました」
リラの後ろに、レイ達エルフ三人娘が居た。
見た感じ、元気が無い。
「そちらの方が、ゴンド村の新しい村長ですね」
笑顔でゾリアスの方を向く。
「タクト。この美人は誰だ?」
ゾリアスは、リラの幻術で目の前の女性が、樹精霊のリラだと分かっていない。
村の木像と姿が異なるので、分からないのは無理も無いだろう。
「樹精霊のリラだ」
「……村の姿と違うぞ」
「あぁ、それは幻術を使っているからだ」
「本当か?」
「嘘を言う必要が無いだろう」
ゾリアスは俺の言葉を疑っていた。
「そうですね。では、これでどうですか」
リラは幻術を解き、本来の姿に戻る。
ゾリアスは驚き、言葉を失う。
「なっ、俺の言った通りだろう」
「あぁ……」
とりあえず、俺の言葉に相槌する。
「御挨拶が遅れて申し訳御座いません。新しくゴンド村の村長になりましたゾリアスと申します。いつも、森の恵み等を頂き有難う御座います」
思い出したかのように、ゾリアスは自己紹介する。
リラは笑顔で答える。
「俺達が来た理由も分っていると思うが、レイ達から聞いた方が良いのか?」
「そうですね」
リラがレイの方を向くと、レイは一歩進んで俺達にと言うか、ゾリアスに挨拶をする。
「私はレイと申します。こちらがノエルとカエラです。訳あって、今はこの森でお世話になっております」
俺と別れた後、エルフの集落の長であるカリムから連絡があり、正式に集落への出入りを禁じられた。
誇り高きエルフが、奴隷になった事を良く思わない者達の心は変わらなかったそうだ。
カリムからも謝罪の言葉を口にするが、エルフ族の総意になるので決定は覆らない。
レイ達は正式に『奈落の密林』にあるエルフの集落の者では無くなり、帰る場所も無くなる。
事情を知ったリラが、この森に住んで良いと正式に許可を与えるが、一から自分達の住む居場所等を探し作って行かなくてはいけない。
武器らしい武器も無い為、狩猟等も簡単に出来ずにいた。
リラが俺に相談する様に持ち掛けたが、なかなか連絡する事が出来ずに時間だけが過ぎて行く。
森の中央付近から行動範囲を広げると、人目に付く可能性が高くなるので、行動範囲も限られていた。
しかし、森の中央にもゴンド村の者達は魔物も恐れずに侵入して来た為、不意に見つかってしまったそうだ。
「それで、これからどうするんだ」
レイの話を聞く限り、八方塞がりだ。
エルフは条件付きで不死とはいえ、このまま同じ生活をしていても、いずれはゴンド村の者以外に見つかるのだろう。
レイが話をしている後ろで、カエラは泣いていた。
彼女達は被害者だ。なんの非も無い。
自分達がこのような状況になってしまった事に納得も出来ていない。
「私達は、同族にも集落にも見放されたのです」
悔しそうにレイは語る。
「もうエルフの誇りも何もありません。恥を承知で御願いがあります」
レイはそう言うと振り返り、ノエルとカエラの方を向く。
ノエルとカエラも一歩進む。
「私達をゴンド村に住まわせては頂けないでしょうか」
エルフ三人娘は声を揃えて頼む。




