469話 受け入れがたい現実!
「何だ、これは」
フリーゼが、村に入った第一声だった。
壁の中には、真新しい家が立ち並び、様々な種族が行き来している。
自分の領土であるネイトスよりも、立派な街並みに感じたのだろう。
「まだ、建築中の家が幾つかありますので、気を付けて下さい」
そう言いながらゾリアスは、村の中を案内してくれる。
アルの横にはヘルハウンドのクンゼが一緒に歩いていた。
大型犬を散歩させている小学生にしか見えない。
すれ違う者達は、ルーカスやフリーゼに挨拶をする。
前回、ルーカスが王族でなく同じように接する事を言っていた為、言い付けを守っているのだろう。
「タクトさん、お帰りなさい」
双子のシズとリズが、世話になっている老人と一緒に挨拶をしてくれる。
「……忌み子まで居るのか」
「領主夫人。悪いがその言葉は使って欲しくない。この村にはそのような風習は無い」
「悪かった」
俺がシズとリズの事を『忌み子』と言った事に対して、フリーゼに文句を言う。
フリーゼも悪意は無かったのか素直に謝罪をして、シズとリズに対しても頭を下げて謝罪をした。
「気になさらずに。もう、私達自身が『忌み子』と言われようと関係ありませんから」
笑いながら、フリーゼに謝罪が必要無いと言う。
「強くなったな」
「はい」
シズとリズは二人同時に答える。
流石は双子だ。
その後も、コボルト達の農場や、ドラゴンの休憩場所、広場の神祠等を見る。
村の外壁に階段があり見張り台等もあるので、村の規模では無いとルーカスやダンガロイは言っていた。
たしかに、村の木の柵で囲われているイメージだ。
既にゴンド村は小さな村で無く、中規模な村の大きさのようだ。
王都のように街灯が幾つも設置されているのには驚いたが、村の皆で話し合い神祠のある広場と、そこに続く道に街灯を設置したようだ。
街灯に必要な『発光石』はアルとネロが用意したらしいが、かなり品質の良い石らしく街を明るく照らしてくれると教えてくれた。
案内の途中で、建築作業をしているドワーフ族の中にトブレが居たので、後で話がある事を伝える。
「狭いですが、こちらで休憩して下さい」
村の案内を終えたゾリアスは、俺の家になる一階の集会所に皆を案内した。
集会所には、前村長のゴードンが俺達を待っていた。
楽しそうなルーカス達とは対照的に、フリーゼ達は顔色が悪かった。
「何故、魔族と人族が笑って一緒に居られるのだ」
フリーゼは、ブツブツと呟いていた。
ダンガロイは、このような村がある事に驚いてはいたが、否定的な感じでは無いようだ。
ルーカス達客人が椅子に座ると、吸血鬼族との半魔人であるナタリーが飲み物を運んできた。
「元気か?」
俺の前を通る際にナタリーに声を掛ける。
「はい。お陰様で元気です」
「そうか」
笑顔で答えるナタリーに俺も、笑顔になる。
しかし、吸血鬼族が人族であれば、ナタリーは半魔人では無くなる。
そもそも、人間族と吸血鬼族の混血は可能な筈なので、ナタリーに関しては半魔人を作り出すのが目的では無く、別の実験目的があったのかも知れない。
最も、大前提となる吸血鬼族と魔族の混血が可能という事を知らなければ別だが……。
「ゾリアス殿。この村について、このような状況になった経緯を説明頂けますか」
ダンガロイがゾリアスに詳しい説明を求めた。
ゾリアスは俺を見るが動かず居ると、話す気が無いと感じ取ってくれたのか、説明を始めた。
説明に入ってすぐに、前村長のゴードンに代わり俺と出会う前の状況から話始めた。
その後、俺がゴブリンの集落から捕らわれた娘達を救出して、ゴブリンの集落を壊滅させた事。
続けて、森の管理者である樹精霊のリラから、『迷いの森』を正常にしてくれた事や、リラに頼まれてオークの集落を壊滅させた事。
そして、ゾリアスに代わり自分達がジーク領で俺にして貰った事や、ゴンド村に移住した事。
人体実験の被害者である半魔人や、コボルトの奴隷場からコボルトを受け入れた事も包み隠さずに話す。
ナタリーに関しては、実験の副作用の事や、俺達に命を救って貰った事をナタリー本人の口から説明をしてくれた。
ゾリアスはナタリーの話が終わると、アルとネロの移住や、村の開発等に協力してくれているドワーフ族の事も丁寧に説明をする。
来客としても、ネロの母親でヴァンパイアロードのセフィーロや、ラミア族にグランニール率いるドラゴン族の事も説明してくれた。
ゾリアスの説明が終わると、フリーゼは魂が抜けたように呆然としていた。
暫く放置していたが、見かねたダンガロイがフリーゼに声を掛ける。
ダンガロイの声でフリーゼは正気に戻る。
「有り得ぬ。認める訳にはいかぬ。魔族どころか樹精霊とも交流があるだと……」
フリーゼは現実を受け入れられない様子だ。
仕方が無いだろう。自分が今迄、固執していた概念が崩れ落ちたのだから……。
「ところで、ゾリアスの後任者は何処に居るんだ?」
「顔を会わせ辛いのか、隠れているだろう」
「相変わらず律儀というか……。クンゼ、悪いがローズルを連れて来てくれないか?」
クンゼであれば、ローズルが隠れていても匂いで分かる筈だ。
「ガルゥ」
クンゼは返事をすると飛び出していった。
「おい、あのヘルハウンドは人族の言葉が分かるのか?」
「クンゼは人体実験の被害者だ。狼人族の脳をヘルハウンドの体に移植されている」
「なんだと!」
「因みに、知っているかは分からないが、このような実験を行っていたのは魔族でなく人族だ」
俺の言葉にフリーゼは驚く。
裏で動いていたのはガルプツーだが、実際に実験をしていたのは人族なので間違いはない。
ネイトス領で俺の説明をする際に、ルーカスは大まかな説明しかしていなかったので、このような情報は王都でも一部の者しか知らなかったのだろう。
「このような悍ましい事を人族が……」
項垂れるフリーゼ。
受け入れがたい事実と直面したからか、虚ろな目になっていた。




