472話 価値観!
ゴンド村に戻ると、木の台と机が設置されていた。
俺は料理を机の上に並べる。
遠巻きにいた子供達は嬉しそうに寄ってくる。
「お兄ちゃん。雲の御菓子ある?」
「あぁ、あるぞ。もう少しだけ待っていろよ」
「うん」
綿菓子がある事を知った子供達は、元気に去って行った。
遠くで「雲の御菓子あるって」と子供の声がしたので、他の子供達にも教えて回っているようだ。
「祭りの準備か?」
午前中の作業が終わったのか、休憩なのか分からないが、トブレを先頭してドワーフ族達が集まって来た。
「ちょっとした宴会だ」
「宴会だと! 酒はあるのか」
「あぁ、勿論だ。トブレ達も参加してくれ」
「当たり前だ。タクトよ、今日は呑み明かすぞ」
嬉しそうなトブレだが、この様子だと午後からは休業だと思いながら、トブレと話をする。
「それで俺に用があると言っていたが何だ?」
「あぁ、実はだな」
俺はトブレに新しい道具の提案を幾つかする。
ガラス細工が得意なザルボの協力も必要な物もある。
「何に使うかは分からんが、タクトは相変わらず面白い発想をしているな」
「まぁな。それと以前に作って貰ったこれを実際に使っている所が見れるぞ」
俺は綿菓子製造機を【アイテムボックス】から出す。
「あぁ、言われた通りに作っただけだからな」
完成した物には、あまり興味が無いようだった。
「タクト!」
三階からアルが俺を呼ぶ。
ビンゴ大会の景品を見ろと言っていた。
「今から、そっちに行く。トブレ、またあとでな」
「おぅ」
トブレと別れて、アル達の所まで歩く。
「これなら文句ないじゃろう」
部屋に置いてあるというよりは無造作に置かれた物達。
自慢気なアルとネロ。
その片隅で、セフィーロは既に飲み物を口にしていた。
「とりあえず、説明をしてくれるか?」
「おう」
アルから説明を受けるが、景品とは別に宴会用の『火龍酒』が山積みだった。
幻の酒と聞いていたが、簡単に造れるのだろうか?
「アル。この酒は貴重なのだろう?」
「いや、造ろうと思えば里で簡単に造れるぞ。だから、気にせずに呑め」
「……分かった」
龍人族と交流が無いから、幻の酒になっていたのだろう。
アルは無造作に置いてある景品の横に行き、一つずつ説明をしてくれた。
前回同様に『コカトリスの卵』が四つ。『グランニールの爪・鱗・髭』の三点セット。
一応、学習はしているようだが……。
ネロはと言うと、セフィーロの許可を取ったのか、吸血鬼族らしい拳大の『血晶石』に、人族と戦闘した際の戦利品である『剣』と『盾』だった。
ネロに聞くよりセフィーロに聞いた方が早いと思い、それぞれの価値等を聞く。
「そうね。随分と昔に血晶石は、人族の間では高価だと聞いた事があるわよ。剣と盾は、私を倒そうとした勇者とか名乗っていた者達の忘れ物ね」
忘れ物と言っても、セフィーロが倒した者達の武器や防具なので、既に所有者はこの世に居ない事は間違いない。
そもそも、本当に勇者なのかさえも分らない。
名乗るだけなら、誰でも勝手に勇者になれる。
「血晶石は、成功率が低いけど作ろうと思えば幾らでも作れるわ。それに、剣や盾も使わないから邪魔なのよね」
飲み物を片手に笑いながら、セフィーロは話す。
前回の景品予定だった紅水晶は、血晶石の失敗作だと話していた。
確か、紅水晶でも高級品だったと思ったが……。
「アルとネロの気持ちは嬉しいが、これでも十分に高価過ぎる」
「それは、タクトの考えじゃろう。村の者達は喜ぶかも知れんでは無いか」
「そうなの~」
確かに、そう言われると俺の判断で景品を決めるのは、駄目な気がしてきた。
しかし、このような物が村の者達が持っていたとして良いのだろうか……。
「分かった。今回の景品は五つで『コカトリスの卵』『グランニールセット』『剣と盾』に『血晶石』と『紅水晶』だ」
「流石、タクトだ」
「やった~なの~」
喜ぶ二人に対して、俺は本当に良かったのかと自問自答を繰り返す。
「高価過ぎて、村の者が受取を拒否する場合は俺が買い取るという事になるからな」
「良いのじゃ。どうせ、妾が一位じゃからな」
「一位は私なの~」
嬉しそうなアルとネロを見ながら、セフィーロも参加するつもりらしい。
この中で一番危険な人物なので、不正だけはしないように言う。
「大丈夫よ。この景品で興味がある物は無いから」
片手で飲み物の器を左右に揺らしながら笑う。
俺は【アイテムボックス】に部屋に散らかっていた物を仕舞う。
セフィーロ居るのであれば、俺の血をこの場で提供すれば良いので、適当な器を【アイテムボックス】から取り出す。
「この器に血を出すが良いか?」
「えぇ、構わないわよ」
俺は手刀で、手首を傷つけて器に血を垂らすが、【自動再生】ですぐに血が止まってしまった。
「あら、タクトは面白い能力を持っているわね」
「まぁ、色々とあったからな」
どうも、セフィーロと二人で話すのは苦手だ。
こちらの事を全て見透かすような言動だ。
苦手ではあるが不快では無い。
「仕方が無いから貴方の腕から、直接飲むわ」
そう言うと俺の腕を引っ張り噛み付く。
「前より、熟成されていて美味しいわね」
「……それは、どうも」
俺は答えようが無かったので、適当に返す。
「あ~! お母様、ズルいの~」
ネロが気付いて俺の血を吸おうと走ってくる。
「お前は、散々吸っているだろう」
走ってくるネロの頭を押さえて拒否する。
「ズルいの~、私も吸いたいの~」
完全に駄々をこね始めた。
「ネロ。私は今、食事中なのよ」
セフィーロは、ネロを睨みつける。
「ごめんなさいなの~」
ネロは叱られて、項垂れる。
不死身のヴァンパイアロードであれば、最強なのは間違いないが強さを聞いた際に何故、ロッソとは相性が悪いと言ったのかが気になった。
しかし、この状況で質問する気にはなれない。




