481話 副村長!
ゾリアスと壇上から下りる。
「ドワーフ族の事は聞いたか?」
「あぁ、さっきトブレからな」
「正直、俺一人では処理出来ないぞ」
「確かにそうかもな」
何でもかんでもゾリアスに任せては、いずれ破綻してしまう。
「後で今後の話をするか」
「そうだな、タクトには副村長をやって貰わないといけないからな」
「他に適任者が居るだろう」
「村長の相談役は、副村長だろう?」
俺にはその理屈がよく分からなかったが、村長命令だと笑いながら任命された。
「こういう時だけ、村長権限を使うのかよ」
「今、使わずにいつ使うんだ」
形だけの副村長だと言うのは分かっている。
俺もゾリアスの助けくらいはしたい気持ちはあるので、笑いながら了承する事を伝えた。
「一度、ジークを訪れて領主のリロイ様に御連絡しないといけないな」
「村長が変わっても、別に連絡する必要は無いんだろう」
「そう聞いてはいるが、やはりケジメと言うか、俺自身が納得出来ないんだ」
相変わらず律儀な性格だ。
「それなら、リロイに来て貰えばどうだ」
「……あのな、村長が変わったので、領主様に村へ来い等とは無礼にも程があるだろう」
「そこは友人である俺が村に招待すれば良いだけだ」
「物は言いようだな」
「副村長だから、少しは役に立たないとな」
俺はその場でジーク領主のリロイの連絡をする。
「久しぶりだな、リロイ」
「タクト、久しぶりですね。何かあったのですか?」
「今、暇か?」
「相変わらず、突然ですね。暇ではありませんが、時間は取れますよ」
「今からゴンド村に遊びに来ないか? 村長が変わったので挨拶したいと言っている」
「そういう事ですか。息抜きがてらニーナとお邪魔します」
「おぉ、分かった。用意が出来たら、迎えに行くから連絡くれ」
「分かりました。又、後で」
リロイとの連絡を終える。
「分かってはいたが、領主様を来させるなんて凄いな」
「領主として、管轄下の村を視察するのも仕事だろう」
「後付けの理由だろうが……」
ゾリアスは呆れた顔をしていた。
「そういえば、この間お前の所の女帝が挨拶に来たぞ」
「女帝?」
「四葉商会のマリーさんだ」
マリーは女帝と呼ばれているのか?
イメージ的にはピッタリだが……。
「なんで、マリーが女帝なんだ?」
素朴な質問をする。
ゾリアスが言うには、最初は少しの間この村に滞在していた事もあり、マリーと呼んでいたがゾリアスが一応、四葉商会の代表の肩書があるので呼び捨ては駄目だという事になった。
マリー自身、この村で『代表』と呼ばれる事が嫌なので別の呼び名でと希望があったが、さん付けも嫌だと言う。
仕方が無いので、他の案を考えていた時にモモが『女帝』と呟くと皆がピッタリだと納得したそうだ。
マリーは拒否したが、『代表』と『女帝』なら『女帝』の方がマリーのイメージだと村民達が言うので、渋々承諾したみたいだ。
「モモが名付け親か。センスがあるな」
「俺もそう思う。お前も女帝には逆らえないだろう」
「あぁ、女帝は魔王よりも怖いぞ」
「それは凄いな」
二人して大笑いする。
「それで挨拶と言うのは、四葉商会の代表になったという事か?」
「あぁ、そうだ」
「何か困った事があれば、マリーが助けてくれると思うから遠慮無しに言えよ」
「それは、助かる。ユラじゃなかったユイも元気だと教えてくれたし、お前達には感謝しかない」
「それはお互い様だろう」
「何を馬鹿な事を……」
俺の言葉にゾリアスは不思議そうだったが、ゾリアスが俺に恩を感じているように、俺もゾリアスには恩を感じている。
それが大きいか小さいかは別の話だ。
「ユイのデザインした服は評判がいいぞ。王妃の着ている服もユイがデザインした物だ」
「何! ユラは王妃様の服もデザインしているのか」
ゾリアスは驚いていた。
昔の名で呼んでしまうのは、まだ慣れていないからだろう。
「王妃だけでなく、国王やルンデンブルク家のもユイがデザインしているぞ」
「そうか」
ゾリアスは嬉しそうだった。
捨てられたボロボロのユイを面倒見ていたゾリアスなので、ユイの成長は余計に嬉しいのかも知れない。
考えてみれば、この村の半数以上は既に移住者だ。
大きな問題も無く過ごせている事は、珍しい事だろう。
アルやネロの抑制もあるが、ゾリアスの人柄も大きく影響しているのも事実だ。
そう思いながら村を見渡す。
……忘れていた。
「ゾリアス、悪いが頼みがある」
「なんだ?」
俺はゾリアスと、神祠まで移動して【アイテムボックス】から、今の木像よりも大きいエリーヌとリラの木像を取り出した。
「樹精霊リラから、これを飾ってくれと頼まれた」
俺は申し訳なさそうに話す。
「これは神祠も造り直しだな」
「悪いな」
「それで、今迄の木像はどうするんだ?」
「それは、彫師のクラツクにでも、あげてくれ」
「良いのか?」
「あぁ、クラツクもその方が良いだろう」
「俺達だけで勝手には決められない。クラツクを呼んで来るから待っていてくれ」
ゾリアスはクラツクを呼びに行った。
俺的には、この神祠は残しておきたい気分だった。
この世界で、俺が初めて神の使徒として行った事だからだ。
村の者やアルにネロ達と、一緒に作ったのが懐かしい。




