465話 敗北宣言!
「私の負けだ」
フリーゼが負けを認めた。
俺が【治療】と【回復】を掛けた後なので、まだ戦いは続行出来るが、立ち上がろうとしない。
アルの攻撃で今迄に感じた事の無い激痛を何度も味わい、心が折れてしまったのだろう。
フリーゼは、最後までまともに攻撃する事さえ、アルにさせて貰えないでいた。
瀕死になったフリーゼを助ける事、数回。
戦闘時間は、三十分程度だ。
アルが一回攻撃する度に、【治療】と【回復】をしていた。
戦闘時間よりも倒れていた時間の方が長いので、殆どフリーゼの傍に居た事になる。
何度か瀕死の状態だったので多少は焦ったが、アルを責める気は無かった。
実力差も分からずに、自分勝手に戦いを挑んだフリーゼに対して同情する気もなかったからだ。
「ここまで、実力に差があるのか……」
「アルとネロは、別次元の強さだ。人族は勿論、魔族でも勝つ者は殆ど居ないだろう」
「それは、嫌味か。お前は、その二人に勝っているのだろう」
「いや、それは……」
俺は言葉に詰まる。
「おう、タクトは強いぞ! この世界最強じゃ」
いつもの如く、誤解を招く言葉を発する。
しかし、こんな事でフリーゼの魔族に対する嫌悪感が拭えるのか疑問だ。
「お主の剣技、ゾリアスに似ておるの。まぁ、ゾリアスの足元にも及ばない程、弱いがな」
アルがフリーゼに向かい話し掛ける。
幼少より王国騎士団に教えて貰っているフリーゼと、元王国騎士団副団長のゾリアスであれば、剣技も似て当然だろう。
「何故、お前がゾリアスを知っているのだ」
「たまに稽古の相手をしているからじゃ」
「……稽古の相手をしている」
「あぁ、そうじゃ。ゾリアスは妾達の村の村長だ。体が鈍るからと、たまに相手をしておるぞ」
「ゾリアスが村長?」
フリーゼはアルが何を言っているのか、意味が分からないようだ。
ルーカスを見ると、顔から血の気が引いていた。
ゴンド村の事は出来る事なら、魔族に対して嫌悪感を持っているフリーゼには、まだ知られたくなかったのだろう。
俺のせいでは無いのが、これからの事を考えると、ルーカスには少しだけ同情する。
それよりも、ゾリアスが正式に村長になった事を知った俺は、とても嬉しかった。
それとゾリアスがアルを相手にして、大怪我しないかが心配になる。
俺の記憶ではゴンド村に、治療出来る者が居ない筈だ。
ゴンド村で、ゾリアスより強い奴と言えば、元護衛三人衆のロキことローズルか、この魔王二人になる。
ローズルは村の警備をしているので忙しいと考えれば、暇な者に相手をして貰うと考えると仕方の無いのかも知れないが……。
アルもゾリアスを相手にしていたから、力の加減も上手く出来たのだろう。
ゴンド村の件は、仕方が無いので、俺から説明をする。
「ゾリアスは俺が世話になっている村で、村長をしている。村長になる前は村の警備の責任者をしていた」
「あのゾリアスがか!」
フリーゼは驚く。
「何を言っておる。あの村は、タクトの村じゃろう」
アルが話をややこしくするような事を言ってくる。
「正確には村は誰の物でも無い。敢えて言うなら、国やジーク領の領主の管理下になる。俺は少しだけ、面倒を見ているだけだ」
「村の者は、お主の村だと言っておるぞ」
「村全体で勘違いしているだけだろう」
「そうなのか」
俺の村と言うのは、村を救った事と村を発展させた為、そう言っているだけだ。
村が個人の物であってはいけない。
俺は、フリーゼにゴンド村の事を簡単に話す。
「村には、魔族と人族が共存している。領主夫人に言わせれば、許しがたい村だがな」
「人族と魔族が共存しているだと、馬鹿な事を言うな」
真剣な話の最中に、俺が冗談でも言っているのかと思ったのか怒り声をあげる。
「姉上。タクトが申した事は事実で御座います。私も、この目で見ております」
「……国王が黙認しているのか?」
「はい。そう捉えて貰って結構です。村の扱いには慎重を期しております」
「そんな事が許されるのか」
「許す許さないの問題では御座いません。仮に私が許さないと思い、村を侵略した場合、逆にエルドラード王国が滅びます」
「何を馬鹿な事を」
「戦力差はアルシオーネ殿と戦った姉上も分かるかと。アルシオーネ殿とネロ殿が本気になれば、造作も無い事です」
アルの力を身をもって知ったフリーゼは、反論出来ないでいた。
「なんにせよ、姉上も一度ゴンド村を御自分の目で御覧になれば、考えが変わるかと思います」
ルーカスは諭すようにフリーゼに語り掛けた。
フリーゼは、自分の中で葛藤しているのか、下を向いたまま動かずにいる。
「まぁ、納得しないのであれば、それはそれで仕方が無いだろう。とりあえず、村を見るだけでも見てくれ」
「……分かった」
フリーゼは心の整理が出来ないまま、ゴンド村を訪れる事に了承する。
「もう、遅いし明日でも良いか?」
「あぁ、構わない」
「じゃあ、明日は皆でゴンド村という事で良いか?」
俺は皆を見渡すと、全員が頷く。
この場に居ない、イース達も反対はしないだろう。
全員を一度には【転移】させる事は出来ないので、アルとネロに協力をして貰う事にする。
いきなり大人数で行っても驚かれると思うので、ゾリアスにはアルから連絡して貰う事にした。




